転生後だって古着が好きなんだもん・・・!

CAST有坂 心花有坂 心花

作者:M

新二コラ学園恋物語新二コラ学園恋物語2024.05.25

キキィーッ





けたたましいブレーキ音





誰かの悲鳴





私の体が
タイヤに飲み込まれた、
その日。





私は転生した。





「お嬢様。
本日のおめしものは
いかがでしょうか」





「いつもどおり
きゅうくつ」





同い年の専属侍女、
レイナ・ヨシモトに
私はブスッとして答える。





今着ているような、
流行のフリルとレースを
ふんだんに使ったドレスは
好みでない。





「まだあんなものを
着たいと思っているのですか?」





「別にいいじゃない」





すねたようにレイナから
視線をそらすと、
窓から外がみえた。





そこに、記億に残る人ごみと
電気の輝く東京の道なみはない。





レンガ造りの家々が広がる、
まるで中世の
ヨーロッパのような景色。





「いいですか、お嬢様は・・・
コハナ・アリサカは、
アリサカ家をつぐのです。
それなのに、あんな平民の
格好をしていてはいけません」





ここでは、私の大好きな
古着は認められない。





「・・・意味分かんない。
絶っ対古着を認めせるんだから」





不満をためこんだ私に、
レイナは大きなため息をついた。













―― 社交パーティ ――





「はー、つかれた!」





私は一人、こっそりと
ダンスホールからぬけ出し、
べンチに座っていた。





そして、誰もいないことを
確認すると、
レイナにかくして持ってきていた
ジャケットを取りだす。





「フフーン。私にだって
ツテの1つや2つくらい
あるんだから」





良さげな生地を秘密裏に
手に入れ、
自分好みのデザインに仕あげた
手作りのジャケット。





私が機嫌よく袖に
手を通したときだった。





「何それカッコイイ!!」





「ギゃっ」





背後からの声にとびあがり
ふり向く。





「驚かせてしまってごめん。
・・・ところで、
そのジャケットはどこで
買ったんだ?」





そこには、
瞳をランランと輝かせた
少年がいた。





「ええっと、私が作ったの」





「君がっ!?
すごい才能だなぁ。
・・・あ、申し遅れました、
アンドウ家次男の、
イルマ・アンドウです」





「あ、たしか最近
勢いにのってる
若手商人でしたっけ。
私はアリサカ家長女の
コハナ・アリサカです」





「アリサカ家?!」





おぼろげに
イルマ・アンドウについての
予備知識を思いだしながら言うと、
彼はあわてたようひざまずいた。





「も、申し訳ございません!
大貴族様にとんだご無礼を・・・」





「あーそういうのいいから。
てか、聞いてよ、
このジャケットのポイントは
ここの切り替えでさ・・・」





日頃のうっぷんを晴らすように
バーっとまくし立てる私を
イルマはポカンと眺め、
不意に爆笑した。





「じゃあ
敬語もやめていいかな」





「もちろん」





「・・・ところで、
話があるんだけど・・・」





さっきとは一転、真剣な顔で
私をみつめたイルマは、言った。





「そのデザインを、
イルマ商会に
買いとらせてくれないか?」





「えっ?」





「もちろん、料金は支払うし、
できれば君をイルマ商会専属の
デザイナーとして
迎えたいとも思ってる」





急な話に
しばしフリーズした私は、
しかし次の瞬間には
勢い良くうなずいた。





(もし・・・イルマ商会から
古着ファッションが広まったら・・・
きっとアリサカ家も
古着を認めてくれる)





そんなことを思いながら。













―― アリサカ家、自室 ――





(まずはおひろめで
ファッションショーを開こうと思う。
そのために10着くらい、
新作を作ってほしいのと、
ブランド名を決める必要もある)





イルマの言葉を思い出し、
私はワクワクしながら
デザインをスケッチしていた。





(ブランド名は、何にしよう)





こうして日々はすぎていく。





・・・こっそりと
部屋のドアからのぞく
レイナの瞳に気がつかぬまま。













―― 3月後 ――





「コハナ。
・・・・これは、一体何かしら」





「・・・・・・お母さま」





それは、ファッションショー
前日のことだった。





突然呼び出された私は、
母、ユア・アリサカが手にした
ファッションショー用に作った
服達に青ざめる。





「またこんなもの・・・
あなたにはたくさんのドレスを
与えているはずよ。
・・・みすぼらしい」





うんざりしたようにため
息をつく母に、
思わずカッッとなった私は
叫んだ。





「お母様!
これはみすぼらしいのではなく、
ファッションの1つなの!」





「おだまり!
大貴族アリサカ家の
長女としての
自覚をもちなさい!
あなたのそのようなだだごねが
社交界で通じるとでも思って!?」





私はギロリと
お母様をにらみつける。





「ええ!
これから通じるようになる。
・・・いいえ、してみせる!
それにイルマ商会は
古着ファッションを認めてくれた!」





「・・・イルマ商会ですって?」





驚き信じられないといったように
お母様は首をふる。





「明日、おひろめの
ファッションショーも
開催されるの」





「ファッションショー!?
いつのまにそんなことを」





「古着は認めないだのなんだの・・・
ファッションショーをみてから言って!」





私が言い切った時だった。





「ユア様、私からも
お願いいたします!」





とつぜん、
私の隣のレイナまで
頭を下げた。





「私は、お嬢様の熱意を
ずっと近くでみてまいりました。
お嬢様は、すばらしいの才能の
もち主です!」





「レイナ・・・・」





私は、胸がジーンを
熱くなるのを感じ、
涙をぬぐう。





「・・・わかったわ。
ファッションショーをみてから
判断してもいいでしょう」





「お母様!
ありがとうございます!」





何としても、
明日のファッションショーは
成功させなければ。





再度、決意を胸に
拳をギュッとにぎりしめた。













―― 翌日、
   ファッションショー会場 ──





「こんなに、たくさんの人が・・・」





私は舞台裏で息をのむ。





会場は満席、
立ち見の者まで
いるほどだった。





ショーが始まった。





たくさんのモデルさん達が
私の作った服をまとって歩く。





「なんだこれは」
「みたことがない」





客席がしきりにザワザワとする中、
ついにショーは最後の1着になった。





最後のトリを飾るのは、
はじめにイルマに
目をとめてもらった、
あのジャケット。





私は愛しのジャケットをはおり
ランウェイへと出る。





ランウェイの中央では、
イルマがまっていた。





渡されたマイクを手に、
私は口を開く。





「・・・新ブランド、『古着屋』
専属デザイナーのコハナ・アリサカです。
本日は足をお運びいただき
ありがとうございました」





シンと静まりかえった会場。





緊張のあまり、
私はごくりとつばを飲み、
おじぎした。





次の瞬間。





ワァァァァァァァァァァァッ!!!





怒涛のような拍手が、
おしよせた─────。















* ‐‐‐ * ‐‐‐ *





その後は、
てんてこまいだった。





注文や、とり引きの商談が
一気におしよせたのだ。





「・・・・なんか、
夢みたいで信じられない」





波が引いた後、
私が半ば夢ごこちのような
気分でつぶやくと





「いいや。
君は、今日社交界に
新たなファッションのとびらを
開かせたんだ。
古着・・・今までの
社交界からしたら
まさしく刺激的で
衝撃的だったに違いない。
君は、きっと歴史に
名を刻むことになるよ」





イルマの言葉に
思わず息をのむ。





「・・・いいえ、イルマ。
あなたも一緒に
名を刻むのよ」





「ああ。そうだな」





私達は顔を見合わせ、
笑い合った。





その後、
古着ファッションが大流行し
無事お母樣も古着を
認めてくれたのだった。





「・・・ところで、
イルマ様とは
あの後どうなんです?」





「どうって?」





ニマニマとしたレイナ。





私はなぜか心臓が
ドクンッと高鳴ってしまうのを
感じた。





「しらばっくれなくても
いいのですよ?
お嬢様、
分かりやすいんですから」





「な、なにがよ」





「フフフ」





この胸の高まりは
イルマのことを忘れるまで
止みそうになかった。







*end*

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