美少女スイッチ
作者:M
あなたは
魔法を信じますか?
これは、
魔女と出会った
とある中学生の物語・・・。
* ‐‐‐ * ‐‐‐ *
ピーンポーン
玄関ベルの音に、
ドアから顔を出した私・・・
有坂心花・・・は、
目が合った人物に
パッと表情をゆるめた。
「───はい、コレ。
プリントとか入ってるから」
持っていた紙袋を
突き出したのは、
幼なじみであり、
私の想い人でもある
八神遼介である。
「───ありがとー! 助かる」
受け取った後、
はにかんだとき
咳がでた。
「───ゴホッゴホッ」
「───大丈夫か・・・・・・
熱なんだよな、
お大事にな」
「───────うん」
「───じゃ」
小さくなっていく彼の背を
しばらく見つめた後、
私はパタンとドアを閉めた。
─── 翌日 学校 ───
「───コハナ、
完全復活でございまーす!」
朝1番大声をだした私に、
親友の白水ひよりは
笑顔を浮かベた。
「───うむ。
元気そうでよろしい」
じゃれ合う私達の横を
スッと通った人影に
「───あ!」、
と私は呼び止めた。
「───リョースケ
昨日ありがとねー!」
ふり返った彼は、
私を目にすると
「───・・・・おう。
良かったな、熱下がって」
手短かにそう言うと、
そそくさと男子の輪の方へ
去っていく。
「───ムー・・・・・・
あいかわらず、つれない・・・」
すねたように
口を鋭らせると
ヒヨリは苦笑した。
「───いやー
中3にもなると
あんなもんでしょー」
(昔は・・・・・・・)
そっと、男子の輪で
声を上げて笑っている遼介に
視線を向けた。
(昔は2人ずっと一緒で───
隣で笑っているのは
私だったのに・・・)
「───ってかコハナ、
進路調査書、出した?
あたしまだでさ・・・」
「───ああっ、忘れてたっ」
「──────ヤバいよ。
締め切り来週だし」
「───マジか・・・・・・
早いもんだな、3年間って」
「───いきなり笑」
(・・・リョースケは
どこ志望なんだろ)
ふとそう思い、
彼の方へ目をやる。
そんな私の視線の先に
気がついたひよりは
苦笑した。
「───がんばんな」
「───うん・・・・・・」
彼の隣には
うちのクラスのマドンナ、
松尾そのまが
楽しげに笑っていた────。
・*。・ 放課後 帰り道 ・。*・
「───やっぱさ
───顔可愛いい方が
いいのかな・・・」
松尾さんと笑い合っていた遼介が
頭にちらついて離れず
ぐちをこぼすと、
ひよりも少し答えにくそうに
うなずいた。
「───それだけでは
ないだろうけど・・・・・・
まあ、顔は良いに
こしたことはないかもね―――」
今日だけではないのだ。
最近、急速に
遼介と松尾さんは
距離が近くなっている。
従って、私のモヤモヤも
蓄積されていっている訳だが。
「───あー
美少女に生まれたかったー!」
やけくそぎみに
そう怒鳴ると
カラスが慌てて
飛び去っていった。
そのときだった。
「───・・・・・・私なら
可能であってよ?」
ハッとふリ向くと、そこには
真っ黒の長い髮の
ゴスロリに身をつつんだ
少女がいた。
「───私、魔女の
チョコ・ブラックといいます。
話はうかがったわ。
お力になれましてよ」
あやしく笑う彼女の迫力に
気押され
ぽー、としている私の腕を
ひよりが強く引いた。
「───ひっ、人違いです!」
「───あっ、お待ち!」
そう言うやいなや
駆け出したひよりに、
こけそうになりながらも
引っ張られていく私。
魔女と名のった少女の姿が
見えなくなると、
ホッと息をつき足を止めた。
「───絶対あれヤバい人だよー。
振り切れて良かっ・・・ーッ!?」
ゆらり、と
目の前の空間がゆらいだ。
突然のことで
身動きもできず
立ちつくす私達の前で、
そのゆらぎの中から
黒髪とゴスロリの少女が現れる。
「───ごきげんよう。
また、お会いしましたね」
「───・・・ッッ!」
ぞわり、と全身から
嫌な汗がふきだす。
あっけにとられた
次の瞬間には
えたいの知れない
この少女への恐怖で
胸がぬり潰される。
そんな私達の様子に、
少女は少し悲しげに笑った。
「───ご安心して下さいな。
私はただ、
可愛くなりたい女の子に
お力ぞえしたいまでですわ」
その言葉と共に、
どこともなく取り出した
スイッチを
少女は差し出した──。
「───目を閉じて、
このスイッチを押すと、
理想の顔になれましてよー」
急きょ開いた女子会
私の家で、少女・・・
チョコ・ブラック・・・を
再現した私の向かいで、
ひよりはうなった。
「───信じがたいけどー・・・・・・
信じざるをえないかも」
空間のゆらぎ。
どこともなく現れた
このスイッチ。
チョコがブラックのかもしだす迫力。
「───百聞は一見にしかず!
とりま、本当に
そんな力があるのか試してみよ!」
私は、勢い良く目を閉じる。
そして、手にした
スイッチのボタンを
カチッと押すと・・・・・・
(・・・・・・)
(────あれ?
何も起きない?)
予想していたような
何か特別な感じも何もなく、
いささか拍子抜けして
目を開く。
「───コ、コハナ・・・?」
まず視界に入ったのは
顔を青くして固った
ひよりだった。
「───か、鏡見てみて・・・・・」
信じられないとでも
言うように
私を凝視するひよりに、
まさかと思い
全身鏡の方に振り返る。
そして、息を飲んだ。
(っ・・・!)
こちらを見つめ返していたのは、
見知らぬ、
それはそれは
美しい少女だった。
「───うそ・・・・・
これが私?」
天使の輪を描く髪に手をやると
サラサラと指のすき間から
こぼれ落ちた。
大きな瞳は
長いまつげでふちどられ、
ピンク色に染まったくちびるは
ポッテリとしていて愛らしい。
「───それ、
戻れるんだよねー?」
鏡の中の自分に
魅入っている私に
ひよりがこわごわと
腰を上げた。
(もう一度目を閉じて
スイッチを2回押すと
元の姿に戻れますわ―)
チョコ・ブラックの言葉を思い出し
実行すると、
次の瞬間には鏡の中の少女は
見慣れた自分に戻っていた。
「───効果あるのは
分かったけど・・・・・・
なんか怖くない?
副作用とかあるかもだし」
「───まあ───それは・・・
そうだね」
消極的なひよりに対し、
私の気持ちは、かなり
このスイッチに傾いていた。
「───使うのそれ?
あたしちょっと反対かも。
えたいも知れないし・・・」
でも、ひよりの主張ももっともで、
反論できず曖昧にうなずく。
「───うん・・・・・・・」
・*。・ 日曜日 ・。*・
「───いってきまーす!」
今日は、
足りなくなったノートなどを
買う用事を済ませるため、
近所のショッピングモールに
自転車で向かう。
お昼少し前で、人もまばらだ。
そんな中、本屋さんで
買い物を終えた私は
見知った顔を見つけ、
駆け寄った。
「───リョースケじゃん!
何してんの、ひとり?」
(やった、
休みの日に会えるとか
ラッキー!)
内心テンションが
上がっていた私は、
振り向きざま、
あっという表情をした彼に
小首をかしげる。
「───あーちょっと・・・・・・」
「───ごめーん! 侍った?」
遼介の言葉をさえぎり、
急に割りこんできたのは────
松尾さんだった。
「───お、松尾さん?」
「───あーええっと・・・・・
ちょっと買い物に
付き合ってもらってるっていうか」
きまずそうに
遼介がそう言う。
その態度に
胸がドクンッと
嫌な音をたてた。
足から力が抜け、
よろめき後ずさった。
「───あーごめんっ
おじゃまだよね、私」
心なしか重くなった空気に、
張りついた笑顔をうかベ、
なんとかそう言うと
無我夢中で私は走りだした───。
気がつけば、
家の前にいた。
ドアを開け、
2階の自室に上がると
床に座りこむ。
ひとしきり泣くと、
少し落ちついてきた。
(───多分あの2人、
付き合ってるんだ・・・)
暗い面もちのまま
うつむいていたとき、
手に何かが当たった。
目を向けると、そこには
昨日もらったスイッチがあった。
(これを使えば、
私にだって
ふり向いてくれるのかな──)
うかんだ思いに
私はすぐさま夢中になった。
ギュッとスイッチを握った私が
自転車をモールに
置き忘れてきたことに
気がつくのは、もう少し後の話。
──―― 翌週 ────
(・・・・・・・いた!)
私は草かげにかくれて
遼介を探していた。
(やっぱり。
いつもこの公園で
ゲームしてるから──)
私は、考えた
「──遼介をふり向かせ作戦」
を思い返す。
1、スイッチを使って美少女になる。
2、道に迷ったと言って案内してもらう。
3、ライン、連絡先交换
4、距離を縮めていってつき合う!
(・・・・よし)
私はギュッと目をつぶり、
スイッチのボタンを押す。
そして、
遼介の座っているベンチに
駆け寄った。
「───あの・・・・・
道に迷ってしまって」
私の声に目を向けた遼介は
驚いた表情をしたあと、
ポッと顔を赤くした。
(おおー!
美少女パワーすげ───!!)
内心ガッツポーズをしながら
続けて言う。
「───〇〇ショッピングモール
なんですけど・・・・」
「───ああ!
良かったらそこまで
案内しましょうか?」
「───お願いします!」
(いよっしゃあああー!)
「───ニコラ学園の人ですよね?」
「───えっ、俺を知ってるんスか!」
「───何度か
すれ違ったことあるので───」
道中も会話ははずんだ。
(いつも私が話しかけても
そっけなかったのに・・・・)
うれしい反面、
少し複雑な心境だ。
「───よかったら
連絡先交換しない?」
気がつけばもうお互いため口で、
私の言葉にも
遼介は快くうなずいてくれた。
全ては順調に思えた、
そのときだった。
「────八神くんじゃん!
その人は?」
突然の声に、足が止まる。
ふり返った遼介は
彼女───松尾さんを目にし、
笑みをうかべた。
「───おー松尾さん。
この人はええっと・・・」
「───町田優未です。
リョースケくんには
道案内してもらってるの」
「───そーなんだ。
うちは、松尾そのまです」
とっさに偽名を名のった私に
松尾さんは笑いかけた。
(やっぱり可愛いな・・・・・)
悔しながらも
そう思ってしまった私は、
気がつくとポツリと
質問していた。
「───2人は、つき合ってるの?」
「───「───ええっ!!?」」
驚き声を上げた後、
遼介があわてたように口走った。
「───ち、違うって!
俺、他に好きな人いるし!」
(えっ───)
「───松尾さんとは
その子にあげるプレゼント選び
手伝ってもらってるだけ」
「───プしゼントあげるの?」
松尾さんヘのわだかまりが
消えた私は
ふと気になり問う。
「───俺らもう中3で
卒業だから───
最後にその子に想い伝えたくて。
そのときに渡すんだ」
顔を真っ赤に染め、
ポツポツ語る遼介を見つめる。
(ここまで聞いちゃったら──
きいてもいいよね?)
私は、大太鼓のように
打ち鳴る胸をおさえ、
「───その子って、───誰?」
「───名前きいても
分かんないと思うけど・・・・・・
俺の幼ななじみで──
いつも元気なやつ」
(・・・・えっ・・・・?
それって───)
言った後、りんごのように
赤くなった顔をごまかすように、
彼ははずかしそうにそっぽ向いた。
「───八神くんねー
その子に話しかけられても
はずかしくていつも
超塩対応なんだよー」
「───ちょっ、松尾さん!」
からかうように笑う
松尾さんの言葉を
頭の中でくり返す。
もう、ほぼ確信していた。
「───遼介くんは
その子のどこが好きなの?
顔?」
「───顔ってw」
「───そんな訳ないだろ・・・
もち、性格だよ」
ぶふっと吹き出した松尾さんと、
少しあきれた目を向けてきた遼介を
交互に見る。
「───そっかー」
「───あ、着いた。
あれが〇〇ショッピングモールだ」
「───ありがとうー
めっちゃ助かった」
「───じゃあ俺らはここで」
「───じゃーねー」
手を振り、
遼介と松尾さんの
小さくなった背を見た。
私はそっと目を閉じ、
スイッチのボタンを2回押す。
「───最初から───
こんなスイッチ、
使わなくても良かったんだ」
(俺の幼ななじみで──
いつも元気なやつ)
(───もち、性格だよ)
温かい気持ちが、
胸から指先まで
広がっていく。
もし、スイッチを使って
美少女の姿で
遼介と付き合うことになっても
本当に心の底から喜べただろうか。
────否。
そもそも
女子の顔しか見ないような
人ではなかったのだ。彼は。
私自身を見てくれていた。
私は、お店のガラスに映った
自分にほほ笑む。
いつしかスイッチは
消えていた────。
・*。・ 1ヶ月後 卒業式の日 ・。*・
「───コハナ・・・
ちょっと来て」
私は遼介の後に続いて
歩いていた。
人気の少ない校舎裏にくると、
彼は私に向き直り、
手にしていた紙袋をさしだした。
「───・・・・これは?」
中には
犬のふで箱があった。
「───高校で使えるかなと思って──」
(──うれしい)
「───ありがと!」
パッと笑顔になった私の前で、
不意に遼介は深呼吸し、
意を決したように
私を見つめた。
「───あのさ、
伝えたいことがあるんだ」
「───-何?」
ドクン、と胸が高なる。
期待が心ではじけて
跳ねていく。
私も、遼介の瞳を見つめ返す。
「───ずっと好きでした!
付き合って下さい!」
(────!!)
「───はい・・・・・!」
あなたは
魔法を信じますか?
これは、
魔女と出会った
とある中学生の物語・・・・・・・
(お終い)
有坂 心花
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