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風のコート、君と、夏の終わり

CAST星乃あんな星乃あんな

作者:結喜

新二コラ学園恋物語新二コラ学園恋物語2025.11.08

・*。・ アンナ side ・。*・





放課後の風が、少しだけ
冷たくなってきた。





夕陽のコートでは、黄色いボールが
何度も音を立てて跳ねている。





リヒト先輩のサーブ。





それを受ける、後輩たちの
ラケットの音。





その全部が、アンナには
胸の奥で鳴る鼓動みたいに
感じられた。





「また見てる~。
しかも、目がハート」





横からペットボトルを
突きつけてくるのは、ソノマ。





「ち、ちがうし!
マネージャーだから
フォーム見てるだけ!」





「ふ~ん、
“好きだから見てるだけ”の
言い間違いじゃない?」





「ソノマ~!」





ソノマは笑いながら、
ボールを集めに行く。





アンナは、小さく息をついた。





ほんとは、バレバレなんだ。





だって、自分でも気づかないふりが
できないくらい――
リヒト先輩を目で追ってしまう。





練習が終わって、
コートの片づけをしていると、
背後から声がした。





「アンナ、助かる。
いつもありがとうな」





「ひゃっ・・・リヒト先輩!
い、いえ! 全然!」





リヒトが笑う。





その笑顔だけで、
胸が苦しくなる。





「アンナがいると、なんか
空気が明るくなるんだよ」





「・・・そ、そんなことないです」





「あるって」





言葉に詰まったまま、
風が吹き抜けた。





それだけで顔が熱くなって、
アンナは逃げるように道具室へ。





扉の外から、ソノマの声。





「逃げた~! かわい~!」













・*。・ リヒト side ・。*・





リヒトは、コートのネットを
外しながら、小さく息を吐いた。





あの時、アンナの髪が
風に揺れた瞬間を、
まだ思い出している。





──なんで、あんなに
かわいいんだろ。





「先輩、顔ニヤけてるっすよ」





部員の後輩に言われ、
慌てて背を向ける。





「うるさい、
ボール集め忘れるな」





ボールを拾い上げながら、
リヒトは思う。





明日の大会、
勝たなきゃいけない。





理由はひとつ。





“アンナに、かっこいいところを
見せたいから。”





中学のころから
ずっと一緒にいた。





気づけば、彼女の笑顔が
がんばる理由になっていた。





でも、言えなかった。





言葉にしたら、壊れそうで。













・*。・ アンナ side ・。*・





大会前日。





部活が終わって、帰り道。
ソノマと並んで歩く。





「明日、いよいよだね」





「うん。リヒト先輩、
肩痛そうだったけど
だいじょうぶかな・・・」





「それ、言ってあげなよ。
あんたが心配してるって」





「でも、マネージャーの立場で
そんな・・・」





「もう、それ
“好きな子の遠慮”じゃん」





ソノマの声は軽いけど、
目はやさしかった。





「アンナがあの人を好きなの、
わたしずっと見てきたから。
応援してるよ。
恋も、部活も、どっちも」





「ソノマ・・・」





「ただし、泣かせたら、
わたしが先輩に
スマッシュするけどね!」





「やめて~!」





2人の笑い声が、
夏の夕方の風にまじって
消えていった。













・*。・ リヒト side ・。*・





試合当日。





太陽がまぶしい。





肩の痛みはまだ残っているけど、
もう迷わない。





─────アンナが見てる。





コートの端、日傘の下で、
アンナがスコア表を握りしめている。





真剣な顔。





あの顔を見るだけで、
心臓がドクンと鳴る。





試合は接戦だった。





ファイナルセット、
マッチポイント。





相手のスマッシュを拾って、
全力で打ち返す。





風が吹いた。





ボールがネットを越えて、
相手コートに落ちる。





「ゲームセット!」





歓声が爆発する。





チームメイトが駆け寄ってくる中、
リヒトの目は、まっすぐ観客席を
探していた。





見つけた。





アンナ。





涙目で笑ってる。





その笑顔に、すべてが
報われた気がした。











・*。・ アンナ side ・。*・





夕方。





コートには、もう誰もいない。





夕陽の中に、
リヒト先輩が1人。





「・・・お疲れさまでした」





「ありがとう。アンナ」





汗で髪が濡れているのに、
笑顔はやっぱり眩しかった。





「ほんとに、
かっこよかったです」





「そっか。・・・なら、
がんばったかいあったな」





リヒトが一歩近づく。





空気が変わる。





風が止まって、世界が
2人だけになった気がした。







「俺さ、ずっとアンナに
言いたいことがあった」





「・・・はい」





「中学のときから、好きだった」







アンナの手の中の
ボールが震えた。





涙がにじむ。





でも、笑って答えた。





「わたしもです。ずっと」





リヒトが照れたように笑って、
手を差し出した。





「じゃあ、これからは
“両想い”として、応援よろしく」





「はい、全力で!」







風がまた吹いた。





2人の影が、コートの上で
少しだけ重なった。







*end*

※掲載されている物語はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。

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