貰えるはずのキミと、渡すはずの私
作者:rina
2月14日は
バレンタインデー。
毎年この時期になると
クラスメイト全員に
手作りチョコを渡す。
それが女子の間では
恒例だ。
* ――― * ――― *
「おはよ!
はい、バレンタインチョコ。
もちろん義理だけどね!」
今年も去年のように
学校に合わせて
用意してきた。
でも手作りなのは
1つだけ。
(それはもちろん、
本命の彼に)
* ――― * ――― *
「げ! なんだよ、
今年の吉本のチョコは
ネタチョコかよ~。
お前だけだぞ!
手作りじゃないの」
「うっさいなー・・・
いいじゃんか!
義理チョコなんだから」
そう、義理チョコは
ネタチョコ。
本命以外の男子の前では
女の子になることは
ないでしょ?
いつものように
笑いをとれれば
いいんだから。
「・・・っと、あれ?
龍之介は?
アイツにだけチョコ
渡してないんだけど」
残ったのは本命チョコ。
綺麗に飾り付けをして
バックの1番奥に
隠している。
(・・・どっか
2人きりで渡さないと)
「龍之介?
どこ行ったんだろ?
ねえハアト!
龍之介知らない?」
「ああ、トイレに行ったよ」
(トイレだったら
出てくるのを待ち伏せして、
2人きりで渡せるじゃんか)
ナイスだと思って
バックを持って
トイレに走った。
なのに、それは少しも
ナイスじゃなかった。
(あ・・・あれだな)
ハアトの言う通り
龍之介はトイレの前に
立っていた。
でも彼の姿だけじゃない。
一緒にいるのは
大親友のミアンだった。
「りゅ・・・」
名前を呼ぼうとしたけど
2人のただならぬ雰囲気に
呼ぶをやめ、
思わず隠れてしまった。
(ケンカでもしたのかな?
こんなん出にくいじゃん)
「このチョコ、
受け取ってくれる?」
ミアンが差し出したのは
可愛くラッピングされた袋。
それは透明になっていて
美味しそうな
ブラウニーが見える。
「あ、バレンタイン?
うわ・・・
めっちゃ美味しそうじゃん!
サンキュ!」
(ミアンは
料理上手いもんなあ)
あんなに綺麗なお菓子を見たら
自分の手作りチョコが惨めに思う。
見た目も味も
どう考えたって
初心者が作ったみたいで
少なくとも
食欲はそそらない。
(これ、あげて
大丈夫かな・・・はは)
「わざわざ来てくれたのか?
別に放課後だし
教室にいても良かったのに」
「・・・だってあたし、
龍之介が好きなんだもん!
みんなの前じゃ嫌だよ」
(・・・は? はあ~っ!?)
手作りチョコで落胆してる間
あちらではいつのまにか
ミアンが龍之介に告白をしていた。
* ――― * ――― *
「ミアン・・・」
「返事、聞かせて」
なんだろう、この状況は。
目の前には告白シーン
しかもそれは
自分の好きな人と大親友
そして、
覗き見している自分。
「俺は・・・」
返事を聞くのが怖くて
慌ててその場から
走り去った。
(そっか、ミアンは龍之介が
好きだったんだ・・・・・)
大親友だけど、そんな話
聞いたこともなかった。
(まあ、あたしも
言わなかったけど)
まさか同じ人を
好きだなんて。
「レイナ、龍之介いた?」
教室に戻ってくると
ハアトがそう聞いてきた。
「・・・ううん、見なかった」
見なかったことにしたかった。
龍之介の答えがどうであれ
あたしにはどうすることも出来ない。
あそこで割り込む
勇気もなけりゃ
知らないフリをする
勇気もない。
(こんなチョコ、
渡せないじゃん)
すると龍之介と
ミアンが戻ってきた。
2人とも普段と変わらず
みんなの会話に
混ざっていく。
その表情からは
何も読み取れない。
「なぁ! レイナ!
俺にチョコは?」
みんなのネタチョコを見て
龍之介があたしに
そう聞いてきた。
「・・・ない」
「は? 嘘だろ?
義理チョコすらないって
どんな仕打ちだよ・・・・」
普段の調子で言った
義理チョコ。
彼の中での自分の存在が
どんなものか
分かった気がした。
「だからないってば!
アンタが来るのが遅かったのが
悪いんじゃん!
・・・どーせ他の女の子達に
たくさん貰ってるんだから、
あたしに貰わないくらいよくない?」
あたしの気持ちも知らずに
ふざけている龍之介の様子に
無性に腹がたって
感情的になった。
「・・・なんだよ、
怒ることないだろ」
龍之介は軽くキレ気味に
座っていた場所へ
戻って行った。
(あーあ、
何やってんだ、あたしは)
あたしの気持ちなんて
龍之介に分かるはずないのに
告白するどころか
チョコすらも
渡せなかったんだから。
* ――― * ――― *
落ち込んだまま
最悪なバレンタインデーは
終わりを迎えようとしていた。
そんな重い足取りで
学校を出る。
頑張って作ったチョコを
持ち帰る自分が
本当に情けない。
(もう、考えたくもないわ)
バックからチョコを取り出し
下駄箱のゴミ箱に
入れようとした。
「お前それ、
捨てるんじゃねーだろうな?」
「は・・・?」
ぶっきらぼうな口調。
こんな口調なのは
アイツしかいない。
アイツはあたしの
手首を掴んで
捨てようとしたチョコを
奪い取った。
「なんで捨てんだよ。
好きな奴にあげるんだろ?
こんなネタでもない
綺麗なやつは」
「べ・・・別にいいじゃん。
龍之介には関係ないよっ!」
「確かに関係ないけどさ、
ムシャクシャするんだわ。
欲しくても
貰えなかった奴もいんのに、
貰えるはずだった奴が貰わないのは・・・
すげー腹立つ」
欲しかったのは、誰?
あたしがあげてないのは
1人だけ。
・・・貰えるはずだった奴なんだよ。
「・・・あげるはずだったのに、
あげられなかった奴も
ここにいるんですけど」
「なんだそれ」
「龍之介。
アンタが言ってんの、
きっと同一人物だよ」
「は・・・?
え・・・?」
「クラスのみんなには
ネタチョコだったけど、
手作りは好きな人にしかしてないよ。
・・・意地はって渡せなかった、
ゴメンね」
「じゃ、これ」
「うん、見た目とか味とか
自信ないけど・・・
良かったら
受け取ってくれないかな?」
心臓はこれでもかってくらい
大きい音で鳴り続けた。
龍之介の手にあるチョコは
嘘のない本当の気持ちを込めた。
意地なんかはらずに
素直に彼を想って作ったんだ。
すると、龍之介は包みをあけ
チョコを自分の口の中へと運んだ。
「・・・お腹、壊さないでよ?」
「アホ!
食ってから言うなって!
まあ、壊さねーと思うよ。
見た目はともかく、
普通に美味いし」
あいかわらず
ぶっきらぼうな態度の彼。
でもそんなことは
どうでもいい。
食べて貰えた、
それだけで
幸せに思えてくる。
「・・・なあ。お前、
無意識に言ったと思うけど・・・
手作りは好きな人にしか
しないって、
俺のことだろ?」
「へ・・・
好きな・・・人?」
そういえば思い返してみると
チョコのことで手一杯で
思わず好きとか言ったような。
「~~~~~っ!
そ・・・それは、違う・・・
いや、違ってはないんだけど・・・っ、
その・・・
好きってゆーか・・・っ」
(恥ずかしい!
恥ずかしすぎる!)
真っ赤になる顔を
必死で両手で隠そうとした。
すると、龍之介は
ゆっくりとその両手を下ろし
うちの顔に優しく触れた。
「りゅ・・・うの・・・すけ・・・」
その目で見つめられたら
そらせないし
声も上手く出ない。
あたしはすっかり
彼の魅力に
引き込まれていた。
「もーダメだわ」
龍之介はそう呟くと
あたしの唇に
唇同士で触れた。
突然のキス、だけど
唇を通して
想いが伝わってくる。
「素直になれって」
唇が離れるとすぐに
彼はニヤリと笑って
そう言った。
「・・・りっ・・・・
龍之介だって
何も言わないじゃんか!
誰かさんにも
告白されたみたいだし、
ハッキリしてくれないかなあ」
そんな意地悪な顔しても
もう通じないんだから。
龍之介の気持ちは分かったし
あえて意地悪をお返しするよ?
「なんだよ、見てたのかよ。
・・・まあ、俺は
モテるってことだな!」
「はあ!?」
思ってもみないこの反応。
(この表情が
ほんっとに腹立つ!)
「あーでもこんなんは
お前にしか言わねぇぞ?」
すると
更に近づいてくる彼。
思わず目を瞑ると
あたしの耳元で
優しく囁いたんだ。
『愛してる』ってね。
*end*
*ニコ学名作リバイバル*
この作品は過去に投稿された作品をアレンジしたものです。
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