正面からの遠回り
作者:にこにこ
小学校近くの公園の話、
推しキャラクターの話、
近づくバレンタインの話。
いろいろな話題が飛び交う中、
私はひっそりと教卓前の席に
身を沈めます。
友人と話し終わった直後、
その内容は
あまり覚えていません。
他に比べ
友達は少ない方ですから、
その後誰かのところへ行く
ということは、
あまりしたことはありません。
ふと後ろを向き、
友達の多い人たちが
集まっているところへ
目を向けます。
すると、仲が良い方の
ある男の子に、
目がいきました。
楽しそうに、目や口を
くしゃっと細めながら
笑っている姿。
私の何倍も素敵です。
季節は冬、
まだまだ続きそうな寒さに
包まれた教室で、
私は心を甘く染め始めました。
・*。・ 24組教室 ・。*・
突然ですが、私は
吉本麗南と申します。
中学1年生、
入学して10ヶ月を過ぎ、
もう少しで中学2年生です。
一昨日、学年末試験を
終えたばかりの私は、
いまだかすかに
緊張が残っております。
――――――と、
皆さんにはあまり
必要のないことであろう、
私の自己紹介はさておき。
私、ある男の子に
恋をしているんです。
ちょうど昨日から、
私の心は明るく鮮やかに
なり始めました。
それも儚い桃色に。
今までの私には
考えられなかった
ようなことです。
つまり、
これは初恋です。
そのため、
これが恋なのかは
まだあまり確信が
持てていません。
けれども多分、
これは恋です。
恋を少し自覚したばかりの昨日、
友人の林美央子さんに
聞きました。
レイナ「私ね、彼を見ると
少し心が躍るの」
ミオコ「へぇ~。
すごいね、
続きを聞かせて」
レイナ「うん。それでね、
ドキドキしちゃうんだ。
このドキドキが、
他の人に対するものとは
違うことに気づいたの」
恋を語るのに、
恥ずかしい気持ちなどは、
ひとつもありませんでした。
ミオコ「ずいぶん落ち着いて
恋を語るね」
レイナ「そうなのかな」
ミオコ「そうだよ。
あと、それは恋だよ」
そう唐突に言われ、
少しびっくりしました。
レイナ「やっぱりそうなんだ。
初恋だから
わからなかったな」
ミオコ「もし振られても、
私はレイナちゃんのことが
好きだよ」
レイナ「ありがとう。
私もミオコちゃんが大好き」
ミオコ「2つの意味でありがと、
レイナちゃん。
私、恋愛の話に飢えていたの。
だから少し楽しかった、
またその話を聞かせてね」
レイナ「もちろん。
じゃあね」
ミオコ「ばいばい」
ミオコちゃんと別れると、
また彼が目につきました。
ミオコちゃんは何故か
彼の方向に行き、
彼と話しています。
ミオコ「ルワ、
ちょっといい?」
ルワ「何。ミオコが
俺に話すなんて
珍しいじゃん」
ミオコ「そんなことはない」
話し声が
少し聞こえます。
ミオコ「ルワに
聞きたいことが
あるんだけど」
ルワ「何を聞くんだよ。
俺、ミオコに興味
持たれるようなことした?」
ミオコ「いいから。
耳貸して」
ルワ「え?
え、あぁ・・・うん」
少し強引に耳を借りて、
もう話し声は聞こえません。
諦めて私は
席につきました。
彼とミオコちゃんの
方向を見ます。
ミオコ「あのさ、
―――――――――――――――?」
ルワ「・・・えっ、
―――――――――・・・よ」
ミオコ「―――――――――、
――――――ね、それ」
全くわからないので、
彼らの表情を見ると、
ほんのり赤くなっていました。
それだけではやっぱり
わからないので、
再び諦めて
考え事を始めます。
レイナ(彼が好きなのは
自覚したけど、いつから
気になり始めたんだろう)
その疑問は、永遠に、
わかることはないでしょう。
そんなことは
わかっています。
レイナ(彼が好き)
しかし。
レイナ(この想いは、
いつまでも絶えそうにない。
何故だろう)
私にはわからない問題が、
いまだに残されていました。
・*。・ 翌日の24組 ・。*・
今日は金曜日。
先ほど返された
国語の解答用紙を
見つめました。
そして、好きな彼と
点数を言い合いました。
返されて15分ほどで、
再び回収されたので、
見せ合いっこは
できませんでした。
ちなみに
私は96点です。
2問間違いでした。
とても悔しいです。
しかし、彼は
85点でしたので、
その点は嬉しかったです。
心が1ミリ、
頭の方向へ
近づいた気がします。
ミオコちゃんは
87点でした。
その時に、
彼の話もしました。
レイナ「私、すっかり
彼のことが
好きになっちゃったの。
隠せてる?」
ミオコ「私に話している時点で、
隠せてはいないと思う」
レイナ「確かにそうだね。
でも彼には隠せているよね、
ミオコちゃん」
ミオコ「あはは、
多分大丈夫だよ」
レイナ「だよね、
ありがとう」
ミオコちゃんの納得を
心にしまい終えると、
再び口を開かれました。
ミオコ「そんなに
気になるのなら、
告白しちゃって
いいと思うよ」
レイナ「告白?
まだ早いよ」
私は否定します。
彼に告白するのは、
もっと後でも
大丈夫だと思ったからです。
しかし、ミオコちゃんは
意思を変えません。
ミオコ「そんなことない。
変にアピールして
失敗するよりも、
早めの方がいいと思う。
経験済みの私がいうんだから、
相当よ」
レイナ「恋を自覚しているから?」
ミオコ「でないと言わないよ」
レイナ「そっか・・・・・・
なら明日にでも」
彼女の提案に乗り、
今度は私が提案しましたが、
あっさりと彼女に
下げられてしまいました。
ミオコ「今日にしな。
レイナちゃん、
明日までにいろいろと
考えちゃうでしょう?」
レイナ「え、う、うん」
早めの告白は、
今日のHR後に決めました。
あとはその時を待つだけです。
ミオコ「絶対成功するから」
レイナ「確信は持てないよ」
ミオコ「大丈夫。
ルワはレイナちゃんのこと、
絶対に好きだから。
私が約束する」
レイナ「ありがとう、
ミオコちゃん。
頑張る」
ミオコ「うん。
頑張ってね」
レイナ「ほんとにありがとう。
ミオコちゃん大好き」
・*。・ 放課後の教室 ・。*・
私は辺りを
見回しました。
誰もいません。
ルワがいつも最後まで
残っているのを、
私は知っています。
お手洗いに行って
帰ってきたとき、
いつもルワしか
いなかったからです。
ですから、これは全く、
私だけの秘密というわけでは
ありません。
ぎこちなく
足を動かしながら、
ロッカーで教科書を
取り出す彼に
寄っていきます。
レイナ「ねぇ、ルワ」
ルワ「レイナ?
急にどうしたの」
レイナ「あのさ」
ルワ「・・・うん」
ふぅ。
少し息を吐き、
すぅっ・・・―――――――――
レイナ「好きです」
ミオコちゃんの
アドバイスに感謝をし、
しっかり静かに息を吸い、
愛の言葉を口にしました。
好き、と。
純粋に、真正面から。
想いは変わりません。
私の心臓は、一瞬
止まったかと思えば、
すぐにドクドク音を
立て始めました。
胸に手を当てると、
それがよくわかります。
レイナ「――――――私、
ルワのことが好きです。
少し前に気がついたばっかり・・・・・・
なんだけど。
こんな私だけど、
お願い・・・あっ」
ルワ「・・・・・・」
レイナ「えっと・・・・・・
ルワのこと
推してるんだ・・・っ」
時も。
―――――― 一瞬止まります。
ルワ「・・・俺もレイナを
推してるよ」
レイナ「・・・・・・え・・・」
ルワ「俺、だいぶ前から
レイナのこと見てた。
サッカー部、グラウンドで
練習してるだろ?
そこからさ、合唱部が
歌ってるのが聞こえるんだ。
見えてもいる」
レイナ「・・・えっ、
恥ずかしい・・・・・・
わ、私ソプラノだから
壁側だ・・・」
ルワ「だろうなって思ってた。
キラキラしてて、
すげーなって思ってて。
俺歌うの下手でさ、
めっちゃ憧れてた・・・」
レイナ「私も・・・
サッカーしてるとこ、
見えてた」
ルワ「言った通り、」
見つめ合う私たち。
何故かどんどん、
私は彼を
好きになっていきます。
好きと言い、
推してると言う。
正面からの遠回り。
それが叶うのは
すぐでした。
ルワ「俺の推しはレイナだよ。
今から、よろしく」
私にしては珍しく。
レイナ「―――ありがとうっ」
体が動きます。
ルワ「おわっ、レイナ、
こんなことできるんだ」
レイナ「好きだよ、ルワ」
ルワ「好きだ。
レイナの、
俺に対する愛よりも、
何倍も好き」
私から抱きついて、
離れられなくなって
しまいました。
レイナ(ルワ、
大好きだよ)
ルワ(レイナ、
大好きだよ)
―――――――――ある男女の
ハッピースタート
*少しの終わり*
・。・。・。・。・。・。
*追記*
実は。
あのとき、
聞こえなかった
彼らの話は・・・・・・
ミオコ「レイナちゃんを
好きかどうか聞いてたの」
だそうです。
それを聞いた時、
恥ずかしくて頬が赤く
染まってしまいました。
そのあと、だから確信を
持てていたんだな、と納得。
ミオコちゃんに、
深く感謝をしました。
*THE END*
吉本 麗南
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