ねえ、先生
作者:ゆず故障
あたし、白尾ルナと
先生、久野ナツ。
今思うと
あたしたちの恋は
本人たちも知らないうちに
始まってた気がする。
まあ、先生は何考えているか
全ッ然分かんないけど。
まるで接点のなかった
あたしたち。
でもあの日、あたしが
何気なく訪れた理科室。
あたしが何気なく
たずねた質問。
この2つが重なって
世界は鮮やかに
クルリと一転した。
* ‐‐‐ * ‐‐‐ *
「ねえ、せんせ、恋ってナニ?」
――学校に恋の先生がいればいいのに――
そんなくだらないことを
考えたのは、本当につい最近。
くだらなすぎて
自分でも笑っちゃう。
現実には、恋の先生なんて
学校にいるはずもなく、
理科の久野先生に
質問することにしたあたし。
あたしの質問に答えてくれるなら
別に理科の先生じゃなくて
社会でも数学でもなんでもよかった。
「白尾は、こいも分かんないの?」
あたしに背を向けて、
今日提出したレポートを
熱心に採点する先生。
「中庭にいるじゃん。鯉」
「・・・・・・、せんせ、笑えない」
「あ、白尾、ここ、誤字」
昨日徹夜で仕上げた
あたしのレポートの一点を
ペンでトントンと指摘する。
「話、そらさないで下さい。
・・・・・・あ、本当だ。
直すから減点にしないで下さい」
「だーめ」
「誤字ぐらいで
減点なんてきっつい・・・」
「白尾を成長させるために
俺も泣く泣く減点してるんだよ?」
シクシクと泣き真似をする先生は
とっても幼稚で
とても先生とは呼べなかった。
「絶対うそだ」
「先生はうそつきませーん」
「それも絶対うそ」
「・・・・・・、で何だっけ? 恋?」
先生は、かったるそうに
クルリとこちらを向いた。
「うん」
「なんでイキナリ?
つーか、なんで俺?」
まあ・・・・・・、当然の質問。
あたしはなるべく
先生の目を見ないよう、
うつむきがちに話し始めた。
先生の目はなんて言うか、
ものすごい真っ直ぐなんだよね。
まさに〈吸いこまれそう〉って
表現がピッタリ。
何もかも見抜かれてしまいそうで
怖いって思うのは
あたしだけなのかな。
「あたし、告られたんですよ」
「白尾が?
すげー! 奇跡じゃん」
「あたし、結構モテますよ?」
「そーなの?」
「そーです!」
モテるってのは
うそじゃない。本当。
「でも、別に
誰も好きじゃないんで」
「うっわー、ドライー」
ドライ、ねえ・・・
「白尾さんって、冷たーい」
「何様?」
「あたしらのこと見下してるよね」
クラスメートに
さんざん言われてきた台詞。
だから先生に改めて“ドライ”って言われて
ちょっと心の奥の方がチクッとした。
「やっぱりあたしって、冷たいのかな・・・」
ずっと悩んでたことを
思わず口に出してしまった。
目の前に先生がいるのに。
弱気なところなんて
見せたくないのに。
「話してみ?」
ずるい。先生は、ずるい。
そんなやさしくたずねられたら
答えるしかないじゃん。
でも今のあたしは
誰かにやさしく話を聞いて
もらいたかったんだと思う。
きっと。
「一番モテてる男子に告られたの」
「うん」
「でも、好きじゃないから断った」
「うん」
先生はきっと聞き上手だ。
相づちひとつで
こんなにスラスラ話せる。
「そしたらリーダー的な女子に
いじめられるようになった」
「ん? 断ったのに?」
「ハルトくんを振るなんて許せない!
何様のつもり!?
―――――だそうで」
「ハルト・・・
なるほどねー・・・
そんな話が現実にあるなんて
思いもしなかったわ」
「でしょ!?
あたしは悪くないのに・・・」
「白尾、本当にそう思ってる?」
「え?」
「白尾は本当に悪くないの?」
「先生はあたしの味方じゃないの?」
「俺? 俺は皆の味方、だよ」
「・・・・・・っもういい!」
思わずバンッと机を
思いっきり叩いて
理科室から逃げ出した。
何なの?
先生はあたしの味方じゃないの?
「・・・ったあ」
思いっきり机を叩いたせいで
手がジンジンする。
・・・・・・、
それよりも心がズキズキする。
今まで感じたこともない痛み。
まあハッキリ言っちゃうと、
あたしにも落ち度がある。
ハルトくんの告白の断り方。
結構バッサリ
言っちゃったんだよね。
それを先生に
的確に指摘されて
逆ギレして逃走なんて、最低。
「・・・もっ・・・どんだけ・・・」
後悔したところで
何もかもが手遅れ。
* ‐‐‐ * ‐‐‐ *
それから1ヶ月。
先生と接することは全くなかった。
元々先生は非常勤で、
産休に入ってた稲垣先生の代わりに
あたしたちの学年の授業を受け持っていた。
でも、稲垣先生が無事に
赤ちゃんを産んで戻ってきたから
先生は他の学年の授業に移っていた。
それでめっきり会うことも
少なくなったけれど、
それでも廊下で
すれ違いそうになった時は
あたしが逃げた。
そうそう、
いじめもなくなっていた。
きっと飽きたんだろう。
リーダー的な女子は結局、
ハルトくんとつきあうことになったし。
でも、人間不信になったあたしは
誰とも関わっていない。
そんな時だった。
「ねえねえっ! 知ってる?
久野先生、転任だって!」
・・・・・・、え?
「うそー!
好きだったのにー!」
一瞬で頭はパニック状態。
女子たちはまだ
先生の魅力について
話しているが
もうそれ以上
会話は入って来なかった。
先生が転任という言葉が
グルグルと頭の中で回る。
なんで? どうして?
あたし、まだ謝ってないのに。
気がつくとあたしは一心に
あの場所へ走り出していた。
* ‐‐‐ * ‐‐‐ *
先生から逃げつつも、
何度も開けようと思ったこの扉。
さっきまでの勢いが消え、
開けようかどうか迷ってしまう。
あんな風に逆ギレされて
先生が怒ってないわけがない。
「・・・っ」
その時。
「ん? 誰かいんの?」
「・・・・・・、っせんせ」
「白・・・尾?」
「・・・」
「入っておいで」
扉越しに聞こえる先生の声は
久しぶり過ぎて。
何だか胸がぎゅうって
締めつけられて。
思わず泣きそうになってしまう。
もう迷ってる場合じゃない。
もう後には戻れない。
「・・・・・・、先生」
「お久しぶり、白尾」
「お久しぶり・・・デス」
「今日はどしたの?」
「先生が転任するって、
聞いたから・・・」
うつむいていた顔を上げると
先生は顔をクシャクシャにして
苦笑いを浮かべていた。
「本当に情報回るのって早いわー」
他にも先生は何か言っていたけど、
心臓の音がドキドキってうるさくて
聞こえない。
きっとこのドキドキと比例して
あたしの顔も真っ赤なんだろうなあって
思ってたら、余計に赤くなってしまった。
「白尾?」
「はい?」
「ぼーっとしてるけど、だいじょうぶ?」
「ああ、はい、だいじょうぶです・・・」
「それで何の用?」
「ごめんなさい!」
「え?」
「あたし、先生に本当のこと言われて、
あたしが悪いのに勝手に逆ギレして。
それで先生に謝んなきゃいけないのに
先生から逃げて・・・」
「やっぱり」
「・・・はい?」
「どーりで白尾と会えないなーって
思ってたら、逃げてたんだ」
「すみません・・・」
「俺から会いに行こうと
思ってたんだけどさ。
何かもう授業も持ってないのに
おかしいかなって思ったら行けなくて」
「・・・」
「つーか、俺こそごめん」
「え?」
「先生だっていうのに
生徒の・・・白尾の気もち
全然考えられてなかった。
俺ね、白尾が好きだったんだよ?」
先生の言葉は、いつだって真っ直ぐで
あたしの頭をショートさせる。
あたしは先生の言葉
ひとつひとつを
理解しようとするのに精一杯。
「だっ・・・た?」
「今も好き」
ほらね、真っ直ぐ過ぎ。
先生の言葉が、あたしに向かって
ビュンって一直線に飛んでくる。
「たぶん、妬いてたんだよね。
ハルトに」
「ハルトくん?」
「白尾に告ったって聞いてね、
俺は先生だから
気もち伝えらんなくて困ってんのに、
あいつは好きに告りやがってって
考えたら、無性にイラついた」
り、理不尽な・・・!
「仕返しに
特別に課題出してやった」
そういえば、ハルトくんが
課題が終わらないって
騒いでたかも・・・
あれは先生の仕業か。
「先生、幼稚・・・」
「俺を幼稚にさせてんのは
白尾だよ」
「っ!」
「俺ね、他の学校に移んの。
先生に変わりないけど
白尾は俺の生徒じゃなくなる」
「先生の生徒じゃなくなる・・・」
「そ。だから、言う。
俺とつきあってくれませんか?
白尾が大人になるまで待つからさ」
夕日をバックに、少し赤くなった顔で
あたしを見つめる先生は
今までに見たことないぐらいキレイで。
その真っ直ぐでキレイな目に
あたしは捕まってしまって動けない。
「はい・・・っ!」
「あ、そうだ。
ルナの質問に答えるね」
よ、呼び方、
ルナになってるし・・・
「恋ってのはね、
今俺がルナを愛しいって思ってる
この幸せな気もち」
夕日の中でニコッと笑う先生には
やっぱり敵わない。
*end*
この作品は過去に投稿された作品をアレンジしたものです。また、掲載されている物語はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
白尾 留菜

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