君と見た花火
作者:ろっか
私、たちばなゆうり!
私には、大好きな人がいる。
それは、クラスメイトの
あんどういるま。
でも、あんどう君は
すごく人気なんだよね。
一日中いろんな女子、
もちろん男子にも
話しかけられてる。
それ全部に笑顔で返す、
あんどう君。
その笑顔が大好き。
人気者のあんどう君は、
地味キャラの私なんかに
興味はないだろう。
そう思っていたけど、
あんどう君は
クラスのみんなにやさしい。
そのやさしさが大好き。
気づいたときには
もう大好きだった。
私は赤面症だから、
大好きなあんどう君への思いを
隠せない。
それに気づいた、同じく
あんどう君に片思いをする陽キャ軍団・
はたさくらこちゃんたちに
目をつけられちゃったんだよね。
さくらこちゃんは、
すごくかわいい。
整った顔とは裏腹に、
腹には毒々しいものを
抱えているけど。
その取りまきの
やまもといちかちゃん、
おおもりひかるちゃんも、
あんどう君が好きっぽい。
「たちばなさん、いるまくんのこと
好きらしいよ~。
よくあんな地味なのに
好きとか思えるよね」
「絶対叶わないじゃんw
可哀想」
そんな声が
こそこそ聞こえてくる。
そりゃ、そうだよね。
芸能界デビューしてるとかうわさの
超絶かわいいさくらこちゃんに、
「人たらしの天才」とか呼ばれてる
コミュ力おばけのいちかちゃんに、
ふわふわしてて
男子からモテモテの
女の子らしい、ひかるちゃん。
私はその誰にも
敵うものを持ってない。
しかも、みんな
さくらこちゃんグループの
怒りを買いたくないから、
おかげで私は友達ゼロ。
これからもずーっとこうやって
みじめな中学校生活を
送るんだろうなって思ってた。
だけど。
「たちばなさん!
今度みんなで花火行かない?」
まさかのさくらこちゃんが
話しかけてきた。
「え?」
さすがに警戒する。
戸惑っていたら、後ろから
あんどう君、きたじま君、
かわかみ君がやってきた。
3人はこのクラスの
「イケメン三大王」と呼ばれ、
みんな同じくらいかっこよくてモテる。
「はたさん、やまもとさん、
おおもりさん、たちばなさんと
花火行きたいなって」
かわかみ君は、ちょっと
照れながら言った。
あんどう君はうれしそうに
「ぜってー楽しいだろ!?」と言う。
ひかるちゃんが「うんっ」と
かわいく言って、
あんどう君に体を寄せた。
きたじま君は、
「好きにやってくれ」
と、いつも通りのポーカーフェイス。
「しょーがないなー。
私はいいよ」
さくらこちゃんが
渋々といった感じで
うなずいた。
あんどう君の顔が
パッと輝くのを見て、
ああ、やっぱりさくらこちゃんが
好きなのかなって思う。
「あたしもおーけー。楽しみ~」
人懐っこい笑顔で
いちかちゃんが言った。
「たちばなさんは?」
警戒してたけど、男子が一緒なら
だいじょうぶだろう。
あんどう君と
仲よくなりたい一心で、
私はうなずいた。
「ねー、どうする?
浴衣か私服!」
「どっちもありだよねえ。
浴衣でキュンとさせるか、
私服でギャップを見せるか!」
「ここはやっぱ、私服でしょ。
お気にのワンピ見せたい」
「じゃーそれで!」
さくらこちゃんたちは
そう盛り上がっていた。
私はそうするつもりで、
クローゼットを眺めた。
さくらこちゃんは
ワンピースにするって言ってた。
かぶったり、それより豪華だったら
にらまれちゃうかも。
そう考えて、私は水色のTシャツに
白のデニムパンツを出しておいた。
* ‐‐‐ * ‐‐‐ *
花火大会当日。
私はわくわくしながら
待ち合わせ場所に向かった。
あんどう君のことで
頭がいっぱいで、
さくらこちゃんたちのことは
忘れていた。
「あ、こっちこっち、
たちばなさん!」
高い声が聞こえて、
そちらを振り向いて。
絶句した。
それは、女子がみんな
かわいい浴衣に身を包んでいたから。
さくらこちゃんは名前の通り、
ピンクの桜の浴衣。
いちかちゃんは
落ち着いた藍色と椿の浴衣。
ひかるちゃんは、ふわふわした
薄い水色とシャボン玉の浴衣。
みんなすごくかわいい。
なのに、私は。
自分のショーパンを見つめた。
みじめになって、
涙があふれてくるのを抑える。
わかってて、やったんだ。
私が浮くように。
さくらこちゃんたちの
狙いが分かった。
そんな私の胸の内など
知る由もない男子たちは、
元気に歩いていく。
「あと十分で花火始まるよ!」
「えー、いちごあめ食べたいなあ」
「焼きそばもいい!」
さくらこちゃんたちの
笑う顔を思い浮かべて、
素直に楽しめない。
あんどう君が言った。
「俺さ、お気に入りの客席が
あるんだよね!
誰もいないんだけど、
よく見えるんだ」
それを聞いて、さくらこちゃんが
目を輝かせた。
あんどう君にもたれかかる。
「えー、何それ。
連れて行って~」
ああ、2人は
くっついちゃうのかな。
そう考えて
気分が重くなった。
「え、無理」
あんどう君は
あっさり断った。
さくらこちゃんの顔が
引きつる。
「なんで?」
「だって、はたさん浴衣でしょ。
浴衣じゃ行けないし」
さくらこちゃんの顔が
ゆがんだ。
その視線は
私にまっすぐ向かった。
あんどう君もこっちを見る。
「だからさ、たちばなさん!
一緒に行こう」
「わ、私?」
「私服だし」
戸惑っていると、
あんどう君は私の手を引いて、
走り出した。
え? え?
そう思うものの、
このままでは
引きずられちゃうから走る。
「あははは! あはは!」
あんどう君が笑った。
こっちを見る。
「まいちゃった」
あんどう君は
ずんずん草むらに入っていく。
私もそれに続く。
「ここ、座って」
小さな丘に座った。
横を向くと、あんどう君の
美しい横顔があった。
直視できない。
「よかった、
たちばなさんが私服で。
ここに連れてこられて、
よかった」
その言葉にどきんとした。
「2人きりだね。
たちばなさん」
あんどう君は
私だけを見てる。
「静かでおだやかで、
控えめでかわいい
たちばなさんが好きだ」
どーん、と花火が上がる。
「わ、私も」
2人で花火を見つめた。
ふと、あんどう君が
こちらを見る。
美しい顔が近づいてきた。
どぎまぎしながら
顔を近づける。
唇が重なった。
*end*
※掲載されている物語はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
橘 侑里

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