舞い降りた天使
作者:ゆー
こんにちは。
あたし、ユウリ。
突然だけど、
あたしは人間じゃない。
天使なんだ。
まだまだ未熟なあたしは、
今から初めての任務に挑む。
天使には、任務がある。
14歳になると、人間を
救わなければならない。
大切な者を失い、
途方に暮れる人たちを励まし、
共に悲しみ、共に過ごす。
それが、あたしたちの役割。
ただ、ルールがある。
絶対に人間に特別な感情を
持ってしまわないこと。
家族、友人、恋人・・・
そんな想いを
人間に向けてはいけないのだ。
そして、もう1つ。
人間が幸せだと思えた瞬間、
あたしたちは天に帰っていく。
それがルールだから。
まあ、心配ない。
あたしは、人間に特別な感情を
抱くことなどないだろう。
そう、想っていた。
「ユウリさんには、
今からニコラ町に住む、
久野ナツさんを
救いに行っていただきます」
案内人が言った。
「彼は大切な飼い猫、
ニニを亡くしたところで、
悲しみに暮れています。
ユウリさん、あなたが
彼を助けるのです」
案内人が虫眼鏡を
差し出した。
あたしは
その虫眼鏡をのぞく。
中には、ソファに座りこんで
猫の遺影を見つめる高校生くらいの
男子の姿がある。
「これが彼、そして
飼い猫ニニについてのデータです」
彼女は紙の束を持ってくる。
「これはすべて頭に入れてください。
では、ユウリさん。出発です」
あたしは雲のエレベーターに
乗りこんだ。
「いってらっしゃい。
幸せにするのですよ」
そこは、にぎやかな街から
少しはずれた、
きれいな場所だった。
幻想的な景色が見えるわけでも、
夜景が見えるわけでもない。
でも、どこか綺麗なのだ。
とりあえず久野ナツの家とやらに
行かねば。
あたしは直感的に動いて
白くて、小ぎれいな家の表札を見る。
そこには「久野」の文字。
うん、間違いない。
今、家には
彼1人しかいないようだ。
ビッグチャンス。
あたしはふわふわと飛んでいくと、
窓を貫通した。
天使にはなんでもできる。
ソファに座りこむ久野ナツの横に、
あたしはふんわりと座った。
「ニニ。彼女はあなたにとって、
いい猫ちゃんだった?」
あたしは透き通った声(自称)で
たずねた。
ナツは驚いたようにこちらを見た。
まん丸にした目が、
段々希望を見つけたように
輝いていく。
「ニニ!」
「へ?」
ニニって・・・猫だよね。
この人の飼い猫。
「ニニ、きれいなお姉さんになって、
戻ってきたんだな。
俺、寂しかったんだよ。
ニニがいなくなったら、俺の中の光が
すうっと消えてなくなったんだ」
幸せの光を目いっぱいにためて、
ついでに涙もためて、
久野ナツは言う。
・・・ウソ、あたし、
ニニの生まれ変わりって
勘違いされてる!?
気づいたときにはもう遅い。
彼は幸せそうに笑っている。
今さら、違うだなんて
言えないじゃん!
この家での生活は、
思ってもみなかった形で
幕を開けた。
「ニニ、お前ってさー、
勉強できるの?」
「ニニの毛、サラサラだよな。
毛ってか髪の毛だけど」
「お前、何食べるの?
人間の食事?
キャットフード?
あそーだ、買い置きしてある
高級キャットフードあるぞ」
「ねね、いっしょに
スタバ行こーぜ。
もちろんおごるよ」
彼はあたしを本当に大事な・・・
ニニの化身として扱った。
ナツの家での生活は
幸せだった。
彼は本当にニニを
大切にしていたんだなって思える
やさしさだった。
でも彼から愛情を注いでもらうほど、
あたしは苦しく、
居づらくなっていった。
あたしはあなたの大切な
ニニじゃない。
ただの、ただの天使なのに。
「ねえ、ニニ。
一緒にアルバム見ようよ」
ナツに誘われて、
あたしはソファに座った。
彼の隣で、
くっつくみたいにして。
「このご飯、
美味しかったよな~。
あっ、覚えてる?
ニニ、猫は水が嫌いなはずなのに、
海に入ろうとして溺れかけたんだぞ」
彼とニニの思い出の数々。
こんなに大事にされてたニニの座を、
ただの天使のあたしが乗っ取ってる。
そのことが、
重くのしかかった。
いつしか、
あたしは泣いていた。
ナツは驚きもせず、
穏やかに言う。
「君ってさ」
君。
初めて呼ばれた。
「ニニじゃないよね。
ねえ、誰?」
え? 気づいてたの?
驚くのと同時に、
嫌われることが怖くなった。
「あたし、ニニじゃないけど、
悪い者ではないの。
ニニがいなくなって
空白になったあなたの日常を・・・」
ナツは片手を挙げて
あたしを制す。
「言わなくてもいいよ。
俺、ニニが大好きだけど・・・
今は名も知らない君が、
ニニと同じくらい大事だから」
彼は、あたしの顔を覗きこむ。
「名前は?」
「・・・ユウリ」
「ユウリ、か。
きれいな名前だね」
ああ、やっぱり。
あたし、ナツのことが好きだ。
人間に恋情を
抱いてはいけないのに。
「俺さ・・・」
「あたし・・・」
「ユウリが好きだ」
「ナツが大好き」
あたしたちは
お互いの顔を見合わせた。
そのとき、あたしの頭の中に
案内人が現れる。
「任務完了。
あなたは罪を犯した。
人間を好きになった。
そして、ナツは幸せになった。
任務完了、任務完了」
あたしはナツの頭を撫でた。
ナツがまぶたを閉じていく。
「じゃあね。大好きな、ナツ」
─────────────
──────
──
起きたら、朝だった。
なんでだろう。
さっきまで、誰か、
大好きで大事な誰かといたような。
天から声が降ってくる。
「にゃあ」
「ナツが大好き」
*end*
※掲載されている物語はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
橘 侑里

- 2025.12.02超能力っていいな。作者:中学1年生
- 2025.11.29幽霊の私は君に触れる。作者:ゆうりらぶ
- 2025.11.24「ずっと、そばにいてあげる」作者:hibiki
- 2025.11.23いつか、ね。作者:wwww
- 2025.11.21君と、冬の大三角を。作者:結喜
- 2025.11.20予測不能な恋作者:氷雪気候
- 2025.11.17恋は無敵作者:中学1年生
- 2025.11.14君と見た花火作者:ろっか
- 2025.11.11お菓子の“まほう”作者:3タクロース☆
- 2025.11.091番あったかいのは君作者:フーイ
- 2025.11.05ただそれだけなのに作者:ジャパニーズ
- 2025.11.04ツンデレくんとかまってちゃん作者:メーダー@
- 2025.11.02私のセカイ作者:ナッツ類
- 2025.11.01いつまでも約束作者:wwww
- 2025.10.30私だけのストーリー作者:ビビビッ
- 2025.10.29誠実な君作者:いちごーれ
- 2025.10.27君への恩返し作者:なるぅ
- 2025.10.25君のトロンボーン作者:ぐりいん
- 2025.10.25友達1番!作者:ふが
- 2025.10.22ネッ友!作者:フーイ
- 2025.10.2110年後の約束作者:うあ
- 2025.10.2012本の黄色のバラ作者:のい
- 2025.10.19どっちを選ぶ? ~友達 or 好きな人~作者:あかR
- 2025.10.19前世作者:みいお委員長
- 2025.10.18作る=繋がる作者:あかり
- 2025.10.17放課後の音楽室で作者:まかろん
- 2025.10.16瞳の中の空作者:ごん
- 2025.10.15魔法使いの君作者:ゆうりらぶ
- 2025.10.14心を見ること作者:ごん
- 2025.10.13舞い降りた天使作者:ゆー
- 2025.10.12名も知らぬ君作者:ユウリちゃん大好き女子
- 2025.10.12猫と人間の恋はオーケー?作者:いちごーれ
- 2025.10.11勘違いの恋と真の恋作者:歌恋
- 2025.10.10叶わない恋は、遠くて重い作者:てんふ
- 2025.10.08恋に奥手作者:ゆうりちゃんLover!
- 2025.10.05恋バトル!作者:っく
- 2025.10.04アドリブ作者:はお@
- 2025.09.28冷めた恋と温かい恋作者:ぐりいん
- 2025.09.27私を守ってくれた人 ~大切な約束~作者:ゆゆ
- 2025.09.22マッド・サイエンティスト作者:あかR
- 2025.09.20魔法なんかじゃなくて作者:ゆうりらぶ
- 2025.09.17守られるんじゃなくて作者:ゆうりらぶ
- 2025.09.11苦手な私の英雄作者:ゆうりらぶ
- 2025.09.09チェンジ!?作者:ゆうりらぶ
- 2025.09.04・・・・好きかも。作者:ゆうりらぶ
- 2025.08.26お昼休みの出来事。作者:みぃお委員長
- 2025.08.22君たちがいるから作者:ゆうりらぶ
- 2025.08.17最高の夏休み作者:るり


























伊藤 沙音
青山姫乃
国本 姫万里
松田 美優
白水ひより
星名ハルハ
星乃あんな
工藤 唯愛
佐々木 花奈
白尾 留菜
十文字 陽菜
松尾 そのま
梨里花
稲垣 来泉
崎浜 梨瑚
中瀬 梨里
葉山 若奈
泉 有乃
相沢 伊吹
大月 美空
山本 初華
常盤 真海
野澤 しおり
葵 かんな
大森 ひかる
畠 桜子
西 優行
久野 渚夏
今井暖大
北島 岬
松瀬 太虹
八神 遼介
小澤 輝之介
安藤 冶真
竹内琉斗
堀口壱吹
川上莉人
小林 凛々愛
黒崎 紗良
しゅり
高柳 千彩
宮澤 花怜
上野 みくも
