・・・・好きかも。

CAST橘侑里

作者：ゆうりらぶ

2025.09.04

ごきげんよう、
私、橘ユウリ。

超有名な橘家の娘です。

「ユウリ様、おはようございます。
今日は数学というものが
あるのでしたっけ」

「ええ。
教科書、入れてくれた？」

「もちろんでございます」

この人は私の有能な執事、
西ユアン。

お仕事をスマートに
こなすだけでなく、
私の心にも寄り添ってくれるの。

だから、私はもちろん、
みんなからも信頼されてる。

「では、行ってきますね」

「どうぞお気をつけて」

私が通う学校は、超お金持ちの人しか
通うことができない、名門学校だ。

私には・・・・好きな人がいる。

クラスメイトの、今井ハルトだ。

いつでもみんなにやさしく
話しかける今井くんのことが
私は好きだ。

でも、彼はいつも
幼なじみの梨里花のことばかり
気にかけている。

叶わない恋だけど、
あきらめない。

あきらめてしまったら、
終わりだから。

「・・・・お嬢様、
最近お顔が優れませんね。
どういたしましたか？」

ユアンの指摘に
私は驚いた。

「・・・・ユアンには
何も隠しごとができないわね」

「図星でしたか」

私はクスクス笑った。

「では、相談しようかしら」

「どんなことでもどうぞ、
ユウリ様」

少し恥ずかしいけれど、
いつもユアンに話すと
すっきりするのだ。

「・・・・わたくしには
好きな人がいるのです。
クラスメイトの、
今井ハルトというのですけれど」

ユアンは、驚いたような
表情になった。

「おお、それは・・・・
ご立派なことで」

「でも、その方は
幼なじみの女の子に夢中なのです。
私には振り向いてくれそうにありません」

私は、ため息をついた。

「彼の想い人は、かわいらしく、
やさしく、彼にぴったりな方なのです。
でも、わかっていても・・・・
あきらめられません」

ユアンは
少し考えてから言った。

「何気なく話しかけたりして、
自分の存在をアピールしてみれば・・・・
少し意識してもらえるかもしれませんね」

「・・・・そうですか。
ありがとう。
ユアンはとっても頼りになりますね」

私は、ユアンに微笑んだ。

ユアンの顔が、悲しそうに
見えたのは気のせいだろうか。

ユアンは部屋を出たあと、
小さくつぶやいた。

「ったく、鈍感な姫様だ」

私はいつも通りユアンに見送られ、
家を出て車に乗りこみ、
学校に着く。

今井くんに話しかけてみよう。

だいじょうぶ、私ならできる。
他愛ない話でいいのだ。

昨日は何を食べた、
夏休みはどこに行く、とか・・・・

何気なく今井くんを
探しながら歩く。

「あっ」

誰もいない教室に、
今井くんだけがいた。

これはチャンスかもしれない・・・・
と思ったのだが。

彼のほかに、もう１人、
人がいた。

「梨里花ちゃん・・・・」

私はつぶやいた。

「梨里花。
俺は、お前が好きだ。
幼なじみから彼氏に・・・・」

「もちろん。
よろしくお願いします、ハルト」

どう考えてもこの雰囲気は・・・・
私は走り出した。

＊　‐‐‐　＊　‐‐‐　＊

「ただいま戻りました」

「お嬢様」

ユアンが駆け寄ってくる。

「だいじょうぶですか？
何かありましたか」

この声。

ユアンの声。

すごく落ち着く、
頼りになるユアンの声だ。

「今井くん・・・・
別の人が好きだったみたい」

思わず一粒の涙がこぼれた。

ユアンは無言だった。

「・・・・、だったら」

ぼそっと
ユアンがつぶやいた。

「え？」

「俺だったら、お嬢様に
そんな顔はさせない！」

ユアンは力強い瞳で
私を見つめる。

「俺じゃ、ダメですか」

すごく、ドキドキする。

ユアンの顔が近づく。

「そばに、いさせてください！」

私、ユアンのことが・・・
好きかも。

＊ｅｎｄ＊