１０年後の約束

CAST橘侑里

作者：うあ

2025.10.21

私、ユウリ。
私の自慢は、
勉強が得意なこと。

自分で言うのは
気が引けるけど、
私って、そこそこ完璧女子だ。

勉強は大得意、
スポーツもそこそこ
（弓道が１番得意！）、
顔もたぶん、いい。

コミュ力は、高い。

そこそこ人気者な
自信もある。

親がお医者さんの私は、
小さい時から医者になると
いろいろな人から
決めつけられてきた。

「ユウリはお勉強が得意だから、
お医者さんにぴったりだね」

「いやー、パパは誇らしいよ。
パパを超えるくらいの
医者になるんだぞ」

「ユウリちゃんは頭がいいから、
がんばって勉強すれば
お医者さんになれるね！」

そんなふうに周りから
言われてきた私は、
正直うんざり。

だって、別に
医者になりたいとは
思わないんだもの。

医者はすごいと思うし、
憧れる気もちもある。

だけど、私は嫌なのだ。

人から縛られるのが。

かと言って、
別になりたい職業もない。

「ユウリ、今度パパの病院で
中学生が参加できる見学が
あるんだが、来るか？」

期待に満ちた目で見られ、
私は断れない。

「あーうん、興味あるよ」

ほらね、やっぱり。

パパ、めっちゃうれしそうな
顔するんだもん。

断れるわけないじゃん？

＊　‐‐‐　＊　‐‐‐　＊

そして、その見学の日。

手術室を見せられたり、
人体模型で
点滴のやり方を学んだり、
かなり充実している。

けれど正直、楽しいとも
思わなければ、
興味もわいてこない。

たぶん、向いてないのだ。

「次は、あっちに行きまーす」

移動する途中、
見覚えのある姿を見る。

「・・・え？」

思わず声をあげた。

クラスの陽キャ、
中心的存在の今井ハルトが
青白い顔で震えながら
座っていたから。

彼は、こちらには気づいていない。
どうしたんだろ。

あの顔、普通じゃなかった。

ただの風邪とかじゃないんだろう。

あんなにいつも元気そうなのに、
どうしたんだろ？

結局、見学は
全然楽しめなかった。

今井ハルトを
見てからというもの、
あの青白い顔が
目に焼きついて離れない。

これは、彼のプライベート。
踏みこんじゃいけない。

そうわかってたのに、
私は彼に聞いてしまった。

「・・・見てたんだ」

彼は哀し気に笑う。

その笑顔に、胸が痛む。

「ごめん。
言いたくなかったら、全然・・・」

「いや。誰かに
聞いてもらいたかったんだ。
放課後、残ってくれる？」

・。・:・°・。・:・°・

放課後。

「俺さ、心臓の病気で。
結構重いんだ。
それでいつもあの病院に行ってる。
橘先生、やさしいよ。
親身になってくれるし」

パパの知らない一面を
見たような気がした。

「３０歳まで生きられないかもって、
言われてる」

「そんな・・・！」

私は思わず口をおおった。

「遠いことみたいに
思えるけど、あっという間だよね。
そんなに先でも、怖いんだ。
俺が死んだら、お母さん、
なんて言うかな・・・」

見てられなくって、
私は思わず叫んだ。

「治す！」

「え？」

濁流みたいに
言葉が流れて出た。

「私が、絶対立派なお医者さんになって、
治すから！
心臓が壊れても、心が壊れても、私が治す！
治し続ける！　１０年後までに！」

１０年後。

私は２５歳だ。

１０年後の約束をかわす。

彼は笑った。
幸せそうだった。

私はその日に、決めた。

立派な医者になること。

それが、私が今、
彼の横に立っていられる
理由です。

＊ｅｎｄ＊