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片道、風の中で

CAST松田 美優松田 美優

作者:T・K

新二コラ学園恋物語新二コラ学園恋物語2025.01.19

「松田、
ちょっと急ぐぞ」





太陽くんがそう言って、
自転車を引きながら
私を振りかえった。





夕方の風が通りぬける
河川敷。





学校の帰り道、
こわれた私の自転車を
2人で押している。





タイヤが地面をすれる鈍い音と、
川ぞいにゆれる草のざわめきだけが
響いていた。





「ごめんね、
こんなこと頼んじゃって」





「別にいいよ。
たまには歩くのも悪くないし」





彼はあっけらかんと答えたけれど、
その横顔はどこか穏やかで、
何かを考えているようにも見えた。





それにしても、こんな風に
2人きりになるのは初めてだ。





クラスでは
みんなの中心にいる太陽くんと、
目立たない私。





彼が気軽に話しかけてくれるのは、
たまたま席が近いからで、
それ以上でもそれ以下でも
ないはずだった。





でも、今日は違う気がする。





夕方の薄いオレンジ色の光に
包まれながら、





彼の声や仕草が
いつもより近く感じる。





「・・・太陽くんってさ、
なんでそんなに誰とでも
仲良くできるの?」





ふと口をついて出た言葉に、
自分でも驚いた。





彼は、少し歩みを
ゆるめて私を見た。





その目には
驚きも怒りもなく、





ただ少し困ったような
やさしい光が浮かんでいた。





「うーん・・・
仲良くしてるって
思われてるだけかもな」





「そうなの?」





「うん。
みんなが俺をどう見てるか、
わかんないけど・・・
俺自身は、そんなに器用な
人間じゃないんだよ」





彼の言葉が、風にのって
すぐに消えていく。





でも、その表情だけは、
夕焼けに照らされて
くっきりと記憶に残る気がした。





「それって、
なんか意外かも」





「だろうな。
松田から見たら、俺って
単純で明るいだけのやつに
見えるだろ?」





その言葉に私は
あいまいに笑って
うなずくしかなかった。





でも、本当は
ずっと前から気づいていた。





彼の笑顔の裏には、
誰にも見せない影があることに。





「でも・・・
それでいいんだよ。
松田が笑ってくれるなら、
俺はそれで十分だから」





一瞬、時間が
止まったようだった。





風が止み、音が消え、
彼の言葉だけが耳に残る。





「・・・私、笑ってた?」





「うん、さっきからずっと」





そう言いながら、
彼はまた前を向いて
歩き出した。





何かを隠すように
急ぎ足で。





私はその後ろ姿を
追いかけながら、
胸がぎゅっと
締めつけられるような
気持ちになっていた。





風が少し冷たくなりはじめた
河川敷で、





私たちは
ただ前に進んでいく。





その場面が、私のなかで
永遠に続けばいいのにと
思いながら。





帰り道の終わりが近づくたび、
心のどこかで
別れを惜しむ自分がいた。





今日のことを、彼はどれだけ
覚えていてくれるのだろう。





でも、たとえそれが
一瞬の記憶だったとしても、





私はこの夕方を
ずっと大切にしたいと思った。





私の心の片隅に、
小さな風が吹き続ける。





その風の行き先を知るのは、
きっとまだ先の話だ。







*end*

※掲載されている物語はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。

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