nicola

キーワード検索

幽霊の私は君に触れる。

CAST橘 侑里橘 侑里

作者:ゆうりらぶ

新二コラ学園恋物語新二コラ学園恋物語2025.11.29

「私、モノを触れない」





明らかな拒絶にも、
その人は引き下がらなかった。





「君、どこ行くの?」





「ただの、散歩」





「じゃあ、一緒に歩こう」





彼は、私の腕をつかもうとした。
しかし、つかめない。





当然だ。





「・・・・え?」





困惑しているようだった。





「私、幽霊なので」





迷うことなく言う。





彼は、ばっと顔をあげた。





「幽霊?
その、幽霊の知り合いは・・・・
いたりする?」





「え?」





先ほどにもつまらないと
言っていた通り、
私には幽霊の友達などいない。





「会いたい人がいるの?」





図星だったようだ。





彼はちょっと困ったように笑った。





「会ったことはないけれど・・・・
恩人なんだ。
一度会って礼を言いたい」





「へえ」





今まで考えたことはなかったけれど、
あの猫の飼い主は
どんな人だったんだろう。





私に感謝してたりするのかな。





そう考えると面白かった。





「でも、ごめん。
知り合いはいないの。
たいていの人はまっすぐ
天国に行くことを選ぶから」





「そうか・・・・
君はどうしてこの世にいるの?」





お母さんのため?
天国に知り合いはいないから?
この世に執着しているから?





「大事な人がいるから。
見守りたいんだ。
その人がいつか死ぬ時がきたら、
いっしょに逝きたいと思ってる」





そう言うと、彼はちょっと
考えこむように拳をあごに当てた。





「死んだらそれで終わりじゃないんだね。・・・・
俺も死んだらその人に会えるのかなあ」





その人というのは、
恩人のことだろう。





「その人が天国にいることを選べば
いつかは会えるかもね。
でも、天国は広いから。
私は行ったことがないけど。
普通の人には私は見えない。
退屈な日々だよ」





思わずため息をついた。





すると、彼はやさしく微笑んだ。





「なら、俺と話せばいい」





「?」





一瞬、何を言っているのか
わからなかった。





死んで2年も経った、
人と話すことも忘れるような
長い1人ぼっち期を過ごしてきた私と、
話してくれる?





いや、そんなのいいよ。





そう言おうと思ったけど、
気づけば違う言葉が
口をついて出ていた。





「毎日、話してくれるの?」





何言ってんだ私。





自分をちょっと責めたけど、
彼は拍子抜けするくらいあっさり
うなずいた。





「もちろん。
幽霊のこと、興味あるし。
あ、俺、今井ハルト。
君は?」





その瞬間、私の暗い幽生に
ぱっと光が灯った。





「私、橘ユウリ。よろしく」





これが私と彼の出会いだった。





私たちは毎日
同じ場所、同じ時間に
そこに立ち寄り話しこんだ。





朝早い時間、30分くらい話して、
彼が学校に行くのを見送った。





ハルトは高校1年生らしい。





私も生きていたらハルトと出会い、
普通の人として
しゃべっていたのかもしれない。





夕方、なんとなく
ハルトの学校の周りを散歩していたら
ハルトともう1人、
かわいい女の子が出てきた。





「・・・・ニコラモールで」





「うん。めっちゃ楽しみだよ」





「俺も。じゃあな、シオリ」





「バイバイ、ハルト」





どうやらハルトは
シオリという女の子と
仲がいいらしい。





「あ、ユウリ。奇遇だね」





ハルトがさわやかな笑顔で
手を振ってきた。





急に、生きていることが
うらやましくなった。





ハルトの、楽しそうな笑顔。





シオリさんの、楽しそうな笑顔。





街を歩く人々の楽しそうな笑顔。





青春を満喫してる高校生が、
うらやましかった。





「・・・・いいな」





思わず言った。





ハルトは「え? なんて?」
と近づいてくる。





「生きてるって、いいな」





「・・・・」





ハルトが言葉を失った。





「ハルトは生きてて、
楽しそうで、いいな!」





思わず叫んだ。





ハルトの苦しそうな表情を見て、
正気を取り戻す。





さっきまでの悲しみ、怒り、
うらやましい気もちが全部飛んで、
申し訳ないなという気もちに変わる。





「・・・・ごめん」





中学2年生のままの私。





シオリちゃんよりも
だいぶ背が小さくて、
幼い顔をした私。





自分がみじめで仕方なくて、
涙が出た。





───ふと、温かさを感じた。





ハルトが私を抱きしめていた。





なんで?





ハルトは私には
触れられないはずなのに。





なのに。温かい。
そう感じた。





「前から、思ってたんだけど」





ハルトが切り出した。





私は耳をすませる。





「ユウリは、俺の恩人、
なんだよね」





耳を疑った。





ハルトがずっと言ってた、恩人。
それが私?





「俺の飼い猫を助けてくれた。
それで、死んでしまった。
それって、ユウリだよね」





はっとした。





私が助けた猫。





その猫の飼い主は、
ハルトだった。





自分の大切なペットを助けてくれた私に、
ハルトは感謝してる。





「・・・・助けてよかった」





今までずっと、後悔してた。





誰のかもわからない猫を助けることで、
自分の命を捨てたことを。





でも、今、心から思う。





「助けてよかった」





ハルトが笑ってくれて、
よかった。





私はハルトの温かさを
こんなにも感じてる。





私の温かさを、私の大好きを、
お母さんはどこかで
感じているのかもしれない。





触れられないけれど、
ハルトも私の感情を
受け止めてくれているのかもしれない。





「大好きだよ」





そっとささやいた。





気もちといっしょに。





「俺も」





ハルトを感じる。





彼の温かさを感じる。





幽霊だけど、
何も触れられないけど。





でも、あなたの温かさを感じてる。







死んでから2年、
1番温かい日だった。







*end*

※掲載されている物語はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。

Like

この物語に投票する

橘 侑里が主人公の物語が主人公の物語

NEWS!NEWS!

nicola TVnicola TV

物語募集

「ニコラ学園恋物語」では、ニコ読の
みんなが書いたニコモを主人公にした
オリジナルラブストーリーを大募集中!

応募する

主人公別 BACK NUMBER主人公別 BACK NUMBER

  • nicola TV
  • 新二コラ恋物語 恋愛小説を大募集!