nicola

キーワード検索

君のトロンボーン

CAST橘 侑里橘 侑里

作者:ぐりいん

新二コラ学園恋物語新二コラ学園恋物語2025.10.25

私はいつも、
河原を歩いて帰る。





それは、誰かの音が
聞こえるから。





当時小6だった私は、
誰の音なのかを
何の音なのかを確かめたくて、
吹奏楽部に入部した。





「ユウリちゃんは
なんで吹部に入ったの~?」





先輩が聞いてきたので、
私は率直に答える。





「前に、河原でトロンボーンを
吹いてた人がいて。
その音を探し求めて入りました」





「へー、ロマンチックじゃん」





先輩は意外そうにつぶやいた。





失礼な。





河原で聞こえた音は、
トロンボーン。
これは間違いない。





でも、誰が吹いていたのだろう。





入部した頃に、
一度聞いたことがあった。





「皆さん、
河原で吹いたりします?」





みんな、
首を横に振った。





やさしくて、強くて、
どこか切ない音色。





私は今でもあの音を求めてる。





だけど、私はしばらく、
あの音を聞いてない。





中学に入ってから、
あの音は聞こえなくなった。





河原を毎日歩いた。





あの音を求めて。





あの音は、私の小さな支えと
なっていたのに。





小学生の頃、私は学校が
つまらなかった。





別にいじめられてたとかはないけど、
みんな低レベルで、
バカみたいな話ばっかしてたから。





あーつまんないなって。





でも帰りに、
あの音を聞いた。





その瞬間、
見つけたって思った。





あの音は、
私を導いてくれた。





部活が終わって、
私は河原を歩いていた。





ずっと、2年くらい
探してるのだから、
いるはずなんかいないのに、
あきらめられない私がいる。





重々しい音が響いた。





私は思わず期待をこめて
あたりを見渡した。





誰もいない。





ポーン、ポーン。





重々しいけど、
その音はどこか繊細で、軽い。





私は走って姿を探す。





私はきっともう、
恋をしてる。





誰かの音に、その誰かに。





見つけた!





ピンと伸びた背中。





堂々と立っている。





真新しい制服。





トロンボーンを吹いてる。





私はうれしくて、
自分のケースを開けた。





彼の10メートルくらい後ろから、
音を鳴らした。





ポーン。





彼の背中が動いた。





驚いたようにこっちを見てる。





高校生だろうか。





大人に近づきつつある、
まだ幼い顔。





「私、あなたの音に
救われたんです」





マウスピースから
口を離して、言った。





「私、橘ユウリって言います」





彼はニカッと笑った。





「俺、堀口イブキ」





色々話したい。
そう思う。





なんでしばらく
トロンボーンを演奏してなかったの?





なんで河原で吹いてるの?





たくさん、聞きたいことがある。





たくさん、話したいことがある。







これは、新しい恋の幕開けだ。







*end*

※掲載されている物語はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。

Like

この物語に投票する

橘 侑里が主人公の物語が主人公の物語

NEWS!NEWS!

nicola TVnicola TV

物語募集

「ニコラ学園恋物語」では、ニコ読の
みんなが書いたニコモを主人公にした
オリジナルラブストーリーを大募集中!

応募する

主人公別 BACK NUMBER主人公別 BACK NUMBER

  • nicola TV
  • 新二コラ恋物語 恋愛小説を大募集!