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君への恩返し

CAST橘 侑里橘 侑里

作者:なるぅ

新二コラ学園恋物語新二コラ学園恋物語2025.10.27

「ほんっと最悪・・・」





わたしは、小声で毒づいた。





まったく、
神様ってひどい。





唯一の友達、初華は
転校していくし、





こっち見て
こそこそしてる人いるし。





陰キャで人と関わるのは嫌い、
うるさいのはニガテ。





わたし、橘侑里ってのは
そういう人なのだ。





だからモテない。





男女両方とも。





だって、私には
苦い過去がある。





友達といつものように
遊んでた。





4人で仲がよくて、
いつもいっしょ。





1人の友達が
恋バナを始めた。





「あたし、2組のユアンくん
好きなんだよね」





「えーっ! 応援するよ」





「かわいいから自信もって!」





わたしは彼女が悲しまないように
ある情報を伝えた。





「ユアンくん、花岡さんが
好きみたいだけど、いいの?
ほら、2組の花岡ホノカ。
あの子、かわいいしやさしいから、
モテるっぽいよ」





一瞬で空気が凍った。





みんな冷たい目で
わたしを見る。





ユアンくんのことを
好きだと話していた彼女は、
目を真っ赤にして叫んだ。





「もういいよ、ユウリ!」





そして、その場を去った。





あとの2人は、わたしを
非難するみたいに見ながら
彼女についていった。





ハブられた。





わたしは、
人と仲よくするのは嫌い。





それ以上に、ニガテなのだ。





「橘さん。あのさ、ひとり?」





さっきまでわたしを見ながら
こそこそとしゃべっていた
星乃あんな・・・





と、そのとりまきがやってきた。





わたしは星乃あんなたちが
好きじゃない。





なんかキャピキャピしてて、
騒がしい感じが嫌いだった。





これはどう考えても
馬鹿にされている。





だって、見ればわかるだろう、





わたしがぼっちだってことぐらい。





初華がいなくなって
ぼっちになったわたしを
いじめようとでも思ってるのか。





これは強気で行こう。





「え、何? わたしは
どーせひとりですけど、何か?」





私の冷たい返事に、
彼女等は面食らったみたいだった。





いいぞ、その顔。





「あ、いや・・・
こっちに来て
いっしょに話さない?」





「何それ。
ぼっちのわたしへの
哀れみかなあ」





わたしが冷たく突き放すと、
星乃あんなはサッと顔をゆがめた。





え、何、と思った瞬間、
彼女は泣きだした。





「え、え?」





戸惑っていると、
彼女のとりまきが怒りだす。





「ひっどぉー!
話しかけただけで
それはないでしょ」





「橘さん、性格悪いよ~」





「あんちゃん
泣いちゃったじゃんっ!
あのね、あんちゃん、ずっとずっと
橘さんと話してみたいって
言ってたんだよ」





『あのね、あんちゃん
ずっとずっと橘さんと
話してみたいって言ってたんだよ』





非難めいた声で言われたその言葉が、
どうしても耳に残って消えなかった。





やらかしてしまった。





クラスのボス的存在の
星乃あんなを泣かせてしまった。





みんなわたしを
にらみつけるように見ていた。





星乃あんなを除いて。





彼女だけはなぜか、
あんなにひどいことを
言われたというのに、
ニコッと笑ってわたしを見る。





星乃あんな。
何を考えているんだろう。





それにしても、
大変なことをしてしまった。





猛烈に初華に会いたかった。





会って、すべてを話したかった。





「初華あ・・・」





泣きそうになりながら
つぶやいた。





初華あ・・・





「はい、初華だよーん」





変に高い声が聞こえた。





いや、絶対初華じゃない。





なんか・・・おっさんが
無理して高くしたような声というか。
でも、言葉遣いだけは
そっくりだった。





「何を悩んでるのっ、ゆーり?」





ゆーり。





そう初華に呼ばれていたのを
思い出した。





誰だ。
わたしと初華のことを
よく知ってる人だ。





「だ、だれえ・・・」





不気味さにちょっと震えながら、
声を絞り出した。





「あったしっだよー」





ぴょこっと木の陰から
現れたのは・・・





クラスメートの今井暖大。





「うんわあ、きんも・・・」





思わず言った。





彼のやっていたことを考えると、
背筋がぞっとした。





「え? あれえ、
ひいてる・・・?」





「そりゃひくよ・・・」





「まあ、それもそうか」





今井暖大は大声で笑った。





耳に悪い。





「今日そういや
ヤバイことになってたねー。
橘さんおっかないなーって思ったよ」





笑いながら彼は言う。





「・・・だって、
信用できないもん」





「うん。山本さん以外ね」





わたしが信用できるのは
初華だけ。





彼はそのことを
よくわかってる。





「たぶん、橘さんは
決めつけちゃってるんだろうなあ・・・」





ぼそっと彼は言った。





「決めつける? 何を?」





彼は笑うだけ。





「じゃね。また明日!」





・・・また明日も
会うつもりなのか。













・。・。・。・。・。・。・。・。





「橘さんは人が嫌いなんでも、
ニガテなんでもなくて、
信じられないだけだよ」





彼は、にっと笑う。





なんだか、重要なことに
気づかされた気がした。





「そっか・・・
でも、わたしは信じられない」





「信じなきゃ
ほんとの意味で
友達にはなれない」





スパっと言われた。





「・・・友達は、
初華だけでいい」





「なら、それはそれだね」





いいわけないじゃん、って思う。





でもわたしは、素直になれない。





「もっとまっすぐになって。
僕は素直な橘さんが見たい」





「素直なわたし・・・?」





彼は笑うだけ。





「じゃね。また明日!」





・・・また明日も
会うつもりなのか。













・。・。・。・。・。・。・。・。





「やっぱりさ、
信じてみるべきだよ。
この間君に話しかけた星乃さんは、
君のことを何も知らない。
君も何も知らない。
なら、これから信じてみればいい。
知らない人を信じるったって、
無理があるからね」





彼には何の悩みも
ないんだろうな・・・





そんなことを恨めしく思いながら
考えていた私は、
とんでもなく浅はかだった。





今井暖大には小さな弟がいて、
彼はその弟の世話で忙しい。





そのうわさを聞いたのは、
あの木で彼と出会ってから
2週間後くらいのこと。





わたしは毎日
あそこで彼と会って、
わたしの人間関係のことについて
話をしてもらったり、
聞いてもらったりしていた。





その小さな時間が、
私の支えだった。





「お父さんいなくて、
お母さんは仕事で忙しいらしいよ」





「ええ、大変じゃん。かわいそ」





わたしは思う。





彼はきっと「可哀想」だと
思ってもらいたくなかったのだ。











・。・。・。・。・。・。・。・。





いつになく元気のない
彼がいた。





木の近くに。





「僕は・・・
大変だけど、つらくはない。
弟のこと、好きだし。
勝手に可哀想なんて
思ってほしくない!」





いつになく太い声で、
彼は怒鳴った。





今度はわたしが
話を聞く番だ。





「橘さん見つけたとき、
運命だって・・・
どこか似てるなって思った。僕に」





「今井君に?」





どこが?
明るく活発な彼と?





「素直になれないとこ」





でも、彼はやっとわたしの前で
弱みを出してくれた。





素直になってくれた。





「私も、素直になる。
まっすぐになる。
今井君がわたしを信じたみたいに、
わたしはみんなを信じる」





彼の目に、光が差した。





「君への恩返しに、
わたしは人を信じる」





明日学校に行ったら、
星乃あんなと話してみよう。





わたしはそう思った。







*end*

※掲載されている物語はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。

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