昔はタコ、今はシメサバ
作者:ライラック
私には何もない。
これといった長所が。
短所は、
長所がないところ。
私は、ユア。
高校1年生。
すごく平凡な人生を
過ごしてる。
何か欲しい。
他人と比べて突出した何か。
それがあるだけで
自分の存在価値となるくらい
圧倒的な何かが欲しい。
勉強も運動も
そこそこはできる。
自分で言うのもなんだが、
顔だって結構かわいい。
でも私には、足りない。
絶対的な何かが。
「よく分からないこと
言ってないで、彼氏でも作りな」
親友のヒヨリが横で笑う。
「よく分からないかなぁ」
私はため息をついた。
私とヒヨリは昼休み、
校庭のベンチで
一緒にごはんを食べていた。
今日も良い天気だ。
校庭では男子たちが
サッカーをして楽しんでいる。
「恋をしたら女は変わるわよ」
ヒヨリが楽しそうに言った。
「いや、その変化がこわいのよ。
私が望まない方向の変化になりそうで。
それに私は、私のことが結構好きだし、
私は私のものよ。
誰かのものになんてならないわ」
私は口をとがらせた。
「恋はいいわよ」
ヒヨリは、のん気な口調で言った。
「そうかなぁ。
恋なんかが私の支えに
なってくれるかしら」
「支え?」
「私が一番恐れてるのはこれよ。
そこそこの人生を歩んできた人が、
ある日ぷっつりと心の糸が切れてしまうのよ。
きっかけがあるかないかも分からないけど、
とにかく糸が切れてしまうのよ。
そんな本当に、本当に困った時に、
私を支えてくれる、
私には無条件に生きてる価値があるんだと
思わせてくれる何かが欲しいのよ」
「なんだか哲学的ね」
ヒヨリは、穏やかな口調で言った。
「たとえばよ、私に好きな人が
いるとするじゃない。
でも『好き』なんて簡単に変わるじゃない。
現に私は、昔はタコが一番好きだったけど、
今は一番好きなのはシメサバよ」
「寿司ネタと一緒にするのは
さすがに違うんじゃない」
ヒヨリはおかしそうに笑った。
「でもさぁ、私の言う『好き』なんて
結局その程度のものだよ。
自分を犠牲にしてまで
他人に尽くしたいとは思わない」
「尽くすのだけが
恋愛じゃないと思うけど」
ヒヨリが冷静に言った。
「もしも自分の何かを我慢して
相手に合わせたら、
私たぶん、どこかで糸が切れるわよ。
私の人生は私のものなのに、
なんで他人のために生きてるんだって
ある日ハッと気づくんだわ」
私は、重苦しいため息をついた。
「考えていても仕方ないわよ。
行動しなきゃ」
ヒヨリは、にこやかに笑った。
ない、私にはない。
自分をズタボロに傷つけてでも
あの日に行動しておいて良かったと
思える時のために
自分を投げ捨ててまで
走り出せるものがない。
「そこまでして
彼氏なんか欲しくない」
私は、口をとがらせた。
「良い相手に
めぐり会えればいいけどね」
ヒヨリが、空を見上げながら言った。
「そんなの宝くじと同じよ。
恋愛なんて運ゲーよ。
男なんか滅多に当たらないわ。
奪われるものだけ奪われて、
飽きたら捨てられるのよ」
「ずいぶんと悲観的ね」
ヒヨリが苦笑いをした。
言葉がひとつ足りなかったくらいで、
態度がひとつ違ったくらいで、
ちょっと理想の姿と異なったくらいで、
すべて壊れてしまうような関係を
私は愛とは呼ばない。
私が思う愛は、もっと深いもの、
たとえるならば穏やかな海、
広がる空、ゆるがぬ大地。
でも私がそのような愛を
誰にも与えてないのに、
自分だけ与えてくれなんて、
あつかましいにもほどがある。
「恋愛がイヤなら、推し活でもしたら?」
ヒヨリが言った。
「芸能人なんて
結局どこまで行っても他人じゃん」
私は、首を横にふった。
「でも、それが生きがいになる人も
いるでしょ?」
「他人の人生に自分の人生を
乗っけるのが好きじゃない。
他人の夢を応援することで
自分も夢見た気になるのが好きじゃない。
私は、私の夢を見るべきだわ」
「ユアの夢って、なんだっけ?」
ヒヨリが首を傾げた。
それがない、
それがないからこうなってる。
私にも夢があれば。
人生をかけて
勝負したいくらいの夢が。
「走ってみようかな」
私は、ポツリと言った。
「どこまで?」
「愛が見つかるまで」
・*。・ 1ヶ月後 ・。*・
「なんで3人でごはん食べるのよ?」
昼休み、
ヒヨリが苦笑いをした。
「3人の方が楽しいじゃん」
私は、お弁当を広げながら言った。
「そうそう」
ダイジもお弁当を広げた。
そう、私の彼氏である。
向こうから告白してきたので
オッケーした。
「初めてのデートは、どこ行ったの?」
ヒヨリが興味津々な様子で聞いた。
「江の島」
私とダイジが同時に答えた。
「結構遠いわね。
水族館でも行ったの?」
「いや、ずっと砂浜に座って
海を見ながらどうでもいい話をして、
それだけで終わった」
ダイジが言った。
「なによ、それ」
ヒヨリがおかしそうに笑った。
「でも、結構楽しかったよね?」
私がダイジに聞いた。
「そうだね。楽しかったね」
ダイジは白い歯を見せて笑った。
結局のところ、
不完全な私にできることは、
今、目の前のことを
一生懸命やること。
武器が、道ばたに落ちてる
棒きれしかないなら
それで戦ってみる。
そんな日々の積み重ねが、
いつか生きてて良かったと思える日に
繋がっていたらいいなぁ、
なあんてね。
*end*
※掲載されている物語はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
工藤 唯愛

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