唯一の愛
作者:ライラック
「ナンバーワンよりオンリーワンが良い」
みたいな歌が昔に流行ったけれど
私は、そうは思わない。
ナンバーワンじゃないオンリーワンなんて
価値がない。
そんなのはただの
負けた自分をなぐさめる言い訳だ。
だってナンバーワンじゃないと
誰も愛してくれない。
顔、スタイル、性格、
ボーカル、ダンス、しゃべり、対応、
どれをとっても、ナンバーワンじゃなきゃ
いけないのよ、この私は。
私はユア。
職業は、アイドル。
みんなに愛されるために
生まれてきた。
そう、私がみんなのナンバーワン。
でも、現実はそんなに甘くない。
何万人というオーディションを
勝ち抜いた、精鋭ぞろいの
アイドルグループの1メンバーに過ぎない。
選ばれし者の中から、
さらに選ばれし者が選ばれる。
グループのセンターに立つのは、
ただひとり。
私はそこに
立ち続けなくてはいけない。
アイドルなんて、結局は
他のアイドルとの比較で価値が決まる。
ナンバーワンにならないと
誰も見てくれない。
オンリーワンなんて、
孤独の意。
「じゃあ結局、ユアは
他者との比較の中でしか
生きられないんだ」
向かいの席に座っている
仕事仲間で、友達のミサキが
美味しそうにメロンソーダを
飲みながら言った。
私とミサキは、仕事終わりに
カフェでごはんを食べていた。
「あのねえ、
そういう問題じゃないのよ。
てか、何が言いたいのか
イマイチ分からない。
あんたの話は難しいのよ」
私はサンドイッチを
ほおばりながら言った。
「だって、他のアイドルと
自分を比べてるじゃん」
「私が比べてるんじゃないの。
みんなが私を
他の子と比べてるのよ」
「そんなの、
気にしなくてもいいじゃん」
「気になるわよ。どうしても」
私は、ため息をついた。
正直、最近ちょっと疲れてる。
がんばっても結果が伴わないことなんて
たくさんあるし、
努力が報われないことも
普通にある。
でも、常にナンバーワンを
私は求めるし
人からも求められるから
戦い続けなくてはならない。
みんなの理想のアイドル像である
私を守るために、無理することもある。
本当はありのままの
自分も見てほしい、
なんて、センチメンタルに
ひたるヒマもないくらいに。
「輝き続けないといけないのよ、
私はアイドルだから」
私は、のん気にメロンソーダを
おかわりしたミサキをじっとにらんだ。
「元からユアは唯一無二の存在で
輝いてると思うけど、
少なくとも僕にとっては」
「へえ」
「僕にとってはユアは
他に替えが効かない存在だし、
間違いなくオンリーワンだよ。
それと同時に、僕にとっては
最も大切な存在だから
ナンバーワンでもあるね。
オンリーワンで、かつ、ナンバーワンだよ」
「もしかして、私を口説いてるの?」
「いや、別に正直に
思ってることを言ったんだけど」
「そう言ってくれるのはうれしいよ。
でもさ、アイドルなんて
みんなに愛されなきゃ意味ないじゃん」
私はまた、ため息をついた。
「だからさ、自分のことを
オンリーワンでかつナンバーワンだと
言ってくれる人のことを
大切にしたら良いと思うよ。
そういうのが唯一の愛って
言うんじゃないのかな。
みんなに愛される、なんて無理だよ。
人には好みってものがあるもの」
「それで結局
『自分のことをオンリーワンで
かつナンバーワンだと言ってくれる人』
の数を他と比べちゃうでしょ、
何も変わらないわよ」
私は、口をとがらせた。
「唯一無二なんだから
比較しようがないじゃん。
もしも比較できるものだとしたら
僕の愛がオンリーワンじゃないって
ことになっちゃうじゃん。
比較できないからオンリーワンなんだけど」
ミサキは涼しい顔で
メロンソーダを飲み干した。
「あんた、昼間から
愛とか言って
恥ずかしくないの?」
「恥ずかしいことなんか
何も言ってないから
恥ずかしくないよ」
そう言いながらミサキは
またメロンソーダをおかわりした。
「あのね、私は
ナンバーワンじゃないといけないの。
アイドルは人気商売なんだから」
「ナンバーワンよりオンリーワンだと
言ってくれる人のことを
大切にした方が良いと思うけど」
「なんでよ?」
「ナンバーワンは、他者との比較だから。
そんなの気まぐれですぐ変わるじゃん。
それにオンリーワンだということは
同時にナンバーワンだということだから、
オンリーワンだと言ってくれる人を
大切にしたら
同時にナンバーワンだと言ってくれる人も
大切にしてることになる」
「そんなのキレイゴトよ」
「そもそも、何がナンバーワンだったら
ナンバーワンになるんだよ?」
「売上とか?」
「それも結局は
他者との比較でしょ」
「比較して何が悪いのよ」
「他者が存在しないと
価値が決まらないってのが良くない。
何度もしつこく言うけど
ユアは元から唯一無二の存在なの。
他に代わりとかいないの。
だから、比べる必要なんてないの」
「なんか説教くさいし、
結局何が言いたいのかも
よく分からない」
「まとめると、僕はユアが好きだよ。
他の誰かと比べて好きなんじゃない。
そのままのユアが大好きだ」
ミサキはまっすぐな
目をして言った。
「ありがとう」
「どういたしまして」
「でも、つきあわないわよ」
「分かってるよ」
「フラれた理由も分かってるの?」
「なんでフッたの?」
「それは、私がアイドルだからよ、
決まってるでしょ。
それに、私はあんたのナンバーワンで
かつオンリーワンだからよ」
私はニッコリと
微笑みながら言った。
「そんなユアのことが
大好きだよ」
ミサキもニッコリと
微笑んだ。
*end*
※掲載されている物語はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
工藤 唯愛

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