星の数だけ
作者:ライラック
「工藤さん、
好きな星座って、何?」
「え?」
私は思わず、聞き返した。
クラス1の地味男子であるミサキ君に
教室で突然話しかけられた。
周りが少し、ざわついた。
ミサキ君が自分から
人に話しかけるところなんて
誰も見たことがない。
しかも、なんで星座なの。
私は、ユア。
青春まっただ中のFJK。
でも、私も地味よりのキャラで
恋人はいない。
「いや、好きな星座あるかなって」
「星座は、しし座だけど」
「あ、いやそうじゃなくて、
好きな・・・」
「好きな星座って、どういうこと?」
「たとえば僕だったら
ぎょしゃ座が好きなんだ。
五角形の星座で・・・」
「ぎょしゃって、何?」
私は早く会話を
終わらせたかった。
「えーっと、
ぎょしゃって言うのは・・・」
ミサキ君は、明らかに
戸惑い始めた。
「何あんた?
ユアに話しかけないでよ」
私の親友のヒヨリが
横から口を挟み、
ミサキ君は退散した。
「何あれ?」
ヒヨリがミサキ君をにらんだ。
「知らない。
別に星座を聞かれただけ」
私は別に興味がなかった。
「怖くない?
恋占いとかする気だよ、きっと」
ヒヨリが眉をひそめた。
「やめてよ」
私は苦笑いしながら
ヒヨリと購買に
昼ごはんを買いに行った。
その件はすっかり
忘れていたから、
1週間後に運悪く
宿題のノートを集めて
持って行く係になった時も
何も思わなかった。
係のもうひとりが
たまたまミサキ君で、
放課後に教室で
ふたりきりになってしまっても
特に気まずいとも思わなかった。
私はさっさと終わらせて
ヒヨリとカラオケに行くことしか
考えてなかった。
「なんで星座があるんだと思う?」
ミサキ君が、唐突に私に聞いた。
「ん?」
「僕はね、愛があるからだと思うんだ」
「ちょま。私は星座に興味ないの。
そうやって相手が興味ない話題を
押しつけるのは、良くないと思うわよ」
私は冷静に言った。
「そ、そうだよね・・・ごめん・・・」
消え入りそうな声で
明らかに落ちこんだミサキ君を見て、
さすがに私は少し
かわいそうに思った。
「星座が好きなの?」
私は仕方なく聞いた。
「うん、星空を眺めるのが
好きなんだ」
ミサキ君の顔が
パッと明るく輝いた。
「それで星座と愛と
何の関係があるの?
やっぱり占い?」
「それもあるけど、
本来の天文学は
暦を作るために発展したんだ。
要するに、カレンダー」
「世界史で暦は
農作業の時期とか知るために
作ったと習わなかったっけ。
暦と愛と、どういう関係があるの?」
「工藤さんはどんな時に
時間が気になる?」
「電車間に合うかなー、とか」
ミサキ君と話しながらも
私は早くカラオケに行くことを
考えていた。
「僕は、次に好きな人に会えるのが
いつか知りたい時に時間が気になるんだ。
昔の人も、きっとそうだったんだよ。
愛してる人が旅に出た時、
戦地に行った時、
しばらく会えない時、
いつ帰ってくるかなって
指折り数えたんだよ。
だから暦が必要だったんだ」
「なるほどね。ミサキ君って
意外とロマンチストなのね」
私は少し感心して言った。
「だから僕は
次に工藤さんと話せるのは
いつか・・・」
「ちょま。
なんとなく予想してた展開だけど、
私は別に、ミサキ君と話したいと
思ってるわけではないの。
話してみたら意外と面白かったけど、
好きになられるのは困ります」
私は、キッパリと言った。
「僕は工藤さんと
話したいんだけど・・・」
「自分が話したいからって
相手も話したいと思ってるとは
限らないでしょ。
それに、星空談義は
両思いの人とした方が
楽しいと思うわよ」
「僕は、工藤さんが好きだから・・・」
「あー、そういうの良くないわよ。
自分の気もちを相手に押しつけるの。
一番嫌われるわよ。私ももう行くね」
私は宿題のノートの山を
運び始めた。
「じゃ、じゃあ何か
SNS教えてください」
ミサキ君がノートの山を
半分持ちながら言った。
「別にいいけど、
手がふさがってるからID言うね。
それで検索して」
私はスタスタ歩きながら言った。
「あ、ありがとう。
メモを取りたいから・・・」
ミサキ君も手がふさがってるから
何か言ってたけど、
私はもう構わなかった。
・*。・ 1年後 ・。*・
「それからずっと、DMしてるの?」
ヒヨリがあきれたように言った。
「必ず1日1件だけ
同じ時間に送られてくる」
私はスマホを見ながら答えた。
「何それ、絶対ヤバいよ
ストーカーだよ」
「でも、リアルで
話しかけてくることはないよ。
転校しちゃったし。
通話もダメって言ったら
ちゃんと約束まもってくれてるし」
ミサキ君は半年前に
突然転校してしまっていた。
「DMでは、なんて?」
「星座の話だけ。
意外と興味深いよ」
「そう?」
「それと私は、星座と同じだって」
「どういうこと?」
「本当に美しくて、
遠くから見つめてるだけで幸せだけど、
たまに話しかけたくなる、だってさ」
「口説かれてる」
ヒヨリは鼻で笑った。
「うーん、でもね
愛の形なんて人によって違うし、
そういう人がいてもいいんじゃない?」
「そのDMのやり取り、いつ終わるの?」
「さぁ。迷惑にならない限りは
星の数だけ送るって言ってたけど」
「星の数だけねぇ」
ヒヨリはまた鼻で笑った。
でもそれからしばらくして、
ミサキ君からのDMは
全く来なくなった。
私はもう飽きられたかと思って
気にしてなかった。
ミサキ君が星になったことを知ったのは、
その1週間後だった。
最初に私に話しかけた時点で
余命1年だったらしい。
ミサキ君は自分の病気のことを
知っていて、
近付いてくる死の恐怖と戦いながら、
私とのDMを
唯一の心の支えにしていたらしい。
ありがとうございました、
そんなDMを
代理のミサキ君のお母さんから
受け取った。
ぎょしゃ座って
どんな星座なんだろ・・・
私は本で調べながら
涙が止まらなかった。
*end*
※掲載されている物語はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
工藤 唯愛

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