恋愛同盟
作者:ライラック
いつも失うことを恐れてる。
若さ、美しさ、友達、
今この時の私を支えてくれてる感情。
それらが失われた時、
私はどうなるのか。
考えるだけで、恐い。
私は、ユア。
悩み多きFJK。
昼休みに教室を見渡す。
ここで、素朴な疑問。
「みんな、何を考えて
生きてるんだろう?」
「深刻な顔して、何考えてんの?」
クラスメイトのダイジが
私に話しかけた。
「なんだ、ダイジか」
我に返った私は
カバンからお弁当を取り出した。
「一緒に食べてもいい?」
私の返事を聞く前に
ダイジは売店で買ってきた
カレーパンを食べ始めた。
「ダイジって
何考えて生きてんの?」
私は、お弁当の卵焼きを
つつきながらボンヤリと聞いた。
「別に。
明日の昼は何食おうかなって」
ダイジは早くも2個目の
カレーパンに手をつけた。
「はぁ、あんたは幸せでいいわねえ」
私は、重苦しいため息をついた。
「ユアは、幸せじゃないの?」
「自分でも分かんない」
私はぐったりと、うなだれた。
「あんまり考えすぎない方がいいよ」
「なんでよ?」
「考えても答えなんて出ないでしょ」
「それは、そう」
私はまた、ため息をついた。
よく分からない。
他の人が何を考えているのか。
人間は、常に年をとる。
いつか老化し、死ぬのが確定してるのに、
それが恐くないのだろうか。
なぜ平気で笑ってられるんだろう。
「なんでみんな
何も考えてないんだと思う?」
ダイジが3個目のカレーパンを
美味しそうに食べながら聞いた。
「そんなこと、私が知りたいわよ」
「みんな認めたくないからさ、
宇宙の歴史に比べたら、自分の人生が
取るに足らないものだという事実を」
「へえ」
「俺は、プロ野球選手にもマンガ家にも
アイドルにも大富豪にもなれない。
もちろんオリンピックにも出れないし、
東大にも入れない。
普通のサラリーマンとして
凡庸な一生を終えるだろう。
歴史に名を残すこともない。
どうだ、くだらないだろ?」
ダイジは、なぜか自信満々に言った。
「はぁ」
「他のみんなもそうだよ。
でも、どうしてもそれを認めたくない。
自分は、自分の人生は、他とは違う
唯一無二の価値あるものだと信じたい。
だから、本質から目をそむけて
今日も何かに夢中になってるフリをしている。
勉強、部活、恋愛、推し活、なんでもいい。
自分は、無価値だと感じる瞬間から
みんな逃げたいのさ」
そう言ってダイジは、
4個目のカレーパンを食べ終えた。
「それは、言い過ぎだと思うけど」
私は、あきれてため息をついた。
「だから俺は、世界に
ささやかな抵抗を試みている」
「はぁ?」
「世界が俺を無価値だと言うのならば、
俺は、俺自身で自分の人生に
価値を見出そうと」
「何を言ってるのかよく分からない」
私は、正直に言った。
「俺、ユアのことがめっちゃ好きでさ」
ダイジが真剣な瞳になった。
「ちょま。
何がどうなってそうなったのよ。
話の展開おかしいでしょ」
「いやだからさ、
俺は、ユアを好きっていう
自分の気もちだけは、大切にしたいんだ。
世界の歴史に残らなくても、
俺は、確かにユアを愛してるんだ。
ユアだけは、愛して、愛して、
愛し抜きたいんだ。
それが俺の生きる意味」
ダイジは、私の手をぐっとつかんだ。
「くだらない。あぁくだらない。
そんなこと言って本当は、
私のことなんかどうでもいいのよ。
あんたのその『ささやかな抵抗』とやらに
私を利用したいだけじゃないのよ。
バカにするのもいい加減にしてよね」
私は、ダイジの手を振りほどき、
お弁当を片づけて、その場から立ち去った。
* ‐‐‐ * ‐‐‐ *
「バカバカしい」
家に帰った私は、ベッドに仰向けになり
ひとりごちた。
なにが「ユアを愛してる」だ。
愛してる、なんて簡単に言うな。
でも、ダイジの言ってることが
まったく理解できないわけでもない。
人を好き、という自分の中の
美しくやさしい感情まで
否定してしまったら、
それこそ自分で自分の存在を
否定していることになる。
「まったくエゴが絡まない
恋愛なんてないか」
私は、またひとりごとを言って
ため息をついた。
何か、欲しい。
自分に価値があると信じ切れる何か。
もしそれがないのならば、
自分が無価値だと思い知らされた時に
そばにいてくれる人が欲しい。
その両方がなければ、
この先本当に困った時、
私はどうして前を向いたらいいのだろう?
* ‐‐‐ * ‐‐‐ *
翌日、私はダイジを
校舎の屋上に呼び出した。
「ユア、昨日は、ごめ・・・」
「いいわよ」
「え?」
「つきあってもいいわよ」
「マジで? なんで?」
「私も、世界にささやかな抵抗を試みる。
あんたを愛することによって。
だからこれは、同盟よ。
世界に抵抗を試みる者同士の恋愛同盟」
そう言って私は
ダイジの手をつかんだ。
ダイジが私の手を
やさしく握り返した。
*end*
※掲載されている物語はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
工藤 唯愛

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