花火なんて、見なきゃよかった。
作者:はんちゃん
制服が半袖になって少し経つ、
陽射しの強い季節。
私、リリカ。
元気だけが取り柄の、中学3年生。
テニス部のキャプテンです。
女子力なんてものはなくて、
暑いからって、スカートの中を
下敷きであおいじゃうような、
そんな感じ。
クルミ「リリカ、おはよう」
リリカ「あっ、おはよー!」
親友の、稲垣クルミ。
家庭科部と茶道部を兼部していて、
家庭科部の部長。
ゆえに、女子力は激高で、
モテ女子。
おまけに、ピアノが
上手なことで有名で、
コンクールでは、
全国大会の常連だ。
クルミ「今日も、暑いねー」
制汗スプレーを
ハンカチにふきかけ、
それを首にポンポンと
当てているあたり、
私とは、いかに違うかが分かる。
イルマ「おはよ!」
爽やかな笑顔とともに、
教室にあらわれた彼、
安藤イルマ。
サッカー部のキャプテンを
している。
私の隣の席だから、
まっすぐに、
私とクルミのところへ来た。
イルマ「リリカ、おはよ」
リリカ「お、おはよー」
話しかけられたことが
うれしくて、
ついうつむいて、
頬をゆるめてしまう。
そう、私はひそかに
彼を想っているのだ。
イルマ「あ、クルミおはよ!
てか、2人とも早いな」
クルミ「何、言ってんのー!
イルマが遅いんだよ?」
仲よさそうに話す2人は
とてもお似合いで、
胸が切なくなってしまう。
イルマくんはやっぱり、
かわいい子のほうが
好きだよね・・・
常にクルミの隣にいる私は、
ただでさえかわいくないのに、
余計にかわいくなく
見えてしまう。
イルマくんだって、こんな私、
好きなわけないじゃない。
なのに、想い続けてしまう私って、
バカなのかな・・・
○。。・*。。・○。。・*。。・○。。・*。
昼休み。
いつものように、
お弁当を食べようと
クルミを誘いに走る。
だけど・・・
クルミ「ごめーん、彼氏と
約束しちゃってて・・・」
リリカ「あっ、そうなんだ。
こっちこそごめんね!
じゃ、行ってらっしゃい」
クルミが申し訳なさそうに
走っていく後ろ姿を、
私は見つめた。
最近、クルミに
彼氏ができた。
それが誰だか
聞いてないけれど、
話を聞く限り、
2人はラブラブだ。
このことを知っているのは、
私だけ。
みんながこれを知ったら、
一体、何人の男子が
泣くことになるんだろう。
そんな、どうでもいいことを
考えながら、
私は唐揚げをほおばった。
○。。・*。。・○。。・*。。・○。。・*。
放課後。
クルミは彼氏と帰るのだろうと
思ったけど、
昼のことを悪いと
思っていたみたいで、
私と帰ると言ってくれた。
リリカ「本当にいいのに」
クルミ「ううん!
昼休みは、リリカに
何にも言ってなかったから、
さすがに悪いでしょ?
しかも彼氏、今日部活だし」
このやさしさも、
クルミのかわいさの材料の
ひとつなんだろう。
クルミ「もうすぐ花火大会あるね」
気づけば、夏休みは目の前だった。
花火大会。
毎年、クルミと浴衣を着て行って。
必ず最初にりんご飴を買って、
それを舐めながら、
2人の特等席である、
大きな木の下に座って、
大きく咲いた、花火を見る。
小学生の頃から続く、
2人の夏の風物詩。
でも今年は、空気を読もう。
リリカ「クルミは、彼氏と行ってきな」
クルミ「え? そんな、
リリカに悪いよ!」
リリカ「実は私、
旅行に行くことになってて、
花火見れないんだよね。
そうしてくれたほうが
助かるんだけど・・・」
私がそう言うと、クルミは、
クルミ「・・・ありがと。
じゃあ、お言葉に
甘えさせてもらおうかな」
と、照れくさそうに笑った。
旅行なんて、ウソ。
でも、親友だから、
クルミの幸せを1番に考えたい。
今年の夏は、少しさびしいけれど、
ひとりでふらっと花火見るか。
そう思って、
その日はクルミと別れた。
― 花火大会の日 ―
夏休みに入って、あっという間に
今日は花火大会。
私は、毎年着ていた浴衣を
今年も着て、
花火大会へと向かった。
りんご飴を買って、舐める。
去年と同じように、甘い。
でも、去年と同じじゃない。
私は、ひとりなんだから。
イルマくんを誘おうと思ったけど、
そんな勇気、あるはずなかった。
ただでさえイルマくんは、
学年No.1の人気を誇る
モテ男子なんだから。
それを考えると、
ダメもとで誘おうなんて
みじめだった。
リリカ「あっ」
人とぶつかった拍子に、
りんご飴が落ちてしまった。
そのままにして
おこうと思ったけど、
なんだか悪い気がして、
拾おうと身をかがめた。
りんご飴を拾って、
前を見たとき・・・
楽しそうに笑うクルミの姿と、
隣で笑う、見覚えのある
長身が見えた。
すぐに視界がボヤけた。
そして走馬灯のように
思い出される場面。
“クルミおはよ!”
“イルマが遅いんだよ?”
そういえば、2人とも
呼び捨てだったな。
“彼氏と約束しちゃってて・・・”
そう言って走っていったのは、
彼がいつも自主練していた裏庭。
“彼氏今日部活だし”
あの日は確か、水曜日。
サッカー部の練習日は、
月・水・木・金・土だっけ。
クルミの隣で笑っていたのは、
私の想い人でした。
覚悟は、していたことだった。
クルミは、確かにモテる子だし、
もともとイルマくんとも
仲が良かった。
イルマくんも
クルミみたいな子に
惹かれるんだろうなって、
思ってた。
でも、現実を知るって、
こんなにもつらいことなんだね。
だいじょうぶだよ、リリカ。
これが人生で
最後の恋じゃないでしょ?
きっともっと、いい人がいるよ。
そう思ってるのに・・・
涙が止まらないなら。
こんなに胸が
締めつけられるのなら。
花火なんて、見なきゃよかった。
*End*
この作品は過去に投稿された作品をアレンジしたものです。また、掲載されている物語はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
梨里花

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