ハロウィンのあの子

CAST深尾 あむ深尾 あむ

作者:第2号の金魚

新二コラ学園恋物語新二コラ学園恋物語2019.09.02

始まりは、
あの子と出会ってからだ。





・・・あの魔女の格好をした、
左腕がない女の子。







・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





10月29日午後7時





委員会で遅くなり、
私は1人で帰っていた。





私こと深尾アムは、
冷たい風に体を震わせた。





夜の時間が長い、
秋の終わりから冬は、
暗くなるのが早い。





アム「・・・もうちょっとで
冬が来るんだなぁ」





冷たい風と暗い空から、
そう思わせた。





「いたい・・・
いたい・・・」





アム「ん?」





暗闇の中、
見えてきたのは、
うずくまる1人の
小さな女の子。





私は慌てて
駆け寄った。





その子は、
ゆっくり私を
振り返る。





青白い顔で、
魔女みたいな
ワンピースの服を着ていて、
左の袖は乱暴に破られ、
赤黒い液体で染まっていた。





そして、左腕が
なかった。





かける言葉もなく、
私は呆然としていた。





「・・・カチ・・・
青いハンカチ・・・
持ってませんか・・・」





その子は続ける。





「青いハンカチ・・・
貸してください・・・
青い・・・ハンカチ・・・」





私はバックの中から
ハンカチを取り出した。





そのハンカチは、
ハンカチ全体が水色で、
左端に青のニコちゃんマークが
描かれていた。





アム「こんなのでいいの?」





少女は、それを
静かに受け取り、
立ち上がった。





女の子の足が、
切れたりすれたりして
赤く染まっていた。





アム「公園で洗った方が
いいんじゃない?」





私は辺りを見渡した。





この近くにニコ公園が
あったっけ!





アム「あの公園で・・・」





私は女の子を見た。





だか、女の子の姿は
どこにもなかった。





アム「うそ・・・」





左腕のない
魔女の格好をした女の子は、
私のハンカチを持ったまま、
どこかに行ってしまった。





再び、冷たい風が
吹いた・・・













・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





10月30日午後5時





次の日、
学校の授業が終わると、
私は中学からの仲の、
北川カノンに
昨日のことを話した。





カノン「んー・・・
不思議だね。
でもありえるかも」





カノンは
落ち着いた声で
続ける。





カノン「明日ハロウィンでしょ?
だから、魔女の格好をして
その辺をウロウロしてたんじゃ
ないかな」





アム「でも、左腕なかったし、
血だらけだったし、
青いハンカチほしいって言うし、
突然消えるし・・・
人間さがないと言うか・・・」





カノン「だよね・・・
ってことは」





カノン・アム「おばけっ!?」





そう叫んだ後ろに
誰か立っていた。





ユイト「おばけが
いるわけねーじゃん。
高1にもなっても、
信じてんのかよ。
子供だねー」





これから部活のユイトは、
ユニホーム姿で
サッカーボールを
抱えていた。





アム「っユイト!
もうびっくりした。
驚かさないでよ。
てか、子供ってなによ!」





ユイト「うっわー
アムが怒った。
にっげろー!」





笑いながら
教室から飛び出す
ユイトを見て、呆れた。





アム「子供はそっちじゃん・・・」





カノンは
ニヤニヤしながら
私を見つめた。





カノン「ほんっと仲いいよねー!
このまま付き合っちゃえば
いいのに」





アム「小学校から
一緒なだけだよ・・・」





私はユイトが出ていった
教室のドアを見つめる。





ユイトこと、
小原ユイトは、
小学生の時からずっと
私をからかっていた。





先輩「ユイト!
遅れてるぞ。
もっと速く走れ!」





ユイト「すいません!」





ユイトの声は
グラウンドから聞こえた。





移動するの早いな・・・





外はあんなに寒いのに、
ユイトは真剣な顔で
サッカーボールを
追いかけていた。





私をからかうのも、
サッカーへの意欲も、
小学生から
変わらないんだな。





カノン「・・・さてと、
小原を見つめるアムは
ほっといて、
私も部活いこーっと」





アム「ちょっ、カノン!」





カノン「あははー!
赤くなっちゃってー!
じゃーね!
また明日」





アム「・・・うん」





また今日も1人で
帰るのか・・・













・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





10月30日午後5時30分





バレー部のカノン、
サッカー部のユイト、
帰宅部の私。





大会が近い2人は、
ギリギリまで
練習している。





昨日のこともあって、
今日はなんだか1人で
帰りたくなかった。





アム「仕方ないよね・・・」





ふと誰かに
見られている気がした。





ヒタ・・・ヒタ・・・
ヒタ・・・





「どこに・・・いるの・・・」





聞き覚えのある声に
立ち止まる。





ヒタ・・・ヒタ・・・
ヒタヒタヒタッ・・・





トンッ





肩に手が乗る。





「いた・・・
ここに・・・いた・・・」





アム「いやあぁぁっ!」





私は走り出した。





あの子が
見えなくなるくらいの所で
立ち止まり、
息を整える。





アム「なんで・・・私が・・・」





こんな怖い目に
遭わないといけないの・・・?





ハンカチ
貸しただけなのに・・・!





スマホから着信の
メロディーが流れる。





電話に出ると、
ユイトの声が聞こえた。





ユイト「あ、出た。
お前さ、俺の数学のノート
持ってね?
今さ、練習一旦休憩で、
丁度良かったから
かけたんだけど・・・
アム?」





アム「ユイト・・・」





手が震えて
言葉が出ない。





ユイト「何かあった?
・・・あったんだな。
今どこ」





アム「にっ・・・
ニコ公園の・・・近く」





ユイト「待ってろ。
すぐ行く」





その言葉通り、
1分も経たないうちに
ユイトは姿を現した。





肩を大きく
上下させながらも
口を開く。





ユイト「おいっ・・・
なにがあったか
話せるか・・・?」





私は今までの
一部始終を話した。





ユイトは、
ふぅっと息をつく。





ユイト「・・・なんかあってからじゃ、
おせーな」





そう言って、
表情を変えずに続ける。





ユイト「明日、一緒に帰る。
俺、部活休むからさ」





アム「でも・・・
大会近いんじゃないの?」





ユイトは、
疲れた顔で
軽く笑う。





ユイト「部活行っても、
お前のことで
集中できねぇよ」





はっと思い出したユイトは、
片目を細めて、
私を見た。





ユイト「俺と帰んの嫌とか
言わねーよな」





アム「言わないよ、
そんなこと。
むしろ・・・嬉しい」





ユイト「そう・・・か」





ユイトは、練習
戻らないといけないよね。





アム「私の家、
すぐそこだから、
練習戻っていいよ。
来てくれてありがとう。
気持ち、
楽になった」





ユイト「そーか。
ならいいけど。
じゃ、俺戻る」





アム「うん」





そこから家までは、
なにも起こらなかった。













・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





10月31日午前1時





あの子が
夢に出てきた。





『まって・・・まって・・・』
と言いながら、
ずっと私を追いかける。





私は懸命に逃げている。





あの子の姿が見えなくなり、
一息ついていると、
いつの間にか、
女の子は目の前に立っていた。





あの子は口角を上げ、
私に近づいてきた。
そして・・・





アム「触らないでっ!」





自分1人だけの部屋に、
荒い息遣いが広がる。
目から涙、体から汗。





私は布団に
顔を埋めた。





アム「お願い・・・
もうやめて・・・」





おかしくなりそうだった。





あの日あの時あの場所で、
あの子に話しかけていなければ、
こんなことにはならなかったはずだ。





アム「・・・誰か・・・
助けて・・・」





私を・・・
あの子から
引き離して・・・













・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





10月31日午前6時





ゆっくり寝ることが
できなかった。





鏡に映る自分を
見つめる。





くまがすごくて、
笑顔を作ることが
できない。





アム「学校・・・休もうかな」





そうすれば、
カノンやユイトとかに
こんなひどい顔
見られずに済むし、
あの子に会うことも
ないかもしれない。





両親は共働きで、
朝早く夜遅い。





ズル休みしても、
気づかれないはず。





その時だった。





ピンポーン





ユイト「アムーっ!
出てこい!
俺だっ!」





私は玄関のドアを
開けた。





アム「・・・なんでユイトが
ここにいるの?」





ユイト「・・・どーせ、
もう怖い目会いたくないから
今日休む! なんて言って
休む気だったろ」





ユイトは私の心を
一瞬にして
読んでいた。





ユイト「あのなぁ、困んだよ。
もう今日部活休むこと言ったから、
アムがいねーと、
俺今日帰るの1人になるだろーが」





私はいつも通りのユイトに、
自然に笑うことができた。





アム「準備してくるね!」





少し元気を取り戻した私を見て、
ユイトも返すように笑った。





ユイト「おう。急げよ」





準備ができ、
私達は学校に向かって
歩き始めた。





ユイトは、
電動自転車を押している。





アム「ユイト、
ただでさえ家遠いのに、
私の家来たら、
ものすごく遠回りじゃん」





ユイトは、私のおでこに
コツッと拳をぶつける。





ユイト「バァカ。
俺昨日も言ったろ。
何かあってからじゃ、
おせーって。
だから迎えに来たんだ」





アム「心配かけてごめんね」





ユイト「別にいいし」





ユイトは目線を前に向けた。
が、何か思い出し、
再び私の方へ目を向けた。





ユイト「やっぱ、
よくないことがあったわ。
数学のノート」





今日、数学のテスト、
あったっけ。





アム「ごめん、
昨日はそれどころじゃ
なかったから・・・」





バックから
ノートを取り出し、
ユイトに返す。





ユイト「今返されても、
おせーよ。
・・・まぁ、いっか」





そう呟き、
ノートをめくり、
勉強しだした。





ユイト「・・・ここ暗記かよ」





私はそう呟く
ユイトの横顔に
見とれていた。





シュッとしたアゴ。
形のいい唇。
高めの鼻。
長いまつ毛。
それに、





大人っぽい雰囲気を
かもし出す、黒い瞳。





その瞳が揺れて、
私をとらえると、
目を細め、
口元に弧を描いて軽く笑う。





ユイト「何見てんの」





アム「別に」





そう言った私の顔は
赤かった気がする。





なんだろな・・・
心がざわつく。





その時突然、
私は今朝の夢を
思い出した。





あの子が
私を追いかける。





急に現れ近づく。
そして・・・





あの時
目が覚めていなかったら、
私はどうなっていたんだろう。





もしこれが
正夢だったら・・・
そうだったら・・・





悪夢の繰り返しだ・・・













・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





10月31日午前8時





カノン「アム、
遅刻ギリギリだよ!」





アム「良かった。
セーフ」





ユイト「アムのせいで、
俺まで遅れるところ
だったじゃねーか」





カノン「なに、
一緒に来たの?
仲良しねぇ!」





ユイト「そんなんじゃねー」





2人が睨み合う中、
私は夢のことを
ずっと考えていた。





ユイト「・・・アム、どした」





カノン「元気ないよ・・・
まさか、
あのおばけのこと?」





私は小さく頷き、
夢のことを話した。





黙って聞いていた
2人だったが、
やがて息を呑み、
呟いた。





カノン「・・・今日こそ、
危ないんじゃない?
その子、ハロウィンの
仮装してたんだったら、
その子がアムに会うのは、
今日が最適だど思うけど」





今日また・・・
あの子と会うの・・・?





ユイト「・・・なぁ、
ハロウィンをする意味、
知ってるか?」





突然のことで
呆然としていたけど、
やがてカノンが口を開いた。





カノン「仮装して、
家々を巡って、
お菓子をくれなきゃ
イタズラするぞって
やつでしょ?」





ユイト「ハロウィンの内容は
北川の言う通り。
でもハロウィンの本当の目的を
知ってるやつは少ない」





アム「ユイト、
知ってるの?」





ユイトはうなずく。





ユイト「ハロウィンの日には、
先祖の霊や、亡くなった人、
悪魔や魔女など、
さまよえる魂が
死後の世界から
やってくるらしいんだ」





初耳だっ!





ユイト「仮装をするのは、
悪霊に人間だと
気づかれないためだとも
言われてる。
気づかれたら、
魂を奪われるからっていう話」





カノン「もし、アムが言っている
女の子が悪霊として
この世に降りて来たなら、
仮装してないアムは
魂を奪われるってことか・・・」





嫌だよっ!
そんなの。





ユイト「そう。
そう思って、
演劇部に仮装するもの
借りたんだ」





カノン「へぇー!
アムのために
尽くすねぇ」





ユイトは茶化すカノンを
スルーした。





ユイト「アムの分がこれ」





ユイトが紙袋から
出したのは、
黒いワンピースと
黒のとんがり帽子、
それに星のついたステッキ。





それらは、所々キラキラと
光っていて、
胸元と、帽子の
てっぺんの近くに
星がついていた。





アム「演劇部の衣装、
すごいね。
ユイトのは?」





ユイトは、紙袋から
取り出した。





ユイト「俺のは、
ドラキュラ・・・か?」





黒いズボンに、
血が散った白シャツに、
黒のマントだった。





ユイトに似合いそう!





2人で仮装して帰る
今日。





なんだか・・・
楽しみ・・・





カノン「いーなー! って、
なんで小原のも
用意してるの?」





ユイトは
気まずそうに
黙った。





カノン「ふぅん!
ほえぇっ!
そっか、そっか!
一緒に帰るんだなっ!」





カノンの
テンションが上がる。





そこでチャイムが
鳴った。





カノン「じゃ、
また後でねー!」





カノンは自分の席に
座った。





あの子に会うのは怖いけど、
ユイトと仮装する帰り道は
楽しそう。













・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





10月31日午後5時





私たちはそれぞれ
あまり他の生徒に
見られないよう、
着替えた。





カノン「似合う似合う!
いいねぇ、
絵になるぅ!」





ユイト、ほんとに
ドラキュラに見える!





私はワンピースの裾を
つまむ。





似合ってるかな。





ユイトと目が合った。





ユイト「・・・悪くねぇな」





ボッ!





ユイトは赤く頬を
染めながらも、





至って
真剣だった。





ユイト「ここまでしたんだ。
悪霊なんかに
魂取られてたまるか」





アム「・・・そうだね」





顔熱いよー!





まだ心が
ドキドキする。





ユイトがいるから・・・
怖くない。













・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





10月31日午後5時30分





ユイト「確か、ニコ公園の前
だったよな」





アム「うん・・・」





ヒタ・・・ヒタ・・・





来たっ!





気配を感じ、
足が止まる。





ユイト「アム、
止まるな。歩くぞ」





ユイトが
私の手を引く。





「ねぇ・・・まって」





ヒタ・・・
ヒタヒタヒタッ・・・





ユイト「アム、
走るぞっ!」





さずがサッカー部、
めちゃくちゃ足が速い。





私は転ばないよう、
一生懸命ついていった。





ユイト「ハァハァ・・・
あれ、どこ行った?」





私たちは、
一旦止まった。





これはもしかして、
夢と同じの展開じゃ・・・





「みぃつけた・・・」





目の前に、あの子。





アム「いやあっ」





叫ぼうとしたが、
ユイトが私の口を
押さえた。





ユイト「叫んでも意味ない」





その子は
近づいてくる。





私たちは
じっと耐えた。





「ありがとう・・・」





その子は私に何かを
差し出した。





それは・・・





アム「私の・・・
ハンカチ・・・?」





ユイト「・・・返しに
来たってことか・・・?」





私たちがあれこれ
考えているうちに、
女の子はいつのまにか
いなくなっていた。





あの時、私が貸した
このハンカチを返すために、
今まで、私を
追いかけて来たの・・・?





畳んである
そのハンカチの中には
飴が二つ入っていた。





後で聞いた話によると、
その子は交通事故で
亡くなった女の子で、
毎年この時期になると、
この世に戻ってくるらしい。





その子は悪霊ではなく、
ただの霊であった。





なぜ青いハンカチが
必要だったのか、





それをなぜ
返そうとしたのか。





謎はよくわからない。





だけど、私は、
今までに、
そしてこれからにも、
体験することができない、
不思議な体験をしたのだ。





ハロウィンは、
死者が戻ってくる日。





それと一緒に
悪霊も
降りてくるということ。





悪霊に魂を
奪われないように
仮装すること。





ハロウィンとは、
どういうものかを
実際に体験して、
知ることができた。





これからは、
ただ楽しむだけじゃなく、
そういった意味を考えて、
ハロウィンを楽しみたい。













・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





ハロウィンから
1週間が経った。





ハロウィンの
あの女の子と会うことは
なくなった。





だけど、
青いハンカチは
残っている。





あの子は来年も
またやってくる。





その時もまた
仮装をしておこう。





今年のハロウィンは、
思い出深い日になった。





ユイト「アムっ!
お前のせいで
数学のテストの点、半分も
取れなかったじゃねーか!」





アム「私0点で、
私よりいいんだから
喜んでよ!」





ユイト「0点のやつの前で
喜べるか!」





アム「・・・あ、あの、さ、
次のテストでユイト超えたら
伝えたいことがあるの」





ユイト「えっ!?
・・・や、
やれるもんならやってみろ!
俺が勝ったら、
俺から言いたいこと
伝えるから、待っとけよ!」





アム「私が伝えるんだし!」





ユイト「いや、俺だ!」





カノン「・・・2人とも、
もう素直に告れば
いいのに・・・」





ハロウィンは
終わったけど、





私の恋は
これからです。







*END*

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