恋する心と秋の空

CAST榎本 月海榎本 月海

作者:優雨

新二コラ学園恋物語新二コラ学園恋物語2023.08.27

放課後、
週に1度は来る、ここ。





私は、黙々と
本を読み続ける。





私――榎本ルミの
お気に入りの場所。





それは、ちょっと
学校からは遠いけど、
市内にある図書館。





顔見知りの人が少ないから、
とっても集中できて
すごくお気に入りなんです。





かなり冊数が揃ってて、
読みたい本は、
ほとんどある。





ついつい、
借りて帰る量も
増えてしまう。





今日は、テスト前の
勉強も兼ねて、
図書館に来た。





やっぱり
過ごしやすくて
良いなあ。





最高だ!





そんな中、
ひとつ向こうの席に、





見覚えのある
制服を着た男子が、
1人座っているのが見える。





・・・あれ?





あそこで本を
読んでいるのって・・・。





「・・・あっ」





「・・・・・」





すぐに
目を逸らしたけど、
ばっちり合ってた。





絶対バレた。





あの人は、
多分・・・





八神くん、
八神リョウスケくんだ!





制服の中に
パーカー着てたから、
きっとそう。





何だか、
意外だった。





ちょっと、
近づきにくい雰囲気で





あんまり話したことも
無い人だったし。





(・・・こういう所、
来るんだ)





そう思ったとき、
心がふわっと
宙に浮くような
感覚がした。













*・*・・・*・・・*・*





――――翌日。





休み時間に、
あの人がやって来た。





「・・・おい」





「はーい・・・えっ!?」





「ちょっと・・・
こっち来い」





「・・・えっ、ルミ、
大丈夫?」





「あ、ええと、う、うん」





いきなり
呼び出されたのは、





昨日同じ図書館に
居たであろう、八神くん。





クラス違うのに、
わざわざ何の用だろう・・・。





クラスメイトで
友達のレイナは、





この様子を心配してくれて
いるらしい。





・・・少し、怖くなる。













*・*・・・*・・・*・*





そして、
連れて来られた先は、
薄暗い階段の下。





私、一体これから何を・・・。





恐喝とか・・・
そんな、まさかね?





そんな私の心配をよそに、
八神くんは、口を開いた。





「・・・昨日の、お前?」





「・・・ええっと、
図書館の?」





「誰かに、言ったりしたの」





その言葉は、
予想外のもので。





少し早口に、
焦ったように喋る八神くんが、
ちょっと、可愛かった。





「・・・誰にも、
言ったりしないよ?」





「ん・・・なら、良い」





それだけ言うと、
彼は、すぐに去って行った。





(何だか、不思議な人だな・・・
八神くんって)













*・*・・・*・・・*・*





―――――教室に戻ると、
レイナが駆けつけてきた。





「ね、大丈夫だった?
何か言われた?
何もされてない?」





「ああ・・・
全然、何にもなかったよ!
ちょっとお話しただけ」





「そっかあ・・・
で、何話したのよ~」





「ええ!
それは、ヒミツだよ~」





・・・この時から、
私の中で八神くんは、





少なくとも、
何か意味のある存在に
なっていた。













*・*・・・*・・・*・*





―――あれから、数週間。





私が週1で通う図書館に、
彼は、何度か
顔を覗かせていることが
わかった。





いつもと同じ席に、
その机には、





漫画と、
・・・なんだろう、





見かけない本だから、
ライトノベルとか、
そういうものかも。





「・・・あっ」





「・・・ん」





初めて目が合ったときより、
優しい目つきだった。





なんて、
うぬぼれだろうか。





すぐ見入っちゃうなあ・・・
いかんいかん。





そう思いながら、
またチラッと彼を盗み見る。





・・・あ。





目が、また、合った。





とくん、と音を立てて、
胸の鼓動は、だんだんと
速くなっていった。





その日は何だか、
集中できなくて。





少し早めに、切り上げた。





「・・・はぁ」





図書館、出ようとしたけど、
傘忘れてた。





降水確率、低かったし
余計だよ・・・





こんなに降るって
思わないじゃない!





・・・この様子だと
止まないかな。





仕方ない、走って・・・





「・・・待てよ」





「え・・・?」





ぱっと振り向くと、
そこには、
傘を持った八神くんが
立っていた。





「・・・これ、使えば」





「えっと、なんで・・・」





「別に。俺もちょうど
帰ろうと思ったところ」





ぶっきらぼうな言い方で、
私に傘を渡してくれる。





・・・でもそれじゃ、
八神くんが濡れちゃう――――





「ん!?」





そう言おうと、
顔を上げた時には。





鞄を傘代わりにして
走って行く、
八神くんの背中が
遠くに見えた。





その姿に、
胸がきゅっと締まる。





・・・これ、
明日返さなくっちゃ。





ありがとう、と
心の中でつぶやくと、





彼の貸してくれた
グレーの傘を広げた。













*・*・・・*・・・*・*





――――翌日の放課後、
私は彼が昇降口から
出たところを見て、
駆け寄った。





「あ・・・八神くん!
これ、ありがとう」





「・・・こんな所でうるさいな、
目立つ」





大声、出し過ぎたかも。





周りの人が、
こちらへ視線を
集中させていた。





「ほんとだ・・・
ごめんね。
あ、あとね」





今度は少し、
小声になる。





私は、1冊の小説を
彼に渡した。





「これ・・・
昨日のお礼って言ったら
なんだけどね。
八神くんでも、
読めそうかなって思って。
アニメのキャラクターとか、
出てくるの」





表紙のデザインも格好良くて、
挿絵も綺麗だから、
きっと、喜んでくれるはず!





表紙を見ると、
彼はちょっとだけ
表情を明るくした。





「・・・ん、どうも」





「どういたしまして・・・
じゃあ、今日はこれで!
また明日ね!」





受け取ってくれた・・・
やった!





私は、喜びで
飛び上がりそうなのを
必死でこらえる。





嬉しさのあまりに
頬が赤くなるのを感じて、





私はその場から
急いで走り去った。













*・*・・・*・・・*・*





―――――数日後。





八神くんは、放課後に
本を返してくれた。





確かに、そんなに内容は
多くないのだけれど。





・・・は、早い!





「えっと、八神くん、
早い・・・ね」





「まあ。
それぐらいのは、
読み慣れてるし」





正直なところ、
漫画読んでるってイメージしか
なかったけど・・・。





・・・かなりの読書家、なのかも。





ふと小説に目を落とすと、
最後のページの方に
紙が挟まっている。





・・・付箋、かな?





「・・・あれ、この付箋って」





「なあ、榎本」





「っは、はい!」





あれ、今、苗字・・・
呼んでくれた?





どきっとして、
八神くんの方を見る。





「今日、図書館寄ってこうぜ」





「・・・うん、うん!
行くよ!」





誰かに誘われて行くのは、
初めてだ。





いつも以上に、楽しみになる。





――――気まずい。





いつもなら、
遠くに座る八神くんを
見つめて、
たまに、目が合う。





この繰り返しだったのが、
今日は。





隣に、座っている。





どうしよう、
恥ずかしくて
顔が上げられない・・・!





「・・・あ、ええっと・・・

そうだ!」





私は、さっき
返してもらったばかりの本を
取り出した。





「これ、どの場面が良かった?
私はね――――」





そう言って、ペラペラと
ページをめくると。





・・・ここ、さっきの
付箋のページだ。





「・・・その、付箋のページのヤツ」





彼が、ぼそりとつぶやいた。





「そっか!
えっと、ここは・・・」





・・・この付箋のページは。





告白の、シーンだ。





「榎本は、あんの?」





「・・・えと、わたし、は」





どうしよう。





私も、このシーンが
すごく好きで。





けど、気まずい。





・・・なんだか、私が
告白してるみたいになりそうで。





俯いて何も言えないでいると、





八神くんはペンケースから
ペンを取り出して





その付箋に、
文字をサラサラと書いた。





「・・・!!」





そこには。





“俺は、好き”





文字まで、彼みたいに
何だかぶっきらぼうだ。





ちょっとだけ、
線が揺れている。





・・・そっと顔を上げると、
彼は、そっぽを向いて、
頬をポリポリと掻いていた。





よく見ると、耳が赤い。





「・・・八神くん」





「あーくそ、
・・・こんなん、
したこと無ぇから・・・」





髪をぐしゃぐしゃっと
掻き乱すと、
私の方に向き直った。





「・・・分かんねぇけど、その。
一緒に居て、楽しいっつーか、
そういうの、女で初めてっつーか。
・・・たぶん、お前のこと、
好き・・・なんだと、思う」





ひとつひとつの
言葉が、嬉しい。





私は、ただただ頷く。





熱くなる頬を抑えることも
忘れて。





「・・・だから、俺と、
付き合って欲しい」





最後に、彼は
顔を俯かせた。





くそ、って、小さい声で
つぶやきながら。





なんて言うのが、
正解なのかは
わからない。





けど。





「・・・よろしく、
お願いします」





そっと、彼の手に
私の手を重ねてみる。





今、私が
彼に出来る返事は、
これだけ。





「・・・あり、がと」





気の抜けたような声で、
八神くんはそう言った。





その様子が
何だかおかしくて、
私は静かに笑う。





ただ、気持ちが
通じ合ったことが嬉しくて。





ぎゅっと、重ねた手を
握りしめた。





・・・ふふっ。





笑い声が聞こえて、
私はハッとした。





今日はそんなに人が
多くなかったけど・・・





まさか。





目の前にいる彼も、
まずい、って顔して
私を見る。





これは。





ここに居た、少なくとも
周りの机に座っていた
人たちに。





一部始終を、
見られていた!





「・・・おい、行くぞ」





「・・・うん」





低い声で、
呼びかける彼。





私も、急いで
本を片付けると、





彼に手を引かれて
足早に図書館を抜け出した。













*・*・・・*・・・*・*





そのまま、
ずっと走って行く。





西日がまぶしい。





今日は、秋晴れだ。





外を出てからは、
周りなんて
気にもならない。





前を走る彼に、聞く。





「・・・ねえ、八神くん!」





「んだよ」





「今度から、
ここの図書館は
来にくくない?」





「まあ、・・・まあな」





「・・・新しい図書館、
開拓しに行く?」





「・・・今度はもっと
遠くだな」





ふたり揃って、
ぷって笑いが漏れる。





手を繋いで、
ずっと、ずっと、走る。





そうだ、
心配してくれてたレイナにも、
伝えておかなくちゃ。





あれから、あんまり
八神くんのこと
話してなかったし、





びっくりするだろうな。





・・・ふと振り返った
八神くんの表情は、





西日が手伝って
見たことがないくらい
輝いて見える。





そこには、初めて見る
笑顔があった。





私も、これ以上ないくらいの
笑顔を浮かべて、返した。





次の図書館までは、
まだまだ遠い。







☆END☆
*ニコ学名作リバイバル*
この作品は過去に投稿された作品をアレンジしたものです。

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