刹那の打上花火
作者:にこにこ
ひゅるるる・・・・・・
ぱぁん!
ひゅるるる
ひゅるるる・・・
ぱぁんぱぁん!
ひゅひゅひゅう・・・
ぱぱぱぁん!
大きな音。
感激の言葉、
写真や動画を
撮るためのタップ。
私たちは、
待ち望んでいた
その瞬間を楽しむ。
きっとそれぞれ
違う感情で。
これは、私が見た
最後の花火になった―――――――――。
・*。・ 7月中旬 ・。*・
どうして
夏は暑いんだろう。
いくら地球温暖化が
進んでいるとはいえ、
こんなに暑すぎたら
みんな死んでしまいそうだ。
神様の意地悪、って
憎むけれど、
そうしたら怒って
もっと汗ダラダラになりそう。
ユナ「あぁ~~~・・・・・・」
もう夏本番で、
大っ嫌いな蝉も
ヴィンヴィン鳴いてる。
体育の授業が
嫌いになっていくこの季節、
私―――吉岡優奈は、
今年は何をして過ごすんだろう。
ユナ「あぁもう・・・
夏なんて嫌いだぁ~~~
・・・・・・涙」
ミオコ「暑すぎてやばい・・・・・・
いつもだるくて
疲れてるのに、
暑さでもっと
体力が奪われる・・・」
そんなことわからない。
ミオコ「夏ったら、
早く終われ~・・・っ!」
だるそうに叫ぶ私の親友―――
林美央子も、
夏が嫌いらしい。
今は私の部屋にいるけれど、
ミオコは白い丸テーブルに、
だらーんって突っ伏してる。
私は夏休みが嫌い。
陰キャでも陽キャでも
ないけれど、
特に遊ぶ予定などもないし、
かといって
勉強漬けなわけでもないし。
微妙な位置といえば
そうかもしれない。
そういえば――――――、
ユナ「8月5日に、
何だっけ・・・
花火大会があったよね」
夏休みが始まって
2週間くらいで、
地域の花火大会がある。
ミオコ「そーいえばそーだねー。
ユナ行くのー?」
ユナ「んー・・・・・・
どうしようかなぁ」
ミオコ「えーっと・・・
レイナは
行くらしーよ。
でもなー・・・・・・」
レイナというのは、
美央子と同じクラスの
吉本麗南のことだ。
私と同じバスケ部だから
よく話す。
ミオコは美術部。
でも、何故か
ミオコとレイナは
仲が悪いらしい。
というか、
気が強くてリーダー的な、
陽キャ代表のレイナと比べると、
ミオコは気が強いわけではなく
リーダーをよく自分からやる、
明るいけれど
特に陽キャではない感じだから、
反対っちゃ反対なので
まぁ理由はわかる。
私もあまり
好きではない。
ユナ「悩んでるでしょー。
レイナがいたら
やっぱり嫌?」
ミオコ「そりゃそーだよ!
私ほんっっっとに
レイナのこと嫌い!
あの人マジで
頭おかしいもん!」
ユナ「新しいクラスになって
3ヶ月で
そんなこと言うの
早すぎない?」
ミオコ「どーせ
行くんなら
レンと行きたいっ――――――」
あ、という顔。
ユナ「えぇぇぇ~~~っ!?!?!?
ミオコ、
ほんとはレンのこと
好きだったのぉぉぉ!?!?!?」
ミオコ「ちち違うって
違うって!!!
―――――――――ってのは
嘘で・・・っ、
・・・・・・好き、です」
ミオコはレンのことが
好きだったらしい・・・・・・・・・!
ユナ「すっご、すっご、
ミオコが恋!
ってか、
相手がレンとか・・・
女子に嫌われてるのに?」
ミオコ「いいじゃんっ、
私が好きなんだもん!」
ユナ「はいはい。
応援しますよっ。
でも・・・
彼女いなかったっけ、
レンって」
そう。確か彼女持ちで、
何故か女子に嫌われている
――――――内田蓮。
男子側だと人気者だ。
ミオコ「知ってるもん。
レンに彼女が
いそうなのは・・・・・・!」
ユナ「あっ、ごめん・・・・・
そうだよね」
でも。
まだミオコには
チャンスがある。
ユナ「ねぇミオコ、
レンと仲良いのって
誰だっけ?」
ミオコ「へっ?」
ユナ「花火大会で
ダブルデートしちゃお!」
ミオコ「・・・・・
・・・・え・・・だ・・・
・・・ダブルデートぉぉぉっ!?!?!?」
そう、花火大会が!
私とミオコとレンと誰か。
この4人で花火大会に行って、
最後に告白すればいいんだよ!
ミオコ「だっ、だぶっ、だっ」
ユナ「めちゃくちゃ素敵だと
思わない!?
私は途中で・・・・・・
ヨシトはどう?
ヨシト(仮)と抜けて、
ふたりっきりにさせたげる!」
ミオコ「・・・・・・・・・!」
まるで生きる可能性を
見い出せたかのように、
ミオコは目をいっぱいに開いた。
ミオコ「すごくいい!
今すぐレンとヨシトに
連絡しよ!」
ユナ「楽しみだねっ!」
ミオコ「もー。
まだ決まってな―――ッ!?」
そして。
ミオコ「2人ともすぐ
了承ついた・・・・・・」
ユナ「!?!?!?」
花火大会ダブルデート、
決定致しました。
、 。・、 。・、 。・、 。・、 。・、 。・
私はヨシトと
ふたりっきりで
行動することになった。
ヨシト「ふーーーん。
ミオコがレンを好き、
ねぇ・・・・・・笑」
ユナ「そう!
だから、花火が始まる直前に
抜け出して、
私たちは違うとこで
見てたいの。
ミオコのために
なんでもやりたいんだ」
ということで、
早速ヨシトに
話したのだけれど。
ヨシト「さすがユナだな、
友達思いで尊敬する」
―――――――――!?
ユナ(尊敬する、
だなんて・・・)
そんなこと言われても。
ヨシトが普段は絶対に
言うことがないようなこと・・・・・・
ユナ「あ、ありがとう・・・!
ヨシトも
すごくいい人だよっ」
ヨシト「んっ。ありがと」
2人してちょっと
照れてしまい、
気まずくなった。
ごめんなさい・・・汗
ヨシト「じゃ、じゃあ
その話・・・
進めよっか」
ユナ「う、うん・・・・・・」
ヨシト「・・・・・・・・・」
わぁ~~~~~~!
もうダメっ!
緊張して無理っ!
――――――と。
ユナ「・・・あれっ?
おかーさんからだ」
ヨシト「どした?」
ユナ「えっと・・・・・・
『大事な話があるから
家に帰って来て』、
だって」
ヨシト「大事な話・・・」
え、何?
大事な話って、
なんなの?
ってか、ヨシトの
その不安げな瞳と
モヤモヤ感・・・・・・
どういうこと?
ユナ「とっ、とりあえず
帰るね。
せっかく市民センターまで
きてもらったのに、
ごめんなさい」
ヨシト「いーよ、
そんくらい。
早く帰りな。
お母さんが
待ってくれてるよ」
ユナ「ありがと。
じゃあまたね」
モヤモヤが
止まらないまま、
重い足取りで
家に帰った。
とぼとぼ・・・
私は何をしているんだろう。
何を思っているんだろう。
わからない。
何も、わかっていない。
・*。・ 吉岡家 ・。*・
私は「ただいま」も
言えないままに、
ため息いっぱいで
自宅の床に転がった。
ユナの母「おかえり。
ごめんね、
遊び行ってる途中に」
ユナ「遊んでたわけじゃ・・・・・・
ただの話し合いだよ。
ヨシトと2人で」
ユナの母「話し合い?
まぁいっか、
手ぇ洗って来て
座っといて」
ユナ「はぁい・・・」
おかーさんはボソッと
何かを呟いた。
聞こえなかったから、
内容はわからないけど。
手を洗い終えると、
真剣そうな顔をした
母が待っていた。
ユナ「珍しく
真面目そうだね。
心配だなぁ」
半ば冗談でおどけて
言ったら、
おかーさんは
「そうね・・・」
とため息をついた。
本気で心配だ。
ユナの母「あのね、ユナ。
すごーく、すっごーく
大事なこと言うね」
ユナ「う、うん・・・・・・」
おかーさんの様子が
おかしい。
いつもと違う。
おかーさん、
何かやられたのかな・・・
と不安になる。
でも、何か起こるのは
おかーさんだけじゃなかった。
ユナの母「おかーさんね、
お仕事の都合で、
――――――福岡、
行くことになったの」
ユナ「―――え?」
ユナの母「9月からだって。
さすがに私ひとりじゃあ
ダメだから、家族みんなで
行かなきゃいけないの・・・・・・」
ユナ「引、っ越し・・・・・・・・・?」
まさか、そんな、
・・・福岡だなんて。
ここ―――神奈川から、
程遠いじゃん―――――――――!
ユナの母「だから、今のうちに
お友達とたくさん遊んどきなね。
・・・ごめんね。
ごめんなさい・・・・・・!」
どうしよう。
どうしよう、どうしよう・・・・・・!
ユナ(そんなっ・・・・・・・・・、
どうやってミオコたちに
言えばいいの?
私たちはどうなるの?)
どれだけ悩んでも
答えは見つからない。
いつまでも
考え続けても。
その夜は
久しぶりに
寝付けなかった。
・*。・ 学校 ・。*・
翌朝。
私はすごく
眠くてだるくて、
学校に着くとすぐ
机に突っ伏した。
最初っから
体育だということを
思い出し、更にだるい。
ミオコ「どーしーたーーー?
昨日LINEの
返事なかったから、
心配したんだぞー」
ユナ「・・・なんでもないっ」
ミオコの腕を振り払い、
教室を出ようとする。
心配されているのに
馬鹿な態度。
ミオコ「えっ?
・・・・・・どしたの?」
ユナ「・・・・・・・・・ッ」
ミオコ「え? ごめん、
聞こえな――――――」
イラっ。
ミオコが本気で
心配してくれているのに対し、
無視のような態度で答える私。
すごく―――
すっっっごく、嫌だ。
ユナ(何してんの、
私・・・・・・)
そう思いながら、
瞬時に出た言葉は―――――――――
ユナ「だから
なんでもないってば!!!!!!」
相手を、
ミオコを傷つけた。
、 。・、 。・、 。・、 。・、 。・、 。・
ユナ「だから
なんでもないってば!!!!!!」
ミオコ「―――ッごめん・・・・・・
・・・私、何、した・・・?」
私はそのあと
駆け出して教室を出た。
みんなが驚いた表情で
こちらを見ているけれど、
それにも関わらずに。
リュックを掴んで
廊下を走って、
階段を素早く降りて。
靴は掴んで上履きは
脱ぎ捨てて、
適当に投げて履きながら
家の方向に走ってもがいて、
泣きながら鍵を取って
ドアを開けて閉めて。
自分の悪事を思い出したくなくて
大量の涙をボロボロこぼした。
ユナ「うぅぅぅ~~~~~~っ・・・
・・・・・・!!!」
幸い母は仕事中で
居なかった。
そのあと、
独りになる寂しさに、
好きな人のことも
忘れそうだった。
、 。・、 。・、 。・、 。・、 。・、 。・
野口義人のことも、
忘れそうだった。
・*。・ 自室 ・。*・
その夜、ヨシトから
ビデオ通話が
掛かってきた。
最初に飛び出た言葉は、
ユナ「――――――ごめんっ!!!」
自分でも
驚きのものだった。
ヨシト「なんだよ急に~~~。
そーいや今日さぁ、
学校来たらすぐ
帰ってなかった?」
ユナ「ごめんなさいっ!
ごめんなさいっ!
ごめんなさいっ!」
花火大会、ヨシトと
一緒に行きたいのに。
ふたりっきりになって、
想いを伝えたいのに。
ユナ(謝ってばっかりじゃ、
何にもなんないのに・・・・・・)
私は、なんて
馬鹿なのだろうか。
ユナ「私、私ね、
わ、私っ」
ヨシト「なんだよ、
突然めっちゃ謝ったり、
『私』を連発したり。
大丈夫か?
なんかあったのか?」
ユナ「あるのっ!
わ、私、引っ越すのっ・・・
・・・・・・福岡に」
やっと、言えたけれど。
ヨシトの反応が怖くて、
顔を上げられなくて。
ヨシト「――――まじかぁ~~~~~~」
ユナ「・・・・・・?」
ヨシト「なんで
俺にそんなこと、
言いにくかったんだよ~~~?
俺めちゃくちゃ
寂しいんだけど?
どーしてくれんのさ?
めっっっちゃ、
悲しいんだけど?」
嬉しい返事。
もう、花火大会で
顔合わせてからじゃ、
無理だ。
ユナ「・・・だって、
好きだから」
ヨシト「――――――へ?」
ユナ「私、ヨシトのこと
好きだから。
だから、言いたくなかった!
怖かったんだよ、反応が!」
怒った。
八つ当たりした。
そんなことしたら
1番ダメな人に、
悲しみも怒りも寂しさも
全部、ぶつけた。
自分への怒りも込めて
投げてしまった。
ヨシト「・・・・・・・・・なぁ」
ユナ「・・・」
ヨシト「返事さ。
―――花火大会ん時に言うから、
楽しみに待っといて」
ふと、
ヨシトの顔を見ると。
すごく赤くなっていて、
それに気がついた彼は
顔を隠して
通話を切った。
私は、ただただ
その画面を
見つめるだけだった。
・*。・ 花火大会 ・。*・
ずっと、
気まずかった。
、 。・、 。・、 。・、 。・、 。・、 。・
ただただ
その時を待っていた。
私に希望はないって
知っていたのに、
ほんのり期待して。
だから、ヨシトが
その言葉を放ったとき、
本当にびっくりしたんだ。
、 。・、 。・、 。・、 。・、 。・、 。・
ヨシト「あのさ」
ユナ「・・・・・・うん」
ヨシト「えっと、」
ユナ「・・・・・・・・・」
ヨシト「返事なんだけど、」
ユナ「うん・・・」
、 。・、 。・、 。・、 。・、 。・、 。・
ヨシト「俺も、
ユナのこと好きだよ」
、 。・、 。・、 。・、 。・、 。・、 。・
引っ越したっていい。
いつまでもそれは
変わらないから。
ずっと、
ずっとずっと続く
気持ちだから。
だから、これが最後の
花火になってもいい。
花火が打ち上げられた、
その瞬間は。
恋が、
実った瞬間。
・* 。・THE END ・。*・
吉岡 優奈
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