イヤホンのおかげ

CAST葉山若奈

作者：小春日良里

2025.05.24

それは、生まれてはじめての
一目惚れだった。

中学生になって
思ったこと。

まず、男子がうるさいこと。

そして、イケメンが
たくさんいること。

最初は、おねえちゃんから
中学校のことを聞いて、
ものすごくショックを受けた覚えがある。

「ああ、わたしのファーストラブは
終わった・・・」

など勝手に妄想してたっけ。

だけどこんなにもイケメンが
たくさんいるのには、
正直いってびっくりした。

「わたしのファーストラブも
終わりではない」

とそのときは思った。

だけど、わたしの心に
響いてくるイケメンは、
１人もいなかった。

自信を持つことが
できなくなってしまったとき、
小学校からの友達リコが
いつもなぐさめてくれた。

「ワカナー！
そんな暗い顔しちゃ
せっかくのかわいい顔が
だいなしだよ??」

「リコ・・・」

わたしを
心配してくれたの？

涙があふれるくらい
うれしいよ。

＊・＊・・・＊・・・＊・＊

次の日、わたしは図書室で
難しくも簡単でもない本を
読んでみた。

すると、わたしの目の前で
イケメンの男子が
目が点になるほど細かい字の本を
読んでいた。

しかも、耳にイヤホンを
つけている。

要するに、音楽を聴きながら
本を読んでいるってわけか。

わたしはいつの間にか、
自分が見ている本じゃなく、
目の前のイケメンくんの顔を
ずっと見てしまった。

イケメンくんが、
やっとわたしに気づいた。

瞳にわたしの顔が映る・・・

急に恥ずかしくなっちゃって
目をそらした。

今度は、本に集中しようとしたけれど、
あのイケメンくんの顔が
頭に焼きついて離れない。

わたしの顔がみるみるうちに
赤くなっていく。

イケメンくん。お願い。

いまは、わたしの顔を見ないで。

あのイケメンは、わたしとは
違うクラスの人だった。

転校してきたばかりで
友達がいなく、
いつも静かに過ごしているって
リコが言ってた。

名前は、リョウ。

そのリョウって人は、
わたしの心に響かなかった人と
何かが違かった。

リョウは、
また図書室にいた。

わたしが、

「なに聴いているの？」

と、椅子に座ってから質問した。
すると、

「これ」

と言って、わたしに
片方のイヤホンを貸してくれた。

「イヤホン借りるね」

と言ったけど、
なにも言わないから、
勝手にイヤホンを耳につけた。

男の人が、きれいな声で、
歌っている。

静かで、
さみしそうな感じがする。

でも、楽しい曲だ。

リョウは恥ずかしそうに、

「これ・・・、
おれが作詞作曲して、
おれが歌っているんだ」

えっ!?

びっくりした。

あんなにきれいな声を
リョウが歌っているなんて。

しかもしゃべった。

なぜかわたしは、
目から涙をこぼしていた。

リョウが歌っている曲が、
わたしをなぐさめてくれた。

次の日も、次の日も、
わたしとリョウは、
図書室で音楽を聴いた。

２人でいる時間は、
表現ができないほど楽しかった。

＊・＊・・・＊・・・＊・＊

次の日、わたしは
リョウが事故にあったことを知った。

幸い生きてはいたものも、
リョウは、ねむったままだった。

わたしは、リョウのお母さんから
許可をもらって、
リョウのバッグから
あのイヤホンを取り出した。

そして、片方はリョウの耳に、
もう片方は、わたしの耳に
イヤホンをつけた。

「リョウ・・・
こんなに包帯を巻かれて、
ものすごく痛かったんだね」

と語りかけて、
わたしは歌をうたった。

その曲は、リョウが作詞作曲して、
わたしに教えてくれたラブソングだった。

好きだよ
で歌詞は終わった。

「リョウ、大好きだよ」

わたしは泣いていた。

次の瞬間、

「おれも好きだよ」

なつかしい声だ。

よかった。
本当によかった。

＊ＥＮＤ＊