あ、い、う、え、お
作者:もこ
・*。・ 「あ」 ・。*・
――あいつの第一印象は、
最悪だった。
初めて出会ったのは、
高校の入学式の日。
体育館の端で椅子に座り、
無表情でイヤホンをつけている男子――
安藤冶真。
別に関わる予定もなかったのに、
席が隣になったのが運の尽きだった。
「こんにちは、上妻美咲です。
よろしくね!」
私が笑顔であいさつしたのに、
彼は「・・・ああ」とだけ言って
視線をそらした。
その態度に、心の中で
「なんだこいつ」
と思ったのを覚えてる。
でも、そこから私の高校生活は
少しずつ彼に
引っ張られていくことになる。
・*。・ 「い」 ・。*・
――いつの間にか、彼のことが
気になりはじめていた。
彼は目立つタイプではなかったけど、
何か特別なオーラがあった。
授業中、難しい数式を
さらっと解く姿や、
ふとした瞬間に見せる
やさしさ。
ある時、私が筆箱を落としたとき、
無言で拾ってくれた彼の手が
妙に印象に残った。
「あんた、
意外といい人なんだね」
そう言った私に、
彼はちょっと
困ったように笑った。
「あんまり
期待しない方がいいよ」
その笑顔を見たとき、
胸が少しだけぎゅっとなった。
・*。・ 「う」 ・。*・
――運命なんて、
信じていなかった。
文化祭の準備で、
私とイルマが
同じ班になったとき、
私は彼の意外な一面を
知ることになる。
クールで無愛想な彼が、
班員たちのアイデアをうまくまとめ、
頼りになるリーダーシップを
発揮していた。
「あんた、すごいね!」
そう言った私に、
彼は少し照れくさそうに
「別に」と返した。
だけど、その時の彼の顔が
やけにうれしそうだったのを、
私は見逃さなかった。
・*。・ 「え」 ・。*・
──絵の具のように、
気もちは混ざり合う。
ある日の放課後、
彼に呼び出された。
「ちょっと、
話があるんだけど」
いつもと違う真剣な表情に、
私の胸が高鳴る。
「実はさ・・・」
イルマが言いかけて
口を閉ざした。
言葉が詰まる様子に、
私は不安と期待が入り混じる。
「もしかして、
私のこと好きとか?」
軽い冗談のつもりだった。
でも、その瞬間、彼の目が
大きく見開かれた。
「・・・なんで、わかったの?」
息をのむ私。
冗談が的中してしまったのだと
気づいた時、顔が熱くなった。
「えっ、冗談・・・
なんだけど・・・」
・*。・ 「お」 ・。*・
――お互いの気もちを
確かめ合った瞬間、
世界が少しだけ
輝いて見えた。
「あんたって、
ホント不器用だね」
そう言って笑う私に、
イルマは少し困ったように
笑い返す。
「でもさ、その不器用な俺は
お前が好きなんだ」
「うん。私も!」
*end*
※掲載されている物語はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
上妻 美咲

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