私と先生とクローバー

CAST内田 蓮内田 蓮

作者:あおたん

新二コラ学園恋物語新二コラ学園恋物語2022.10.05

俺が担任として
持っていた3年4組。





クラスメイトが、
1人欠けた。





忘れもしない、
8月の妙に肌寒かった日。





名前は・・・
中山あやか。





彼女は人と
打ち解けにくい性格で
俺にもとげとげしい、
と言ったら
言い過ぎかもしれないが、





俺には喋ってくれないし、
話しかけても
うなずくだけだった。





いつも持っていた
クローバーのキーホルダを見ると、
俺に何かをされないように、
まるでお守りのようにしているのか。





そんなに俺のことが
嫌いなのか、と思うと
俺は正直、
イラッとしたこともあった。





俺の持つクラスは
問題児が多かった。





学年主任、
だからかもしれない。





俺のクラスの奴らは
“問題児”といわれながらも
みんな明るくて、
仲がよくて、
感情表現がすごくて、
教師として働いてきた
10年間の中でも
結構思い出に残るな、
と思っていた。





その中でやはり
孤立する中山。





彼女は問題児でも
なんでもない。





ただ俺が去年も
持っていてなんとなく、
心配だったから
持つことにした。





とげとげしく、
イラッとすることもあったけど、
見捨てることはなかった。





陰ながら、馴染めるように
いい方向へと行かせてやりたい。
そう思っていた。





そうだ、夏休み明けに
お楽しみ会をやろう。





中山は絵がうまいから
少しは皆
見てくれるかもしれない。
中山のことを。





俺は中山にお願いすると、
「いいですよ」
と言ってくれた。





よしよし。
いい方向に進んでる。
この調子で・・・!





しかし、事件は起こる。





学校に1本の電話が
かかってきた。





「中山あやかさんが、
車にはねられて亡くなった」と。





俺は、受話器を落とした。





それから葬式、お通夜と
どんどん月日が流れていった。





帰りの学活と掃除と・・・
なんやかんや終わった後、
定時には当たり前だが間に合わず
残業のため教室で
デスクワークをする。





カタカタカタと
タイピングの音が
がらんとした教室に響く。





ふと窓を見る。
日が暮れて真っ暗に
なっている。





あぁ、今日は
月がきれいだな、と思い
手を止めてしまう。





あんなに
大きかったかな。





不意にカーテンが揺れる。





風は吹いていないのに
ふわふわと。





「・・・?」





と不思議に思いながらも
辺りを見回す。





「・・・は・・・?」





人影が立っていた。





真っ白なワンピース。
幻覚かと思った。





俺は残業続きで
疲れている。





しかし“幻覚”は
近づいてくる。





そして、俺にこう言う。





「先生」と。





俺は目を見開き、
口にした。





そう、
あの日亡くなった、
生徒の名を。





「中山・・・?」





と言うと、
嬉しそうにうなずいた。





この教室で中山は
笑顔を見せたことがない。
びっくりした。





「なんで・・・
ここに・・・?」





と言っても
ただ笑っているだけだった。





俺は、確信した。





「幻覚などではない。
本物の、中山だ」と。





なぜか、といわれたら
分からない。





でもなにもかもが、
中山なのだ。





それに・・・
鞄につけていたクローバーの
キーホルダーを握っている。





会えるんだ、と思った。





それからほぼ毎日、
夜になると
教室へやってきた。





笑顔を見せるだけで
話してくれなかったが、
それでよかった。





俺はいつもクラスで
起きたことを話していた。





今日も俺は残業だ。





よし、仕事にかかろう・・・
と思ったら
不意にめまいがきた。





(・・・おかしいな、)
と思った。
疲れているのだろうか。





いつの間にか
中山が来ていた。





なぜか不安げな顔を
している。





「最近、
体調が優れなくて・・・」





と言うと、不安げな顔から
だんだん涙があふれてきた。





そして、中山は
しゃがみこんだ。





不自然な風が吹き込む。
カーテンが揺れる。





そこに中山の姿は、
もう無かった。





あれ以来、中山は
来なかった。





俺は会いたくて、
クラスであった出来事を
話したくて、
教室で待っていた。





少しずつ帰る時間が
遅くなっていった。





それでも構わない。
喋れるなら、
話を、聞いてくれるなら。





(頭が痛い・・・
クラクラする・・・
力が、入らない・・・)





俺はついに机に
突っ伏してしまった。





まぶたが重くなる。









いつの間にか、目は閉じ、
意識が消えていた。









真っ白な空間。
上も下も、右も左も
分からないほど真っ白。





俺は空間に馴染み、
そのまま体が
消えてしまいそうな
白いシャツを
身にまとっていた。





(・・・なんだ・・・?)





動こうと思っても、
どこに何があるが
わからないから動けない。





きょろきょろする。
辺りを見回す。





「先生」





と声が聞こえた。





この声は・・・





「中山・・・」





いつもなら、
話しかけてくれなかったのに
びっくりした。





「私のせいです・・・
私のせいで、
先生が体調を崩した」





ぽつり、ぽつりと
言葉が聞こえた。





「なんで・・・そんな・・・」





中山はうつむく。





「私がもう死んでいるのに
上に行きたがらないから
先生の寿命を奪ってる」





上・・・?
上とは何だろう。
あの世のことだろうか?





「そんなことって・・・」





「そんなことある。
先生、これだけは
言わせてください・・・
先生・・・」





と口を開いたとたん、
すっと中山が消えた。





俺は叫んだ。





「中山・・・!?」





だが、返事はない。





「うそだ・・・」





俺がいけない。
俺があの時、
体調が悪い、なんて
いわなければよかった。





変な責任を負わせてごめん。





いっぱい、ごめん・・・





そこからは
覚えていない。





俺は病室のベットで
横になっていた。





校長がやってきた。





「内田先生・・・
最近様子がおかしいと
思っていたんだが・・・
まさかこんなことに」





俺の様子が、
おかしい・・・?





「あなた、クローバーの
キーホルダーの前でずっと
話をしていたんですよ?
クラスの話を」





クローバー。
クラスの話。





じゃあ俺が見た
中山って・・・?





俺は病室から
飛び出した。





教室へ
向かおうとした。





中山の使っていた席には
クローバーがおいてあった。





中山が握っていた
クローバーは青色。





机においてあるのも青色。





中山はクローバーの
キーホルダーを握って
何かを伝えようと
していたのだろうか。





俺は、机においてある
クローバーのキーホルダーを
手に取る。





青いクローバー・・・
その花言葉は





「あなたを
純粋に愛しています」





「あなたも
私を見ていてください」





つじつまが合った。





中山は、俺のことが
好きだったのか。





そして俺は、
中山のことが
好きだったのか。





でも相手は中3。
教師と生徒の恋愛は
叶わない。





だからクローバーを
つけていたのか。





かなわない恋愛だけど、
気にかけてもらうことを
気づいてもらうために。





だからいつも
にぎっていたのか。





俺と話すときだけ。





「気づいてあげられなくて、
ごめん」





誰もいない教室の中で、
つぶやいた。





俺は、中山の
墓参りにいった。





クローバーの
キーホルダーを持って。





クローバーのキーホルダーを
お線香がもえているところに入れた。





溶けていって形がなくなり、
煙となり天へ昇っていく。





あいつは、
受け取ったかな。





俺の気持ちは、
伝わったかな。





と思いながら、
墓を後にした。





手をすり抜けるような、
風が吹いた。





中山が上で
笑っているような、
気がした。







*end*

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