Q 僕らのクエスチョン

CAST今井暖大今井暖大

作者:にこにこ

新二コラ学園恋物語新二コラ学園恋物語2023.05.20

ずっと大切にしているものがある。





―――ぬいぐるみ。





生まれる前からあった、
今でもベッドに置いてある、
かわいいぬいぐるみ。





いつまで、
大事にし続けるんだろう。













・*。・ 学校 ・。*・





吐いたため息は深く、
冷たい空気を濁らせた。





物理的にも感覚的にも
冷たくて気持ちが悪い。





ハルト「・・・折り畳み傘、
持ってきて良かった」





ぼそりと呟く。





今日は久しぶりに登校したのに
雨が降り出して、気分が悪い。





頭痛がしてきた。





?「あれ、あいつ、
なんでいんの?」





あー。





早速、めんどくさい人に
見られてしまった。





アキ「まーだリュックに
あんなの付けてる。キモっ」





シャノン「ぼっちで可哀想だねー」





アキ「あんなの付けてっから
一生ぼっちなんだろw」





この格好じゃ、
そう言われんのも無理はない。





・・・だけど。





ハルト(近藤藍月と伊藤沙音、
相変わらず陰口好きだよね)





いつまで経っても
あの2人は
うるさくてうざったい。





昔からそうだった。





僕は陰で嗤われている。





近藤には
ずっと言われ続けている。





「女の格好した男~」
「その名もっ」
「今井暖大!」





陽キャ気取りのダサい男子たちに、
そんなふうに言われたこともあった。





けど、僕の考えはずっとこうだ。





ハルト(あの子たち、
あんなつまんないことしてないで、
かわいいもの堪能すればいいのに)





そうしたら、心も穏やかになる。





僕は昔から
かわいいものが好きだった。





アキ「結局さぁ、あいつって
男なの女なの?」





シャノン「知らなーい。
中間なんじゃない?
最近よく言うじゃん、
えるびーじーなんとかって」





アキ「うわ、それか。キモっ。
はっきりさせろって感じだよねー」





はぁ・・・また始まった。
これが超めんどくさいんだよね。





伊藤は間違っている。
正確にはLGBTQだ。
僕はその“Q”の部分に当たる。





―――男性か女性かわからない、
クエスチョニング。





はっきりさせろとか言ってる
あの人たちには
最も気に障りそうなステータスだ。





ハルト(だって好きなもんは
好きなんだもん。
メイクだってするし、
ガーリーな服も着るし)





昔、父さんと母さんに
「この服がいい」と言って、
とびきりキュートな服を
見せたことがあった。





あの時の両親の顔は
忘れられない。





父は「はぁ? どんな冗談だよ。
気持ち悪くて仕方がない」





と言って
顔を顰(しか)めた。





母は
「なんてこと言うの!
ハルトは男子でしょ。
冗談でも恥ずかしい」
と言って怒った。





両親は僕が女子のような
服を着るのに
超がつくほど否定的で、
それ以来、おかしい奴扱いを
受けるのが嫌になって。





ハルト(ほんと、
どうでもいいのに)





ずっと、
隠したままなんだ。





?「・・・と」





隠す必要なんて
何もないのに。





?「・・・ると」





僕はどうしても、
おかしい奴で認知されるのは
嫌なのかもしれなくて。





?「ハルト!」





ハルト「わっ」





―――幼い頃に
姉のガーリーな服を着て
登校したらいじめられたのが
トラウマだった。





白のブラウスに
薄色ストレートデニム。





これなら大丈夫と思っていて、
足取りは軽かった。それなのに。





ハルト(全っ然、
大丈夫じゃなかった)





いつものように優しく
接してくれる女子たちも、
遊びに誘ってくれる男子たちも、
その一瞬で離れてしまった。





近藤たちは
「顔いいのに許せない」
「イケメンだと思ってたのに何あの格好」
「キモっ」
と吐き捨てた。





僕はそれが衝撃すぎて、
お気に入りのかわいい鉛筆を
落としたのも気づかなかった。





ハルト(だけど、1人だけ)





普段と変わらない接し方で、
特別な見方もせずに、
可哀想とも言わずに。





彼女は小さな口を開けて、笑顔で
「ハルト、おはよう。
鉛筆落ちてたよ」
と言ったんだ。





僕はずっとみんなが嫌いだけど、
彼女だけはずっと好きなんだ。





?「どしたの、ハルト。
大丈夫?」





ハルト「僕は大丈夫だけど・・・
レイナは?」





レイナ「大丈夫だよ。
あ、これ」





昔と変わらない笑顔で、
吉本麗南という
ボーイッシュな女の子は、
鉛筆を僕に差し出した。





ハルト(・・・懐かしいな)





あの日拾ってもらった鉛筆は、
今もお守りとして
ペンポに入っていた。





レイナ「はい。ハルトのでしょ?
昔拾った時から
長さ変わってないね」





ハルト「うん」





レイナ「なんか懐かしいね。
ほんと久しぶりに話したよね」





ハルト「そうだね。
僕も懐かしいって思ってた」





レイナ「あははっ、一緒だね。
あっ、じゃあ行くね」





はぁ・・・





ほんと、ずっと優しいんだから。













・*。・ 家 ・。*・





今朝レイナと話せただけで大満足。





体調悪くて保健室行って
早退したけど、
授業つまんないし別にいい。





雑誌を眺めながら
スマホを開くと、
ラインにひとり
友だち追加されていた。





ハルト(えっ・・・
REINA1204?
って、これ、レイナ・・・?)





すぐにトークを許可した。





レイナからの
〈ハルト、ごめん急によろしくね〉
という、たった一言が載った画面を
スクショする。





僕はすぐにこう送った。





〈よろしくなんで急に?
僕クラスラインにも追加されないような
人間だけど〉





ハルト(言い方変だな。
ちょっと後悔)





瞬時に既読がつく。





ハルト(え?)





電話が掛かってきた。





えっ? なんで?
でもすぐに応える。





ハルト「もしもし・・・?」





レイナ「ごめんねぇ、
お姉ちゃん同士の繋がりで
追加しちゃった」





ハルト「あ、うん、
それはいいんだけど」





レイナは僕に構わず続けた。
今日、久々に話したじゃん。
それで懐かしくなってさ。
せっかくだからって彼女は笑った。





僕も返事をする。
ありがとう、嬉しい。
僕、だいぶ前からレイナしか
女友達いなくて。





レイナとライン繋ぐのが、





ハルト(大丈夫、これが普通)





女の子だと初めてだし、
結構、嬉しいよ―――。













・*。・ 学校・。*・





昨夜の電話で、
レイナはこう言っていた。





明日も学校来てね。
ずっと話したかったことがあるから。





―――朝1番に教室に来てね?





それで僕は久々に早起きをして、
教室に乗り込んだ。





レイナ「あ、おはよ。
昨日はごめんね」





ハルト「別に大丈夫。おはよ」





レイナ「うん。
あー、あの、ちょっとこっち」





ドキッ。
袖を引っ張られて、
僕の心臓は果てしなく
鳴り止まなくなってしまった。





ハルト(どうしよう。
深呼吸もできない。
どうしよう、助けて、
僕、このままじゃ)





っ―――・・・





レイナ「ねぇ、ハルトっ」





ハルト「ひゃいっ」





レイナ「あはは、反応かわいい。
・・・じゃなくてっ」





すぅ。
レイナは深呼吸をした。
何の話なんだろう。





やっぱりまだ
ドキドキし続けている。





レイナ「あのさ、ハルト」





ハルト「・・・うん」





レイナ「えっと、ハルト・・・」





ハルト「うん・・・どうしたの?」





怖い。
何を言われるんだろう。
大好きなレイナに、何を。





レイナ「私ね」





ハルト「うん」





レイナ「―――ハルトのこと、好き」





―――ガラッ。





先生「あ、おはよう。
2人とも早いね」





レイナ「お、おはようございます・・・」





僕は履いたスカートを
ふわりと揺らして
2人に背を向けた。





先生「ハルト」





ハルト「・・・はい」





僕は振り返る。





先生「似合ってるよ」





それだけ残して、
先生は教室を出ていった。





レイナ「あ、あの、ハルトっ」





ハルト「ん?」





レイナ「・・・付き合ってくれませんか」





あー・・・やばいな。





このままじゃ僕、





ハルト(ドキドキしすぎて
死んじゃいそう・・・)





生きることを願うしかできない。





当然のように、
そう思っていたけれど。





ハルト「僕もレイナのこと好きだよ」





・・・なんでだろう。





ハルト「断るなんて道、ないでしょ・・・?」





さらっと言えちゃうもんじゃ
ないのにな。





きっとこれは、





レイナ「あははっ」





彼女だから言えちゃうんだ。





レイナ「ありがと!」





僕たちは2人、今日も
お揃いのスカートを履いて
笑い合う。





思い出のぬいぐるみを
抱きしめながら、
いつもいつまでも続く電話を、
今日も楽しみに待っているんだ。







・*。・THE END・。*・

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