桜が咲く前に
作者:はんちゃん
空を見上げる。
あの頃と変わらない、
真っ青な空。
君が5才になったばかりの秋から、
私が16歳になったこの春までの、
長く長く、愛しい物語。
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「野澤しおりです!」
私は、この“しおり”という
名前が大好き。
幼い頃は、自己紹介するのが
うれしくて仕方なく、
つい大きな声になっていた。
親の仕事の都合で、
私が故郷の田舎から
この街に引っ越してきたのは、
11年前の秋のこと。
新しい幼稚園での生活に
わくわくしながらの初登園、
大好きな自己紹介を済ませたとき、
私は「君」がいるのに
気づいた。
君は、友達の輪から
外れるように、
輪を遮断しているかのように
そこに座っていた。
まるで、君の周りにだけ
異世界が存在しているような
不思議な感覚。
幼いながらに、私は君に
吸い寄せられた。
「ねーねー、うち、
野澤しおりっていうの!」
「・・・さっき、きいた」
君の声は意外と低かった。
「えっと・・・おなまえ、
なんていうの?」
「くの、なつ」
今なら漢字だって書けるよ。
「なつくんかー!
これからよろしくね!」
あのとき握った君の手は、
あたたかかった。
これが、私と
【久野渚夏】との出逢い。
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「ナツとちがうクラスになるなんて、やだ!」
私と君は、小学生になって、
初めての春、終業式を迎えた。
君と同じクラスになれて、
幸せな1年間を過ごした私にとっては、
君と離れるかもしれない、
このことが怖くて、
膨らみはじめた桜のつぼみを見るのも
うらめしくて、嫌で嫌で。
でも君はいつだって
「もしちがうクラスになっても、
おれはいつもしおりといっしょだから」
って、言ってくれた。
・・・・・・・・・・・・・
「ナツ!
また同じクラスだあ!」
結局、私と君は小学校6年間
クラスが離れることはなかった。
「またしおりと一緒かよ、
めんどくさ」
そう言いながらも、
君は笑ってた。
同じクラスになれたと
はしゃぐ私。
それを見て微笑む君。
舞い散る淡い色をした
桜の花びら。
何もかもが大切で、
私は春が大好きだった。
春は別れの季節、
なんて人は言うけど
そんなのお構いなしに、
私と君は幸せだった。
「別れ」を知らなかった、
幼き日々。
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「8年目も同じクラス、か・・・」
中学2年生の春、
私と君は、やっぱり一緒だった。
ただ、今までとは
少しだけ違っていた。
私と君が一緒にいるのは、
名簿の上でだけ。
君は、学校を
頻繁に休むようになっていた。
「久野、どうしたんだろうね・・・」
「いじめられてたとかいう話、
聞いたことないよね・・・」
君が突然学校に来なくなって、
みんな心配してたんだよ。
「もう、1ヵ月・・・」
窓の外に目を向ければ、
校庭には葉桜。
君と会えなくなってから、
時は確実に過ぎていった。
家をいく度と訪ねても、
君には会えなかった。
これまで、ずっとそばにいてくれた
君の温もりを感じなくなって、
どれくらい経っていたのだろう。
「ナツくんと会おうとするのは、
もうやめなさい」
突然のお母さんの言葉。
重く苦しい宣告。
息がつまり、
頭が真っ白になった。
「ねぇ、なんで?!
お母さん何か知ってるの?!
なんで私はナツに会えないの・・・っ?!」
あのとき、振り切ってでも
会いにいけばよかった。
もっと早く、
君のすべてを知っていたら。
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私が14歳になったばかりの、
去年の春。
「○○大学病院」
私のお母さんは観念したように
話し始めた。
「ナツくんは、小さい頃から
難病を患っていてね」
「高校生になるまで
生きられるかどうかと
言われていたのよ」
幼稚園でいつも
ひとりでいた君。
自分の命が永くはないと、
あんなに幼いときから
知っていたの?
「そんなとき
しおりに出会ってね」
「しおりちゃんといるようになってから
あの子、よく笑うようになったって
お母さん言ってたよ」
私の一言一言に、
笑顔を見せてくれた君。
私は少しでも、
君の生きる希望に
なれていましたか?
「それでも病魔は
待ってくれなくてね」
「中2になる直前に、
入院したのよ」
私の13歳の誕生日が、
君と会った最後の日。
君は最後だって、
分かってたの?
「ごめんねしおり、
ナツくんのことづけだったのよ」
「しおりを悲しませるだろうから、
何も言わずに死なせてくれ、って・・・」
バカ。
余計に悲しくなるじゃない。
君はどうしてそんなに
やさしいの?
そのやさしさが
心に染みて
涙となって
私の頬を伝う。
「会いに行きたいなら、
行きなさい」
「しおりの本当の気もち、
お母さん知ってるから」
泣きながら走った。
季節はずれの
粉雪が舞う中を。
咲きかけた桜が
見える道を。
無我夢中で、君のもとへと
駆け出した。
最期のときまで、
そばにいる。
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「ナツ、聞こえる?」
微かに動く君の唇。
蚊が鳴くよりも
小さな声。
「ねえナツ、私たちが初めて
会ったときのこと、覚えてる?」
ゆっくりと、うなずく君。
「ナツの声、意外と低くて
びっくりしちゃった」
だから何、とでも言いたそうに
君の眉が少し動く。
「そう怒らないで」
怒ってねえし。
君の少しやさしくなった表情から、
そう声が聞こえてきそう。
「小1からずっと
同じクラスだったね」
ずっと? と聞き返すように、
君の視線が少し私のほうを向く。
「そうだよ。
ナツが学校に来なくなった中2も、
中3になった今も、ずっと」
君がまたわずかに
眉をひそめる。
「同じクラスになるといっつも
ナツ言ってたよね、名簿見てさ」
【またしおりと一緒かよ】
あの頃はすごくすごく
ムカついたけど、
今となっては泣きたいくらい
愛おしい。
「本当に私と同じクラスになるのが
嫌だった?」
君は私の手を握った。
初めて手を握ったときより
少し冷めたように感じるのは
気のせいかな。
それでも私の手には
温もりが伝わる。
君がこめた力が伝わる。
生きている。
「私ね・・・
ナツと一緒にいるだけで
幸せだった」
君の視線が私をとらえた。
「ナツが好きなの、
大好きなの」
零れる涙をおさえることは
誰にもできない。
「ナツ・・・私も一分一秒を
もっと大切に生きていればよかった・・・っ」
君の唇は、かすかに、
だけど確かに動いている。
「す、き、」
私の嗚咽だけが響く病室。
静かな、静かな1年間。
・。・:*・°・。・:*・°・。・:*・°・。・:*・
空を見上げる。
あの頃と変わらない、
真っ青な空。
私が16歳になった今、
君はこの世界にはいない。
大好きだった春を迎えることは
叶わなかった。
ねえ、ナツ。
聞こえていますか?
きれいな青空に、桜の花びらが
切なく舞っています。
桜のつぼみがふくらむと、
君と過ごした日々を思い出し、
桜の花が咲くと、
君の低い声がよみがえり、
桜がこうして散っている今、
君の笑顔が浮かびます。
ねぇナツ。
私は忘れないよ。
最期の時に
いつまでも握っていた君の手は
どうしても冷たかったけれど
私だけに感じられる温もり。
君のやさしさ。
私にくれた愛。
君のすべてをこの胸に。
私は忘れないよ。
桜舞うこの空に誓う。
いつだって君は
私の心で、生きている。
これからもずっと
そばにいるよ。
君のすべてを、愛しています。
~Fin~
この作品は過去に投稿された作品をアレンジしたものです。また、掲載されている物語はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。




























伊藤 沙音
青山姫乃
国本 姫万里
松田 美優
白水ひより
星名ハルハ
星乃あんな
工藤 唯愛
佐々木 花奈
白尾 留菜
十文字 陽菜
松尾 そのま
梨里花
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中瀬 梨里
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