七十年前のあの人
作者:ろっか
初めまして。
私は、常盤マウミ。
平凡な、ただの中学2年生。
そんな私だけど・・・・
1つだけ平凡じゃないところ。
それは、私だけの記憶。
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2年前のあの日。
ここに引っ越してきたばかりの頃。
居場所がなかった私は、
ふらふらと
誰もいない公園を歩いていた。
小さな桜の丘の下。
桜の木の幹に
そっと体を寄せた。
目をつぶって、
春の空気を吸った。
その瞬間・・・・
私は知らない場所にいた。
長い長い眠りについていたような
気がしていた。
私は桜の木の幹に
体を寄せている。
でも、何かが違う。
いや、何もかもが違う。
そこは全く知らない場所だった。
古い建物に、古い服装に
身を包んだ人々。
これは・・・・
うるさいサイレンが鳴り響いた。
私は思わず耳をふさぐ。
まわりにいた人々が
険しい表情で走り出した。
「あんたも逃げろ!」
私の横を通っていった
おじいさんが叫んだ。
私は戸惑いながら走り出す。
しかし、昼寝をしたあとだからだろうか。
ずっこけてしまった。
「いった・・・・」
「行くぞ!」
誰か力強い手が
私の腕をつかんだ。
私をおぶって走り出す。
「まったく、危ないぞ!」
その人は若い人のようだった。
二十歳くらいに見える。
その人はぱっと
土の穴に飛びこむと、
私を座らせた。
「えっと、ここは・・・・」
「ここはも何も、ニッポンだ」
ニッポン。
ここは・・・・
私は呑みこみが良いので、
わかってしまった。
戦時中の、日本。
さっきのサイレンの音は、
空襲とか何とかいうものを知らせる音。
目の前にいる男の人は・・・・
「私は、堀口イブキだ。二十歳」
この人も命を散らすんだろうか、
と考える。
二十歳でも戦争に
行くんじゃなかったっけ?
「私、常盤マウミ。
さっきはありがとう」
そう言うと、彼はうれしそうに
顔をほころばせた。
「どういたしまして。
マウミさんか。
素敵な名前だね」
素敵な名前。
そう言われたのがうれしい。
「私は、祖父母と暮らしている。
君は・・・・
変わった服を着ているな。
身寄りがないのか?」
そういうイブキさんは、
歴史の授業でよく見る
あのシンプルな服に身を包んでいる。
「さあ、もうだいじょうぶ。
防空壕から出よう」
なるほど、
これが防空壕か・・・・
されるがままに
イブキさんについていくと、
古い小さな家にたどり着いた。
「ただいま」
イブキさんが声をかけると、
おばあさん、おじいさんが
パタパタとやってきた。
「心配したんだよ!
どこへ行っていたんだい」
「ああ。
身寄りのない子がいたから・・・・」
2人の視線が私に集中した。
「あ、あの。
常盤マウミと申します・・・・」
こら、自己紹介じゃないだろ。
そう自分をつつきたい気分になった。
「綺麗な子だね。
さあ、おあがり」
それだけ? と思った。
でも、確かにやさしそうな
雰囲気の人だ。
「あ、ありがとうございます・・・・」
こうして、私の
タイムスリップした、
七十年前の生活が始まった。
ぼうっと思い出していた。
私はあの家に
一か月くらいいた。
イブキさん、
おばあさん、おじいさんと
普通に暮らしていた。
楽しかった。
私はどんどん彼に惹かれていったし、
六歳年下だったけれど、
彼もそうだった。
一か月たった日。
彼は出征した。
日本はどうせ負けるから
行かないでと言った。
でも彼は、聞かなかった。
行ってしまった。
行ったのか、逝ったのかは
知らない。
でも、行ってしまった。
* ‐‐‐ * ‐‐‐ *
中学2年生のクラス替え。
よく見知った雰囲気の人を見た。
その人は、竹内リュウトと名乗る。
あの人は、イブキさんの生まれ変わり。
一瞬でわかった。
だって、雰囲気がそうだったから。
じっと見つめていると、
竹内リュウトが
こちらへやってきた。
戸惑っていると、
その人は話しかけてきた。
「俺、竹内リュウト。
どこかで君に会ったことがある気が
するんだ」
えっ、えっ。
「あ、わ、私も・・・・!
常盤マウミです」
イブキさんが入った人に、
会える。
イブキさんに、会う。
*end*
※掲載されている物語はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。





























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