『成瀬は天下を取りにいく』宮島未奈さん×ニコラモデル・稲垣来泉 スペシャル対談2024.05.15オリジナル

本屋大賞2024で大賞を受賞した『成瀬は天下を取りにいく』の大ファンだという稲垣来泉(クルミ)と、作者・宮島未奈さんとのスペシャル対談企画が実現! 撮影現場に小説を持ってきて読んでいたほどこの作品が好きだというクルミがアツい想いを語りつつ、小説の背景をインタビュー取材しました!

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※ここから先は小説のネタバレを含みます

「この作品を読んでからすっごくマイペースになりました」

クルミ(以下 )私、ちょっと前まではけっこう周りを見て行動するタイプだったんですけど、この作品を読んでからすっごくマイペースになりました(笑)。

宮島さん(以下 )それはいいですね!笑

ク)マイペース、楽しいです(笑)。『成瀬は天下を取りにいく』が本屋大賞を受賞したという記事を見て、主人公が中学2年生ということで、私と同い年だったのもあって興味を持ちました。

宮)成瀬と同世代の方が読んでくださっているのが、とても嬉しいです。サイン会などに来てくれるのは大人の方が多いので、中学生の方の感想を聞けるのを楽しみにしてきました。

ク)1巻の『〜天下を取りにいく』の方で好きなのは「レッツゴーミシガン」と「ときめき江州音頭(ごうしゅうおんど)」です。レッツゴーミシガンでは成瀬が告白をされるシーンで、ちょっと照れくさそうにしている顔をすっごく鮮明に想像できて、かわいい〜!と思いながら読みました。「ときめき江州音頭」では島崎が東京に引っ越すことになった時、大切な人が自分から遠くなってしまうっていうのを聞いた成瀬が、今までの変わらない日常でのテンポを崩してしまうシーンが、すごく好きでした。

2巻の『〜信じた道をいく』の方では、「コンビーフはうまい」と「やめたいクレーマー」が好きです。

宮)ああ〜、ありがとうございます。嬉しいです。

挑戦しなきゃ何も始まらないということを成瀬が改めて教えてくれた

ク)質問なのですが、宮島さんがこの作品を通して伝えたい思いってどんなことですか?

宮)“先のことは分からない”ってことですね。成瀬も作中で「東京オリンピックが延期になるって知っていたのか」みたいなことを言うんですけど、本当に先のことって分からないなって私もいつも思っています。私はこれまで長く主婦をやっていて、小説家になれるなんて思ってなかったんですよ。

小説家をもう一度目指してみようって思って書き始めたのが 2017 年なんですけど、書き始めてからもなかなか新人賞を受賞できなくて、このまま小説家にはなれないのかなって思っていたんです。でも、いざ受賞して小説家になって、そしてこうやって本屋大賞という大きな賞を取るというのは、全然想像していなかったことでした。もちろん嬉しいですけど、でもやっぱり意外だなっていう気持ちが大きくて。だから将来のこととかね、悩んでいる人も多いと思うんですけど、もしかしたら明るい未来が待ってるかもしれないっていうのは、この作品を通して言いたいことですね。

ク)私も基本挑戦したいマインドなので、成瀬と共通する部分もあったりするんですが、挑戦しなきゃ何も始まらないなっていうことを改めて教えてくれたように思います。

宮)挑戦…それもよく言われるかもしれない。「この本を読んで何かに挑戦してみたいと思った」みたいなことを言ってもらえることがありますが、私の本がそのきっかけになっているっていうのは、作家としてすごく嬉しいことだなって思ってます。

娘のような存在の成瀬。最近ではビジネスパートナーにも⁉笑

ク)宮島さんが中学生時代に好きだったものや興味があったものってなんですか?

宮)ああ〜えっとですね(笑)、私は中学生のころから競馬が好きでした。全然興味ないと思うんですけど(笑)。競馬が1番の楽しみで、レースをテレビで見たり、競馬ゲームを家でやったり。

ク)競馬の好きなところはどんなところですか?

宮)競馬って、馬に歴史があるんです。例えばAの馬がBの馬と対戦したときに、今回はAが勝ったけど、次に対戦した時にはBの馬が勝つというような、対決が積み重なっていくのも楽しみですし。で、さらに何年か経ってその強かった馬の子どもが生まれたりすると、その子も応援したくなる。そういうところが好きでした。

ク)歴史と未来を楽しめる、ということなんですかね?

宮)そうかもしれないですね。その馬の小説みたいな感じかもしれないです。生まれてから大きなレースに勝つまでをストーリー的に楽しんでいたというか、馬の人生をドラマとして楽しんでいたという感じがあると思います。

ク)そういう視点だったんですね! 

  次に、宮島さんにとって成瀬はどんな存在ですか?

宮)成瀬は娘のような存在ですね。自分が生み出したものではあるんだけれど、自分とは別人だし、だけどやっぱり自分が生んだものだから、すごくかわいいし…っていう。成瀬も、実は成瀬の母親から見るとそんなに変わった子だと思われていないと思うんです。なんか変なことしてるけど、お母さんとしてはこの子変だなとはあんまり思いたくないんじゃないかなと。だからそういう気持ちで、私も成瀬を見ているんですけれど、その一方で最近はビジネスパートナーみたいにもなっていて(笑)。成瀬がいてくれたおかげで、私もいろんな仕事をできていたりするので、一緒に仕事をしてくれているイメージですね。

ク)そうなんですね。私にとって成瀬はあこがれの存在で、友だちでこういう子がいたら絶対楽しいだろうなって思いながら読んでいました。

宮)読者さんによってもそこは感想が分かれるところで、同じクラスに成瀬がいたら?って質問すると、遠くで見ていたい人もいれば、仲良くなりたい人もいるし、いろいろあっておもしろいんです。稲垣さんは友だちになりたいタイプなんですね!

ク)友だちになりたい!笑 成瀬が人の言うことを否定するわけでも、自分を否定するわけでもなく、いろんな情報を自分の知識にしながら、前向きに進んでいくのを読んで、私もこんな風になりたい、すごく楽しそうだなって思いました。

宮)そうですよね。成瀬ってけっこう周りの話を聞くんですよね。そこが特徴的だなと思っていて、わりと天才って周りの言うことを聞かなかったりすると思うんですけど、成瀬は周りのことを見ていて、話を聞いて自分に取り入れたりするので、そういうところが好かれる理由なのかなと思います。

「すごく鮮明に想像できて、ずっとにやにやしながら読んでいました(笑)。」

ク)私もそこがすごく好きです。この作品を書く上で意識したことってありますか?

宮)楽しく明るい話にしよう!ということを決めていました。当時コロナ禍でちょっと暗い世の中だったので、暗いお話ではなく明るいお話にしようと。だから漫才のネタみたいな感じで、クスッと笑えるポイントを意識して入れていました。

ク)『〜信じた道をいく』の「コンビーフはうまい」で、成瀬と同時に琵琶湖観光大使になった子と成瀬の掛け合いだったり、記者会見で成瀬の発言に記者たちが困った顔をしているんだろうなっていうシーンだったりは、すごく鮮明に想像できて、ずっとにやにやしながら読んでいました(笑)。

宮)ああいう感じって取材を受ける側じゃないとわからないですよね。私も取材を受ける側になった時に、相手がちょっと「えっ」みたいな感じになることがあるじゃないですか。どうしよう変なこと言ったかな?みたいな。そういうのを彼女は分かるんだけど、成瀬は分からない。そこの対比は意識して書きました。

ニコラと『成瀬は天下を取りにいく』は同じ出版社・新潮社から発売されているよ。会社の前には大きなポスターが!

書くときには映像を思い浮かべてどこを書けば伝わるかを考

ク)そもそも成瀬というキャラクターはどこで思いついたんですか?

宮)特にモデルとかがいるわけじゃないんですけど、おもしろい、変わった子にしようと思ったんです。ただ、いくらでも変にはできるんですけど、そうすると共感が得られにくいですよね。なので本当にいそうだなっていうギリギリを攻めました。

ク)私はこの作品を読んでいて、全部のシーンでどういう場所にいて、何をしながら話しているかっていうのをすごく鮮明に想像できたのですが、この作品でそのような意識はされていましたか?

宮)映像が浮かびやすいっていうのは、以前も言われたことがあって、実際私も映像を思い浮かべて書いているので、どこを書けば伝わるかなっていうのを考えるんですけれど、書き込みすぎても想像の余地がなくなってしまうので、それが皆さんに伝わっているっていうのは、やりたいことができているということなので、すごく嬉しいですね。

稲垣さんの一番好きなキャラクターは成瀬ですか?

ク)はい。ええと、成瀬も好きなんですけど、成瀬のお父さんもけっこう好きです(笑)。

宮)お父さんね。こんなお父さん、本当にいそうだなって思いながら書いてたんですよね。

ク)成瀬のお母さんがあまりにも普通に成瀬と話しているから、ちょっと取り残されちゃってる感とか、成瀬がYouTuberの人を連れてきちゃう時も否定できずに結局一緒にお茶飲んじゃったりするのとか、すごくおもしろくて、私の中でとても好きなキャラクターになりました。

宮)あはははは、うん、うん。それは成瀬のお父さんうれしいと思いますよ(笑)。

「稲垣さんからは成瀬に対する熱い思いがすごく伝わってきました。」

ク)先ほど担当編集さんから、宮島さんは小説を書く時間をちゃんと決めて、ルーティンを作っていらっしゃると聞いたんですが、そうなんですか?

宮)私は午前中に書くようにしていて、 9時から12時が書く時間です。編集者から午後にメールが来ることに多くて、9 時から12時は自分の時間になるので、その時間に書くようにしてます。

『成瀬』担当編集Mさん)編集者は寝坊しがちなので(笑)、昼ぐらいから動き出してメールが届くという、それを宮島さんがうまく朝方に執筆して午後からメール返して、というふうにしてくれています。

ちなみにお話を聞いていて少し意外だったのですが、稲垣さん的に成瀬は“かわいい”に入るんですね。かっこいい方なのかなと思っていたんですけど、かわいいポイントがあるのでしょうか?

ク)そうですね。成瀬は自分を貫いた結果、まわりから避けられてしまうこともあるけど、それも自分の人生だから気にしない、みたいな強い部分がありながら、表情がコロコロ変わるシーンがあったりもして、そんなところがかわいいって思います。

宮)この作品では成瀬派と島崎派がいるようで、2人の人気がすごいんです。もちろん両方好きっていう人もいるんですけど、稲垣さんからは成瀬に対する熱い思いがすごく伝わってきました。

ク)私夜眠る前に、毎日のように想像タイムが入るんですけど、最近成瀬が好きすぎて、その時間に“成瀬と同じ家に住むとしたらどんな感じなんだろう”と、1人で笑いながら寝ています(笑)。

宮)あ〜、とってもいいですね(笑)。たしかに成瀬がいたらいいなと思う時があるよね。私も落ち込んだ時とか、成瀬に励ましてほしいなって思ったりします。成瀬だったら、こんな時どうするかなって考えたりもしますね。

ク)知りたいこととか、全部教えてくれそうな感じがします。

宮)迷いを断ち切ってくれそうな感じがありますよね。ただそんな成瀬にも弱点があるっていうのが、この作品の肝で。自分の中でこれだけは守りたいもの、そういうのは誰にでもあるし、それが成瀬にとっては島崎だったんだろうなって思います。

ク)2人の友情すごくいいですよね。1巻の最後を読むまでは成瀬って何にも動じない人なのかなって思ってたんですけど、島崎がいなくなるとこんなに弱っちゃうんだっていうのと、2巻になると逆に島崎がちょっと嫉妬する感じがあったりもして、すごくいいなと思いました。

宮)実は1巻を書いた時には続編を出すつもりはなくって、1巻の最後に成瀬がようやく語ったところで終わるつもりだったんですよ。なので続編を出すことになった時「どうしよう」と思って。2巻があるって分かってたら、島崎は引っ越さなかったのに…と(笑)。島崎がいないという条件でやるとすればと考えたときに、こういうお話にしました。3巻、4巻と続けていくうちに、また「ああしてればよかった」っていうのが絶対出てくると思うんですけどね。

ク)続編、あるんですか?

宮)3巻は出ます! 3巻は出ますけど、4巻まではちょっと間を空けようかなと思っています。

ク)やった! 読みたいです!

宮)成瀬ファンの皆さんってすごく続編を楽しみにしてくれているので、私は一生書き続けるのかなって(笑)。だから長い目で見て、疲れないように少しずつやっていこうと思っています。

ク)3巻も楽しみです!

「成瀬みたいになりたい!」クルミにとって成瀬はあこがれの存在。

中学生の皆さんには夢を持ち続けてほしいです

最後に宮島さんから中学生に向けてメッセージをお願いできますか?

宮)これを読んでいる中学生の皆さんに伝えたいのは、夢は意外と叶うってことです。私は中学生の時から小説家になりたいと思っていて、それが40歳で叶いました。夢は意外と叶うので、希望を持って進んでほしいです。すぐに叶わなくても、時間が経ってから叶うこともあるので、やっぱり夢を持ち続けることが大事なのかな、と思います。

ク)ありがとうございます。今日はとても楽しかったです。

宮)いえいえ、こちらも楽しかったです! ありがとうございました。

宮島未奈(みやじま・みな)さん

1983年静岡県富士市生まれ。滋賀県大津市在住。京都大学文学部卒。2021年「ありがとう西武大津店」で第20回「女による女のためのR-18文学賞」大賞、読者賞、友近賞をトリプル受賞。2023年同作を含む『成瀬は天下を取りにいく』でデビュー。第11回「静岡書店大賞」小説部門大賞、第39回「坪田譲治文学賞」、第21回「本屋大賞」など14冠を獲得し話題となる。続編『成瀬は信じた道をいく』とあわせてシリーズ累計50万部を突破。

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