夏季講習から始まる恋

CAST河島 英人河島 英人

作者:ちはなん

新二コラ学園恋物語新二コラ学園恋物語2021.05.15

ドクドクドク





心臓の音が
うるさいぐらいに
俺の中に響く。





俺は、彼女から
目が離せなかった・・・







***





俺は河島英人、高1。





自分で言うのは
嫌だけど、
かなりのバカです。





赤点はとらないけど、
ギリギリ1点セーフって
こともある。





ってなわけで、
親に言われて、
駅前の塾の夏季講習に
通うことになった。





ひとつ救いなのは、
俺の友達の内田蓮も
一緒に行くってこと。





蓮は、失礼だけど
俺と同じぐらいバカで、
俺と同じように、
親に言われて、
夏季講習に通うみたいだ。





蓮「あっつー!
なんだよこれ!」





英人「今日は暑いよな~」





蓮「・・・の割に、
お前はクールだよな」





いや、暑くて
テンション低いだけ
なんですけど。





蓮「帰り、どっかで
アイス買おうぜ」





英人「はあ? お前
親に殺されるぞ?」





蓮「大丈夫だって。
じゃないとこの暑さに
殺されるっつーの」





英人「まあ、そうだけどな」





2人で話しながら
塾に入る。





蓮「あっ! ごめん、
今日先生に渡すもんあった!
先教室行っといて!」





英人「りょーかい」





職員室に走って行く蓮の
背中を少しみてから、
階段を登る。





あーあ、なんで
こんなに暑いんだよ。





ぼーっと外を見ながら
階段を登り、
廊下を曲がると・・・





1人の女子が
廊下の向こうから
走ってくるのが見えた。





彼女は斜め下を
向いていて、
俺に気づいていない。





普通にある光景だ。





なのに、なぜか、
さっきから自分が
変な気がする。





ドクドクドク





心臓の音が
うるさいぐらいに
俺の中に響く。





俺は、彼女から
目が離せなかった。





でも、すぐに現実に
引き戻された。





彼女と、ぶつかりそうに
なったからだ。





英人「あっ」





女子「えっ」





彼女は、俺のすぐ前で
止まったけど、
その拍子に、
彼女が抱えていた教科書や
問題集がザザーっと
彼女の腕から滑り落ちる。





女子「あっ・・・」





彼女は、必死に
それを拾い集める。





俺も手伝おうと思って
落ちている問題集を
手に取る。





名前の欄には、
綺麗な字で
「林芽亜里」
と書いてあった。





林さん、か・・・





小さく息を吸って、
問題集を林さんに渡す。





英人「はい、これ」





俺が差し出すと、
林さんはニコッと笑った。





芽亜里「ありがとう!」





英人「全然いいよ」





芽亜里「あ、私、林芽亜里!
この塾に通ってるの。
よろしくね!」





英人「お、俺は、河島英人。
夏季講習に
通ってるんだ。
よ、よろしく・・・」





林さんは、もう一度
ニコッと笑うと、





「じゃあね」
と手を振って
廊下を走っていった。





俺は、しばらくその場に
つっ立っていた。





どのくらいそこに
いたのだろう。





誰かが俺の肩を
ポンと叩く。





蓮「英人、
なにやってんの?」





英人「え、蓮か・・・」





蓮「もしかして、
運命の出会いとか・・・?」





蓮が面白そうに
つついてくる。





英人「それはない」





蓮の手を振り払って、
さっさと廊下を歩く。





歩きながら、
あることを思い出した。





林さんが持っていた
問題集って、
特進クラスのものだよな。





ちなみに、うちの塾では、
定期的にテストがあって、
それをもとに、3ヶ月ごとに
レベルでクラスを分ける。





その中でも特進クラスは、
常にテストで90点以上を
取り続ける秀才が
集まるクラス。





林さんは、そんな
秀才の1人だと
いうことだ。





俺にとっては、
雲の上の存在だった。













***





蓮「やっと終わった~!!」





廊下で、
蓮が伸びをする。





英人「さすがに疲れたよな」





蓮「英人って、
いつも疲れを
顔に出さないよな」





蓮が感心したように
俺を見る。





英人「そうか?
これでも疲れたほうだっ・・・」





「ほうだって」
と言い切る前に、
俺は口を止めた。





蓮「ん?
どうした?」





蓮が、俺の視線を追う。





俺の視線の先には、
林さんがいた。





彼女は、廊下を
ゆっくりと歩いている。





まだこっちには
気がついていない・・・





と思った瞬間、林さんが
ふと顔を上げて
こっちを振り返る。





俺と目が合うと、
またニコッと笑って
足を止める。





芽亜里「また会ったね、
河島くん」





林さんに名前を呼ばれたのと、
隣に蓮がいるからなのか、
心臓がバクバクいってる。





俺は、なるべく
その動揺を隠すように、
笑った。





英人「ほんとだね。
さっきぶり」





林さんは、俺の隣にいる
蓮を見ると、
またニコッと笑った。





芽亜里「河島くんの友達?」





蓮「うん。俺、内田蓮。
よろしく!」





芽亜里「私は林芽亜里。
こちらこそよろしくね」





さすが蓮。女子と
話し慣れてるだけあって、
全然つっかえたりしてない。





ちょっと、いや、
かなり居心地が悪い。





そんな俺の気持ちを
察したのか、
蓮がチラッと俺を見て、





蓮「あー、俺、
用事あったんだわ。
英人、先帰るぞ~」





と言って、階段を
駆け降りていく。





アイツ、
もしかして
わざと・・・?





そんな蓮をしばらく
見ていると、
林さんがクスクス笑った。





芽亜里「面白いね、内田くん」





英人「え、ああ、うん」





微妙な空気が流れる。





なんとかして
話を繋ごうと、
頭をフル稼働させる。





英人「あのさ、林さんって、」





芽亜里「芽亜里でいいよ」





英人「え。じゃあ、
芽亜里って、
特進クラスなんだ?」





なるべく冷静を
保って言う。





芽亜里「なんでわかるの?!」





英人「問題集。
最高難度のやつだったから、
そうかな、って」





芽亜里「よく分かったね、
河島くん、頭いいんだ?」





英人「英人でいいよ。
それに、どっちかっていうと
バカだし」





芽亜里「そうなの?」





英人「うん」





芽亜里「じゃあ、
私と同じ特進クラスに
入れるように、
頑張って!」





芽亜里は、今日の中で
1番の笑顔を見せた。





その笑顔を見て、
俺はあることに気づいた。













***





それからも、俺と芽亜里は
塾で会うたび話をした。





そして、生まれて初めて
真面目に
勉強するようになった。





芽亜里と同じ
特進クラスに
行くために。





蓮「最近、英人、
テストの点高いよな?!
何かあったのか?!」





英人「え、ま、まあ・・・」





芽亜里のことを
言うべきか迷っていると、
蓮がニヤーっと笑う。





蓮「ははーん、なるほどな。
芽亜里ちゃんが特進だから
お前も特進に
行きたいってことか」





っ?!
完全にバレてた。





蓮「だいじょーぶ!
俺、口堅いから!」





信用はできないけど・・・





英人「と、とりあえず、
この話はもう終了!
蓮も頑張ろうぜ!!」





蓮「えー? 俺も?」





英人「お前も!!」





何度も何度も、
蓮を引っ張って
図書館の自習室で
一緒に勉強をした。





そして、俺は
あることを決めた。





もし、今度の塾の定期テストで
特進クラスに上がれたら、
芽亜里に告白する。





柄じゃないのは
分かってるけど、
どうしても芽亜里に
伝えたかった。





そんな自分を
裏切らないためにも、
もっと頑張る必要があった。





俺は、毎日机に向かって、
ひたすらに勉強した。













***





そして、
定期テストの
結果発表の日。





塾の廊下に、
クラスごとに
名前が貼ってあり、
そのクラスに入る。





俺は、ガチガチに
緊張しながら、
蓮と塾に行く。





基礎クラスは・・・
ない!!





基礎応用は・・・





蓮「あったー!!
って、英人はないー!!」





蓮が叫んだ。





英人「頑張れよ、蓮!」





蓮「先終わっても、
待っとけよな!!」





英人「当たり前だって!」





蓮は泣く泣く
基礎応用クラスに
入っていく。





残りは、
特進クラスと、
補習クラス。





補習クラスに
入るということは、
赤点だってこと。





特進クラスなら・・・





補習クラスは
まだ見てないけど、
どうしようか・・・





しばらく悩んだ後、
俺は意を決して
特進クラスの欄を見た。





『・・・・・、
林芽亜里、
・・・・』





あ、芽亜里はやっぱり、
特進か・・・





順に文字を
追っていくけれど、
なかなか俺の名前は
出てこない。





まさか、
補習クラス・・・?





知らないうちに
うっかりミスしてたとか?!





いや、自分なりに
頑張ったんだし、
大丈夫だって!!





最後の方まで
文字を追っていくと・・・





英人「あった・・・」





『・・・・、
河島英人
以上』





あった・・・
特進クラスに、
入れた・・・





俺は、周りに
見えないように、
ガッツポーズをした。





そして、
気を引き締めて
教室に入る。





そして、
席を探して座る。





ふと隣に視線を感じ、
見ると、芽亜里が
驚いたように
俺を見ていた。





芽亜里「英人くん・・・?!」





英人「今日からよろしく」





俺は、こそっと
芽亜里に言った。





英人「終わった後、
ちょっと時間ある?」





芽亜里「うん、
あるけど・・・?」





どうしたの?
と言いたそうな目で
こっちを見てくる。





英人「あの、
4階の階段の踊り場に
来てくれない?」





芽亜里「うん、いいよ」





やばい。
言ってしまった。





逃げる道は、
塞がれた。





いや、自分で
塞いでしまった。





その後は、
先生の自己紹介やら、
テキストの説明やら、
色々話されたけど、
全く耳に入らなかった。





そして、
授業が終わった。





終わってしまった。





俺は、急いで
荷物をまとめ、
踊り場に向かう。





まだ芽亜里は
来てないか。





静かに息を吐いて、
目を閉じる。





従兄弟が教えてくれた、
緊張を解くおまじないだ。





そのまま深呼吸して、
また目を開ける。





ちょうど、芽亜里が
階段を登ってきた。





芽亜里「お待たせ。ごめんね、
問題集カバンに入れてたら、
カバンがひっくり返っちゃって」





英人「平気?」





芽亜里「うん」





意外とおっちょこちょい
なんだな。





英人「そんで、あの・・・」





ああもう、なんで
言えないんだよ、俺!





このために、
毎晩勉強して、
頑張ってきたんだ!!





英人「あのさ、俺、
芽亜里が好きです」





長い沈黙の後に出た言葉は、
自分が想像していたものより
ずっとシンプルで、
ストレートだった。





英人「初めて、あの、
廊下でぶつかりかけた時から、
芽亜里が好きだった。
だから、俺と
付き合ってください!」





芽亜里は、
目を見開いて
固まっている。





まあ、
そうだよな。





なんとなく、
分かってた。





芽亜里は、
俺のことなんか
好きなわけ・・・





芽亜里「私は、あの日、
英人くんとぶつかりかけた日から、
ずっと気になってた。
その後も、話をする度、
英人くんのことが
頭から離れなくなって・・・
気づいたら、英人くんのこと、
好きになってた。
私でよければ、お願いします!」





芽亜里は、俺が惚れた、
あの笑顔でそう言った。





嘘だろ・・・?





芽亜里が、俺を?





英人「これ、
夢じゃないよな?」





そう言うと、芽亜里が
おかしそうに笑う。





芽亜里「そういえば、
内田くん、
いつも一緒に帰ってたけど、
いいの?」





英人「あ・・・」





忘れてたー!!





芽亜里「早く行かないと、
怒られるよ」





英人「知ってるよ~!!」





俺は、階段をズダダダダっと
駆け降りて、玄関に向かう。





そして、俺と同じように、
笑いながら
階段を駆け降りる
芽亜里をチラッと見て、
つぶやいた。





英人「ありがとな」







*END*

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