ちょこっとlateなチョコレート

CAST林 芽亜里林 芽亜里

作者:綾音

新二コラ学園恋物語新二コラ学園恋物語2021.03.13

バレンタインデー、





渡そうと頑張った日も。





今日の誕生日、





気合いを入れて
作った日も。





どちらもチョコは、
私の手の中のまま。





「こんなんじゃダメだ・・・」





私、林芽亜里。





料理が得意で、
えぇと・・・





・・・特技があまり
見当たらないのが悩み。





だからか
いつも下を向きがち。





眼鏡でおさげで、
膝下スカートなのも
相まって、





周りからは大人しい
優等生と思われてるみたい。





そんな私だけど・・・
好きな人ができました。





それからなんとか
アピールをしようと
頑張っているけど、
この通り。





いつもいつも、
後悔してばかり。





帰り道、
渡せなかったチョコを
食べながら
とぼとぼ歩いていたら、
不意に口が開いた。





「ちょこっとlateな
チョコレート
君に渡したいプレゼント
渡せなくって 自分で食べて
ちょっぴりしょっぱい
チョコレート
ちょこっとlateな
チョコレ・・・あ」





突然歌いだした
私の頭の中は
もう歌一色。





久々に思いついたかも!





急に軽くなった体で、
小走りで家に向かう。





早く書き留めなきゃ
忘れちゃう。





家に帰ると
自室に飛び込み、
メモ用紙と
シャーペン、
それとパソコンなどを
乱雑に取り出して、
まずは音源作り。





そう。
料理ともうひとつ、
大好きなもの。





それは、自分で作った歌を
歌うこと。





誰にも言えない
内緒の趣味。





ふと、目に入った
学校の予定表。





約1ヶ月後の枠に記された、
『ニコ学のど自慢大会』の文字。





―――――――――――――――
体育館に集まった
全校生徒に、あなたの歌を
思いっきり披露してください。
カバー、オリジナル
なんでもオッケー・・・
―――――――――――――――





数秒見つめてからふぅ、
と息を吐くと、
メモ用紙に歌詞を
書き始めた。













*・。+ *・。+ *・。+ *・。+ *・。+ *・。+ ・。





次の日。





オレンジに
染まりかけている教室で、
私はばたばたと
みんなの提出物や
明日の配布物を
まとめていた。





なぜか学級委員を
任せられちゃって。





あんまり得意じゃないけど、
みんなの役に立てるなら
頑張りたい。





「早く終わらせなきゃ・・・」





早く、歌の続きを
作りたい。





サビのリズム、
もうちょっと捻ろうかな・・・





「君に渡したいチョコレート、
かな?
プーレゼント、かな・・・」





「・・・芽亜里ちゃん?」





「やっぱチョ・・・
えっ! わ、わぁっ!」





どさどさ! っと、
手に持っていたプリントが
落ちる。





すっかり歌に夢中で、
教室に人が来たことに
気づいてなかった・・・!





「わっ大丈夫?」





「あ、はい・・・
ありがとうございま・・・」





お礼を言いながら
その人を見て、
はっとした。





姿を見なくても
側にいるだけで感じる、
キラキラした王子様的
存在を放つオーラ。





サラサラの黒髪が
目の前で揺れ、





プリントを手に
にこっと微笑まれた。





その人こそ、
私の初恋相手・・・
戸部光翔くんで。





彼は綺麗な黒い瞳の中に
私を移して、
口を開いた。





「ねぇ、さっき歌ってたよね。
すごく上手いし、
声が透き通ってて綺麗。
可愛らしい歌だけど、
誰の曲?」





「い、いえそんな・・・
えっと、私、が・・・」





「え!
作詞作曲?」





驚いた目で見つめられ、
真っ赤になりそうなのを
堪えながら
小さくこくんと頷く。





ついに言っちゃった、
自分以外の人に。





そ、それより私、
今光翔くんと
話してるよ・・・!





「すごい・・・
芽亜里ちゃん、
今度のニコ学のど自慢大会
出てみなよ。
絶対優勝狙える!」





「そ、そう、かな・・・」





でも、みんなの前で
歌うってことだよね。





こんなに内向的な
性格なのに、
ちゃんと
ステージに立てて、
声を響かせられるのかな・・・





「緊張する?」





「・・・う、うんちょっと」





見透かされたように
そう言われて、
少しびっくりしながら
流石だな、と思う。





男女共にモテモテで、
優しくて、完璧で・・・





私なんかとは、





「大丈夫。
俺が近くで見守ってるよ。
練習も、本番も」





「え?」





俺が近くで・・・





そ、そんな言葉
少女漫画以外に
存在していたんですか・・・!!





駄目かな、と言われて
ぶんぶん首を横に振る。





ぜひ、ぜひお願いします!





だってずっと
光翔くんが好きで!





・・・とは言えないし、
言わないけど。





「じゃあ・・・さっきの曲、
もう1回聴きたいな」





「は、はい・・・!」





そして私は初めて、
人前で歌った。





2人だけの教室で、
私の歌声が空気を震わす。





風に揺れた
カーテンの音までも、





遠くの方で聴こえる
部活動中の生徒の声も、





まるで全部が私の歌と、
音と、一体になって
いるような・・・
そんな気がした。





それから。





光翔くんに背中を押され
のど自慢大会の
参加用紙を出し。





せっかく
衣装自由なんだから、
と言われ、





制服で出るつもりだった
私は、光翔くんに誘われて
可愛らしい服を
買いに行った。





くすみピンクのニットに、
ブラウンのスカート。





可愛い、と言われて
赤くなりかけ、





いやみんなに
言ってるんだと
気を紛らわせた。





それからカフェで
少し話して帰って、





まるでデートみたい・・・
なんて思ったり。







空いている放課後は
一緒に練習して、





歌詞やリズムも
一緒に考えてくれた。





光翔くんが笑うたび、
好きで堪らなくて、





この時間がずっと
続いてほしいなって。





もし上手く歌えたら。





もし、優勝したら・・・





告白したいな、
なんて。





・・・無理だけどね!







とにかく
幸せな日々の果て、
やって来た本番。





緊張で呼吸が浅くなり、
はふはふ言っていた私の側に
光翔くんがやって来る。





「ふふ、大丈夫だよ。
今までずっと頑張って
練習してきたし、
・・・あ、芽亜里ちゃん
今日いつもと雰囲気違うね」





「あ、うん・・・
ちょっと、
髪整えたりして」





そう。





あの可愛い服に合うように
耳下ツインテールに
してみたり、





眼鏡を外したり、
淡いピンクのリップを
塗ってみたり。





どうかな、光翔くん、





ちょっとは可愛いって
思ってくれるかな・・・?





「・・・やっぱり、
やめない? 出るの」





突如体育館の
ざわめきが消えた。





出るの、やめる・・・?





「え・・・?」





なんで、
今までずっと
応援してくれてたのに。





この格好が
駄目だったの?





それとも、
元々私の歌が
全然ダメ・・・?





「出場者の方は
こちらに
集まってくださーい」





「・・・なんでもない。
呼ばれてるね。
芽亜里ちゃんの歌、
きっとみんな惚れちゃうよ。
楽しみにしてるから」





「あ・・・」





疑問は消えぬまま、
そそくさと
去ってしまった。





後ろ姿を、
ただ見つめるしか
なかった。





何が駄目だったの・・・?





呆気なく
回ってきた順番、





震える足を
懸命に動かし
前へ進む。





それでも・・・
そんな気持ちを
抱えても、私は。





歌いたい。
聴いてほしい。





自分の歌を、
音を、声を。





届かなくても、
泳いでいけるように。





身体の底から
弾けだした、
空を舞う音が、





君の心にまで
手を伸ばせるように。











♪ ‐‐‐ ♪ ‐‐‐ ♪





「芽亜里ちゃん!
すっごい上手かったよ!」





「あんなに上手いんなら
早く言ってよ~」





「わっ・・・
ありがとう・・・!」





無事のど自慢大会は
終了して。





ステージ裏から
みんなのところに戻ると、





わっと周りに
人だかりができた。





嬉しいような、
恥ずかしいような・・・





光翔くんは、
やっぱりいない。





ふと、クラスの男子がひとり、
寄って来た。





「今日格好も
すっげー可愛いし・・・
なぁ、俺と
付き合ってみない?」





「・・・へっ?」





すると、何人かの男子も
周りに来て。





「ばーか、
俺の方がいいよ。な?」





「いやいや俺の方が」





「いやいや」





「いやいやいや」





・・・な、なになに。





「選んでよ
芽亜里ちゃん、
誰がいいか」





「え・・・」





誰がいいか、
選ぶ・・・?





選ぶ、
・・・なんて。





私は、もう
決まってるんだ。





1番に今会いたい人。





お礼を言いたい人。





実は1番最初に、
褒めてほしかった人。





何も言わずに
走り出した。







静かに体育館から去る
後ろ姿を見つけて。





そんな私に驚いて、
私の名前を呼ぶ声が
聞こえたけど、
ただその背中を追う。





体育館裏に出て、
腕を強く掴んだ。





「光翔、くんっ・・・」





「芽亜里ちゃん・・・」





手を掴んだまま、
少しの間
沈黙が訪れる。





頑張って口を開き、
ポケットに忍ばせていた
小さな袋を取り出した。





「これ、昨日作った
チョコなの・・・
今までのお礼とあと・・・
誕生日のぶんと」





「誕生日?
1ヶ月くらい前だったね、
これこそちょこっとlateな
チョコレート?」





ちょっと笑って
うん、と頷くと、
光翔くんも笑った。





いつも後悔してばかりの
私が、渡せた。





それだけで
前の私なら
満足していたけど。





今はもうひとつ、
聞かなきゃいけない
ことがある。





聞いてほしい
こともある。





「私、本当は・・・
いろんな人に歌、
聞いてもらいたくて。
シンガーソングライターに
なりたい、の。
今は無理だけどいつか、
もっと上手くなって。
だから、光翔くんに
褒めてもらったのが
初めてで・・・
すごく嬉しくて」





だからこそ、なんで
出るのやめない?
と言ったのか、
ちゃんと聞きたかった。





すると、今まで
私から少し
視線をずらしていた
光翔くんが、





私の方にまっすぐ
向き直って。





「・・・優勝だね。
おめでとう、
すごく良かった。
みんな笑顔になっててさ、
さすがだなって」





「ありがとう・・・」





「すごくキラキラしてて、
みんな目を奪われて。
さっき何人かの男に
告白されてて、
もし誰かにオッケーしたらって
思うと嫌で。
前まで俺しか知らなかった、
頑張り屋で優しくて・・・
可愛くて、歌が上手い
芽亜里ちゃんが、
急に遠くなったみたいだった」





こんなふうに思ってて
ごめんね、と言われて、





「歌う前から、
可愛すぎるなって
心配だっただけなのに、
あんなこと不意に
言っちゃってごめん」





とまた謝られた。





「俺は・・・
こんな俺は、
ずっと前からそんな
芽亜里ちゃんが、
好きだったんだ」





耳に入った
その言葉に、





心の奥深くが
じんわりと暖かい
ピンクに染まった気がした。







違うの、
謝らないで。





だって、
・・・私だって。





光翔くんが、ずっと
好きだったんだから。





でも、口はぱくぱく開いたり
閉まったりしか
できなくて、





もどかしいくらい
声が出ない。





歌えばきっと
伝えられる、





でも。





今は歌じゃなくて、
ちゃんと。





今度は、声で、
伝えたい。







私は息を
深く吸った。





「・・・私も!」





驚いた光翔くんに
ぎゅっと抱きついた。





「光翔くんが、好き!」





光翔くんの持つ、
私の作ったチョコの
甘い香りが
微かに鼻をくすぐって、





それから。





・・・大好きなその手が、





私をぎゅっと
抱きしめ返した。







*end*

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