サッカーボール
作者:ハーマイオニー
彼と私は会ったことがない。
てか、会えないんだもん。
だけど、私と彼は繋がっている。
私達をつなげているもの。
それは・・・
サッカーボール
*・*・*・*・*・*・*・*・*
カナミです!
ニコ中の2年生。
私、サッカー部の
マネージャーをしてます。
「蒸しあつー」
秋って、
へんな季節だなぁ。
........*
ある日、鍵当番だった私は
最後まで残って
部室を閉めようと思って・・・
「あれ?」
ボールは、30個。
そう、決まっている。
グラウンドを回って
ボールを回収して数えるの。
いつもの通り、
数えてたんだけど・・・
「27、28、29、
30・・・31?」
31個あったのです。
絶対に数え間違いだ、と思って
何度も、何度も数えましたが
明らかに31個だった。
「なんで?」
ってか、なんか
デザインが違う?
個人のもの?
練習試合などで
この学校のグラウンドを
使ったのであれば
他の学校のが
紛れ込んでるかもしれない。
だけど、この3ヶ月ほどは
そんなことはなかった。
「おっかしーなー」
とりあえず、
元あった場所に
置いとくか・・・
その場所は、
グラウンドに面している
大きな桜の木の前。
今は枯れてるけど、
春になったらすごいんだよ。
そのサッカーボールは、
周りに見えないように?
かはわかんないけど、
隠されているような
感じだった。
明日、また見てみよう・・・
*・*・*・*・*・*・*・*
「カナミー?
ぼーっとしてるよ!」
「へ? あっ、ごめん」
「どうしたの?
なんかあった?」
「マホー、
うぅん、大丈夫だよ」
「んー」
マホは、私の親友で
同じマネージャー。
そう。
私は、サッカーボールのことを
考えていた。
誰のボールなのかな。
*........
今日はホントはマホが
当番だったんだけど、
マホに代わってもらった。
あのサッカーボール、
なんか気になるんだよね・・・
「あ、あったあった」
昨日は、よく
見なかったんだけど・・・
「あ!」
なんと、名前が
書いてあったのだ。
「JUNYA・・・ジュンヤ?」
ジュンヤ・・・なんて人、
ニコ中にいたっけ?
うーん
なんとかしてその人に
返してあげたいなぁ。
よし!
........*
「あ、あるある!」
次の日も別の子に
代わってもらって、
桜の木の下に行った。
そこにあったのは手紙。
― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
すみません。
このボールは僕のです。
とある事情があって、ここに置いています。
どうか、取らないでください。
でも、同じ場所に置いてくれるなら
メッセージ交換しませんか?
サッカーボールに書いていいんで君のこと教えて?
色々聞きたいことがあるから。
手紙、書いてくれてありがとう。
僕の名前は、渡江ジュンヤです。
― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
・・・ジュンヤくん、か。
そう。
私は、彼に手紙を書いていた。
*・。+ *・。+ *・。+ *・。+ *・。+
このボールの持ち主さんへ
このボール、持って帰ってください。
どうすればいいか、わかりません。
私は、この学校のサッカーマネです。
どうか、返事をください
*・。+ *・。+ *・。+ *・。+ *・。+
って。
まさか、返事くれるなんて
思ってなかった。
てか、サッカーボールに
私のことを書けって?
・・・なんだか怖いなぁ。
でも、なんかわかんないけど
ジュンヤくんのことが信じれる。
「よしっ」
ふぅー
サッカーボールのあった場所に
印をつけて
そーっと持ち上げて端っこに、
小さく、こう書いた。
― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
私は、小林カナミです。
中学2年生です。
ジュンヤさんは、何年生なんですか?
どうしてサッカーボールを置いてるんですか?
一度でいいので、会えませんか?
― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
「よしっ」
*。・ 次の日 ・。*
また、小さく
書き込まれてた。
手紙と同じ、
ぶっきらぼうな字で。
― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
なんだ、同じやん!
俺も中2!
サッカーボールを置いてるわけは・・・言えん。
ごめん、ある人との約束やけん。
あ、俺、元々福岡におったけん、博多弁なんよ。
で、ごめん。
会えん。
― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
「んーっ」
会えん、か。
・・・なんか、寂しいなぁ。
てか、同い年なんだ!
少ししずつ、距離を縮めて
聞き出そう!
*........
それから、私とジュンヤは
色々聞きあって。
もう、サッカー部ボールが
黒く染まり始めてた。
メッセージを書きあい始めて
もう6カ月。
3月になっていた。
私は、ジュンヤとのやりとりが
楽しくなってて、
休みの日も
桜の木に来ていた。
ジュンヤのことが、
たくさん知れた。
ジュンヤは、
ニコ中の隣町の学校
ニコ学園生。
2年生で、
サッカー部の新部長。
ポジションは、
フォワード。
これを書いてるのは
私が帰った後。
だから・・・
6時よりは後。
どうして置いてるのかは
教えてくれない。
どうしても会いたくて。
会えないの? と書いた。
すると・・・
この桜の木が
満開になったら会えるよ。
と、来た。
「なんで・・・」
桜の木が
関係してるってこと?
んー。
よくわかんないや。
でも、今の私には桜の木が
満開になるのを待つことしか
できなかった。
ジュンヤ・・・
会いたいな。
もう、自分でもわかる。
私、ジュンヤのこと好きなんだ。
会ったことも、
話したこともない人に
恋してるんだ。
そんな自分にちょっぴり
恥ずかしくなったけど、
なんだか誇らしかった。
そして、書いたんだ。
― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
私ね、ジュンヤのこと好きです。
どうしても、会いたいよー!
― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
でも・・・
返事は来なかった。
いくら待っても来なかった。
「なんで・・・」
前までは返事は、
毎日来てた。
来なくなって、
もう3週間。
耐えられなくて、
私はマホに話した。
サッカーボールのこと、
ジュンヤのこと。
ぜんぶ。
そして、サッカーボールも
見せた。
しばらく話して、
マホの様子が
おかしくなった。
なんだか、
焦ってるような、、、、?
「マホ?」
「・・・カナミ、その人と
メッセージ書き合うの
やめなよ」
「へ?」
「あ、危ない・・・よ」
「なんで? どこが?」
「いや・・・、その」
「・・・マホ?
なんか、隠してる?」
「えっ! あっ、ん?
何が?」
明らかに、変だよ。
「ジュンヤくんのこと、
知ってた・・・とか?」
冗談で言った。
なんだか重い空気に
なってたから。
少しでも笑って欲しくて。
なのに、マホから出た言葉は
「・・・うん」
だった。
「うっ、嘘・・・でしょ?」
「私とジュンヤは
幼なじみなの・・・」
マホは、過去について
語り始めた。
それは、私が聞きたくない
過去だった。
*・*・*・*・*・*・*・*・*
マホとジュンヤは
公園で知り合った。
お互い、ひとりぼっちで
一緒に遊んだとか。
小学校の3年生の時。
ジュンヤが隣町に
引っ越すことが決まった。
マホは、
「私はニコ中に行く。
だけど、ジュンヤは
ニコ学園でしょ?」
と言ったらしい。
そして、約束をした。
マホが行く予定の
中学の桜の木の下に
2人の思い出を埋めよう。
その目印にサッカーボールを
上からおこう。
中3になったら、
メッセージを書きあおう。
*・*・*・*・*・*・*・*・*
「そう・・・だったんだ」
コクン
マホは頷いた。
「ジュンヤ、
驚いただろうな」
「だよね」
私は、力ない声で答えた。
マホは・・・
ジュンヤのことが
好きなのかな。
「マホ・・・あのっ、
ジュンヤのこと、」
「私は」
マホが、少し大きな声で
言った。
「ジュンヤが好き」
!!!
やっぱり・・・
「カナミも
そうなんでしょ?」
・・・
「うん・・・」
「ジュンヤは、
もうすぐ会えるよ」
「へ?」
そういえば、
桜が満開になったらって。
もう、桜は咲いていて
満開まであと少しだった。
「カナミは、
自分の気持ちを伝えなよ」
「マホ・・・は?」
「私は、一緒に思い出を掘る。
それだけで十分だし・・・」
「だし?」
「サッカーボール見て、
わかっちゃったんだ」
?
「ジュンヤの気持ち」
「え?」
「ジュンヤが、人のこと
知りたいなんておかしいよ。
それから、自分のことも
そんなに話すなんて。
私の知らないこともたくさんあった」
「マホ・・・」
「ジュンヤも、カナミと
同じ気持ちなんじゃない?」
うそっ・・・
本当に?
本当なの?
ジュンヤの口から
真実が聞きたいよっ・・・
ジュンヤ・・・
*・*・*・*・*・*・*・*・*
「あ・・・満開だ」
桜の木が、満開になった。
午前8時。
私は、グランドの
桜の木の下にやってきた。
これが、満開だって
わかるくらい綺麗だ。
今日は、部活が休みの日。
桜の木の下で、待ってる。
あの日から、返事は
1回も来てない。
でも、ジュンヤを、
信じてる。
「ジュンヤ・・・
お願い、来て」
文字で真っ黒に
埋め尽くされた
サッカーボール。
これ見てたら、
思い出が溢れてくるよ。
「ん?」
なんか、見覚えのない、
文章がある。
昨日はなかった、文が。
「やだっ」
ジュンヤだった。
7ヶ月越しの、返事だった。
― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
カナミへ
見てくれるか、わかんないけど。
まず、謝ります。
7ヶ月も返事しなくてごめん。
俺、なんて返事すればいいかわかんなかった。
カナミは、まっすぐで、純粋で。
会ったこともない人なのに、信じることができた。
なんでだろう。
なんか、安心できた。
もう、全部話すわ。
俺には幼なじみがいて、名前はマホ。
カナミと同じ学校だ。
そいつと約束した。
サッカーボールの下には、
俺とマホの思い出が埋まってる。
小さい頃の、思い出だ。
まぁ、写真とか?
それの、目印がサッカーボールで。
見つからないようにしてたんだけど
カナミに見つかっちまった!(笑)
正直、焦ったけど、カナミのこと信じて
正解だったな!
メッセージの書きあいがマジで楽しかった。
いつしか、俺の楽しみになってた。
そして・・・
俺の頭ん中がカナミのことでいっぱいになってた。
感謝してる。
そして・・・
俺の気持ちも、もう言うわ。
カナミが好きです。
満開になるな、もう。
俺、行くから。
待っててくれ。
― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
最後の方は、
声に出して読んでた。
大好きな人の、想い。
大好きな人の、気持ち。
「ジュンヤぁ」
嬉しくて、嬉しくて、
たまんないよ。
早く、君に会いたいよ。
いくらでも、待つよ。
........*
午前11時を回った。
桜が風に吹かれて
舞っている。
座り込んだ。
サッカーボールを抱えて。
「来て・・・!」
・・・
「カナミ」
!!!!!!!!
やっと・・・聞けた。
大好きな人の声が。
「ジュンヤ!」
*end*
小林 花南
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