料理も恋も塩味で
作者:リヴ
女子はこわい。
俺は姉が2人、
妹が1人いるせいか、
女子の本性を見抜く力だけは
自信がある。
「小原くんておもしろーい」
あーあいつは、見た目は
可愛いほうだし、
モテるけど、
自分が可愛いって
気づいているし、
裏ですげえ悪口言うタイプ。
「男子って
ほんとバカだよね」
あいつはまじめで
クールな女気取ってるけど、
かまってちゃんだし、
結構ドМ。
あーあ。
なんでほかの男子は
女子の本性を
見抜けないんだろうか。
アム「あーっ、懸樋くん!
放課後、ヒマー?」
げっ。でた。
深尾アム。
男女モテるタイプだけど、
俺にとっては
メスライオンだ。
なぜか俺に
気があるらしく、
最近よくからんでくる。
オオゾラ「ごめん。
用事あるから」
できるだけ
そっけなくしてるけど、
そんなことで
メスライオンはめげない。
アム「そっかあ。
じゃ、また今度ね!
ぜえったいだから、ね?」
語尾にハートマークが
100個ぐらいついてる、
甘~いセリフを残して、
深尾は女子のグループへ
戻っていった。
はあ。
マジめんどい。
家帰ろ。
ああ、ダリぃ。
オオゾラ「ただいま」
ミア「あ。オオゾラ~、
あたしのヘアブラシ
知らなーい?」
あれは長女のミア。
高校1年生。
外面はクール、
辛口とドSキャラだけど、
家ではこの通り、
甘えん坊な柴犬みたいだ。
リン「オオゾラ、
わたしのタオル、どこ?」
これは次女のリン。
中学2年生。
外ではおっとり
ふわふわ系女子で
モテモテだけど、
家では毒舌だし
脱力キャラだ。
オオゾラ「おにーちゃあん!
この問題わかんなーい!」
あれは末っ子のワカナ。
小学6年生。
こいつは家でも外でも
うるさいけれど、
家の中ではまさに猿。
テレビを大音量で
流すよりもうるさい。
こうも女子は
裏と表が違うのか。
この癖の強い姉妹がいれば、
洞察力もみがかれる。
俺の家は母子家庭で、
母さんは仕事ばかりで
家にいない。
だから一応、家事は
分担しているけれど、
だいたいは俺がやってる。
掃除はミアに
やらせればザツだし、
リンはもともとやる気がないし、
ワカナにやらせれば
ギャーギャーうるさい。
料理に関しては、
俺がやらないと
ちゃんとしたメシが食えない。
ワカナ「おにいちゃん、
今日のご飯なにー?」
オオゾラ「ハンバーグとサラダ、
あと温野菜スープ」
ミア「あたし、手伝おうか?」
オオゾラ「やめろ。
ちゃんとしたメシが
食いたい」
ミア「なによぅ」
リン「またハンバーグ?
わたし小さいのでいいから」
ワカナ「リン姉、
またダイエット?」
リン「まあ。彼氏に
嫌われても困るし」
ミア「えっ、リン、
彼氏いんの?」
ワカナ「ええっ、マジ?
リン姉、やるぅ」
ミア「誰ー?
写真見せて」
リン「見せるわけないでしょ。
あ、彼氏からLINEきた。
てことで、
ご飯できたら呼んで」
リンが2階の自室へ
消えていく。
ワカナ「えーっ、聞かせてー!」
ワカナがどたばたと
それを追いかける。
そのワカナを
ミアが追いかける。
・・・やっと静かになった。
俺はそっと
ため息をついた。
我が家の朝は
もっと大変だ。
ミア「オオゾラ!
あーん、前髪がヘンー」
リン「オオゾラ、
わたしのお弁当どこ!?」
ワカナ「おにいちゃーん、
宿題のプリント
なくしたーっ」
家を壊す気かと思うほど、
どたばたギャーギャー
さわがしい。
オオゾラ「ミア、
前髪を1回濡らして、
ドライヤーでゆっくり乾かせ。
あせるなよ」
オオゾラ「リン、
弁当は机の上。
ピンクの包みのやつ」
オオゾラ「ワカナ、
昨日用意しなかったのか?
リビングの机探してみろ。
そこで見たぞ」
食器を洗ったり、
洗濯機を回したりしながら、
俺は同時に口も
動かさないといけない。
姉妹「いってきまーす!」
はあ。
やっと行った。
俺は洗濯物を干して、
戸締りをして、
学校へ向かう。
まだ朝だというのに、
疲労感がハンパない。
今日は席替えがあった。
隣は野崎ナナ。
ほんわかしていて、
まさに女の子って
感じのやつだ。
ナナ「懸樋くん、
よろしくね!
わたし、お姉ちゃんの
リン先輩に
お世話になってるんだ」
オオゾラ「あ、ああ」
うわー、リンが先輩。
猫かぶってんだろうなあ。
席替えして1週間。
野崎は不思議なやつだ。
裏の顔が
まったく見えない。
天才的な
ポーカーフェイス。
なんなんだ、
あいつ・・・
ミア「オーゾラっ、お鍋
吹きこぼれちゃってるよー?」
考えごとをしていると、
ミアのキャンキャンとした悲鳴が
家中に響いた。
オオゾラ「あっ、やべ」
どたばたと階段を
駆け下りてくる音。
ワカナ「おにいちゃーん、
あたしのクローゼットの中に
ミア姉の服入ってたよ?」
オオゾラ「あ、ごめん」
リン「めずらしい。
普段はそんな
ヘマしないのに」
オオゾラ「・・・俺も人間だからな。
失敗もする」
晩ご飯が完成。
今日は魚のナムルと、
ニンジンのソテー、
ポテトサラダだ。
全員「いただきまーす」
姉妹「げっ、マズ!」
あ、ニンジンのソテー、
間違えて
砂糖入れちゃってる。
これはマズい・・・
ミア「ちょっ、これ、
何!?
あたしの料理と
同レベルじゃん」
リン「あんた、
記憶喪失でもなったの?」
ワカナ「舌引っこ抜きたーい」
オオゾラ「悪い。しくじった」
いつもはこんなミス
しないのに。
なんか、俺、変だ。
ミア「・・・なんか、
あったの?」
オオゾラ「あ?
何もねーけど」
リン「嘘つき。
何かあるでしょ。
あんた、いつも
こんなミスしないもん」
ワカナ「そーだよ。
おにいちゃん、変。
まさか、恋わずらい?」
オオゾラ「何バカなこと
言ってんだよ」
ミア「あー。なるほど。
ワカナ、するどい!
恋かあ」
リン「へえ。
塩対応ツンツン男子の
オオゾラが、
恋をしたってわけか」
オオゾラ「バカじゃねえの。
勝手に決めつけんな。
たまたまだし」
ミア「ほーら。
ムキになるなんて
らしくなーい。
絶対恋だよ?」
ワカナ「誰、誰?」
オオゾラ「いねーし」
リン「深尾アム、とか?」
オオゾラ「は?
なんであいつが
出てくるんだよ?」
むしろ苦手というか・・・
リン「お願いされちゃって。
あたしは懸樋くんが好きなので、
リン先輩協力してください! って」
マジか。
あいつ、
本気なのか?
俺のどこがそんなに
いいんだ?
ミア「えー。
オオゾラってモテるの?
どこがそんなにいいんだろね」
ワカナ「けど、あたしやだ。
おにいちゃんに
彼女ができるの」
リン「え。ワカナ?」
ワカナ「だって、
彼女ができたら、
彼女のことが
1番になっちゃうもん。
あたし、おにいちゃんの
ご飯食べたい」
ミア「あたしもー。
オオゾラに彼女が
できてほしいけど、
やっぱオオゾラのご飯が
1番おいしいし」
オオゾラ「彼女なんて、
できるわけないだろ」
そう言ったとき、一瞬、
野崎の無邪気な笑顔が
頭に浮かんだ。
*・*・・・*・・・*・*
学校の昼休み。
俺が弁当箱を開けると、
隣の野崎が
わあっと声をあげた。
ナナ「おいしそーっ。
お母さん、
料理上手なんだね!」
オオゾラ「いや。下手だよ。
これ、俺が作ったし」
ナナ「えっ、懸樋くんが!
すっごーい!
もっと見せて」
目をきらきらさせて、
弁当をながめている。
なんか、
可愛い、かも。
オオゾラ「・・・1つだけ、やる」
ナナ「え! いいの?」
オオゾラ「ああ」
ナナ「じゃ、
いただきます!」
野崎は玉子焼きを
ぱくっとほおばる。
目を見開いて、
幸せそうに笑った。
ナナ「おいひ~」
オオゾラ「おおげさだな」
ナナ「おおげさなんかじゃないよ。
おいしいよ。
私も料理好きなんだけど、
懸樋くんのほうが上手だね」
オオゾラ「料理好きなの?」
ナナ「うん。
このお弁当も、
実は私の手作り」
オオゾラ「うまそうじゃん」
ナナ「ほんと?
ありがとう」
その俺たちの姿を、
陰でリンが見ていたことを
まだ俺は知らない。
*・*・・・*・・・*・*
買い物をしてから
帰ろうと思い、
近くのスーパーに行った。
その帰り道のこと。
ナナ「あ、懸樋くん!」
オオゾラ「あ」
ナナ「お買い物?」
オオゾラ「うん」
ナナ「あの、ね」
オオゾラ「何?」
ナナ「これ、
受け取ってくれる?」
差し出されたのは、
玉子焼きが入ったタッパー。
野崎は真っ赤に
なっている。
ナナ「こ、この前のお礼。
・・・あと、これと一緒に、
私の気持ちも
受け取ってくれるかな?」
オオゾラ「えっ、気持ち?」
ナナ「わ、わたし、
懸樋くんのことが、
す、す、」
オオゾラ「野崎、俺も好き」
ナナ「えっ」
オオゾラ「うん。
あと、玉子焼き
ありがとう。
両方、受け取る」
ナナ「うん!
ありがとう」
俺とナナは
付き合っている。
ナナは
よく家に来る。
三姉妹とも仲がいいし、
よく一緒に料理を作る。
ナナのすごいところは、
あいつらの本性を知っても、
まったく気にしなかったこと。
ほんと、ナナは
すごいやつだ。
実はあの日、ナナと
偶然出会ったのは、
リンが仕組んだことらしい。
リン「あたしが
恋のキューピットよ。
なんて優しいお姉様。
感謝しなさい」
そう言われた。
前から、料理は
嫌いじゃなかった。
けど、
今はもっと好き。
ナナがいるからかな。
*end*
懸樋 大晴空
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