秘密基地の空へこの誓いを

CAST丸田 怜音丸田 怜音

作者:rina

新二コラ学園恋物語新二コラ学園恋物語2019.03.01

青空が広がる屋上は





僕、丸田怜音の
お気に入りの場所。





こんなに最高の場所を





なかなか
生徒は知らなくて





まるで秘密基地のよう。







話しベタだからか
クラスで浮いてる僕にとって





屋上は唯一の居場所だった。







(うん、今日も気持ちいい)





金曜日の放課後
屋上に寝転がりながら





いつものように
読書をしていた。





穏やかな風が
静かに僕を包み込む。





(なんか眠いかも・・・)





瞼が重くなった時だった。





バタンッ





ドアが開く音と
すすり泣く声が聞こえた。





(・・・誰か来た?)





入学してすぐ
この場所を見つけてから





ここに来た人を
見かけたことはなかった。





だからこんな状況を
見逃す訳にはいかなくて





僕は恐る恐る
その”誰か”の姿を探した。





(あれ、女子・・・?)





ちょうど日陰の場所で
座り込んで
泣いている女の子





その横顔に
見覚えがあった。





(確かクラスメートの)





すると女の子は
僕に気づいて
涙を拭った。





杏「ま、丸田くん・・・っ」





怜「やっぱり白井さんか」





“白井さん”というのは
白井杏奈のこと。





1年の時からずっと
同じクラスだったけど
一度も話したことはなかった。





(それもそのはず)





静かな僕とは反対に
彼女はいつも明るくて
常にクラスの中心だった。





(これからも
絶対関わることは
ないんだろうなと思ってたけど・・・)





杏「ごめんね、
こんなとこ
見せちゃって・・・」





そう謝る彼女の目は
まだ赤いまま。





怜「いや、
こっちこそごめん。
泣いてる所邪魔して。
良かったらっていうか・・・
僕、あっちにいるから
全然泣いていいよ」





杏「ううん・・・いいの。
泣いてるばっかじゃダメなの、
分かってるからさアハハ」





「そっか」





(何があったんだろう)





いつも常に笑ってる彼女が
あんなにも泣いていたのに





1ミリも親しくない僕には
その理由が聞けなくて。





杏「そういえば、
丸田くんはどうして
屋上にいるの?」





怜「・・・屋上は僕にとって
お気に入りの場所なんだ。
ここにいると
心が安らぐっていうか・・・
とにかく素敵な所だよ、屋上は」





杏「それっていいね。
あたしも・・・
しばらく仲間に入れて
もらっていいかな?
嫌なこともここでなら
忘れられそうな気がする」





嫌なこと?





それって涙の理由?





(いや、そんなの
どうだっていいんだ)





僕の秘密基地で
誰かが元気になるならば







あれから
朝もお昼休みも放課後も
屋上には白井さんがいた。





ここにいると言っても





話したり
話さなかったりで





お互いが
好きな時間を過ごす。





ずっと1人だった僕は
その、たまに話す時間が
新鮮に感じて嬉しくて。





気づけば、





ほんとに気づいたら、







彼女に恋をしていたんだ。













・。・。・。・。・。・。・。・。





杏「丸田くん! ほら見て」





怜「・・・・なにこれ?」





杏「お守りだよっ!
ほら、あたし達もうすぐ
受験シーズンでしょ?」





あれから数ヶ月経った頃





彼女が差し出したのは
小さなマスコットだった。





人形の服には怜音と
丁寧に刺繍されている。





怜「これ白井さんが作ったの?」





杏「うん!
お互いがんばろーね!
志望校合格目指して!」





彼女はそう言って
はにかむ。





(そっかあ、
もう卒業なんだ)





この学校を卒業すれば





こうやって
屋上で2人で話すことも





もうなくなってしまうんだ。





怜「・・・ありがとう」













・。・。・。・。・。・。・。・。





それからというもの
僕らは受験勉強ばかりで





ずっと屋上には
行けなかった。





(クラスじゃ、
白井さんとは
全然話さないんだよなあ)





人気者の彼女は
暇さえあれば話しかけられ





僕が入る余裕なんて
ほんの少しだってなかった。





(まあ・・・
僕が話しかけちゃ
怪しまれるだろうけど)





彼女が屋上に
来てくれたから





僕は話すことが
出来たのに





屋上以外じゃ
話しかけられないなんて





こんなんじゃ
告白なんて
到底無理だろうなあ。







すると、





「そういえばさあ、
杏奈って
もう吹っ切れたのかなあ?」





彼女がいない教室で
いきなり女子が話し始めた。





(声でかすぎ・・・)





嫌でも僕の耳に
入ってしまう。





それが彼女の話なら
尚更。





「なにそれ~」





「ほら、半年前に
杏奈と唯和が別れたじゃん!
杏奈ずっと唯和のこと
引きずってたからさあ~
今はどうなのかなって」





「ああ・・・うちらには
元気そうにしてたけど、
唯和の姿を見る度に
動揺してたもんね」





「今はどうか知らないけど、
なかなか聞けないじゃん!
別れた彼氏のことなんてさあ」





聞きたくないことを
聞いてしまった。





そして
僕は悟ったんだ。





あの時の涙の訳を。







あんなにも
大好きだった場所なのに





彼女に会うのが怖くて





僕はあれから
結局一度も行けなかった。





(会えばもっと辛くなるだけ)





叶うことのないこの恋を
必死で諦めようとした。





でも彼女から離れる度に
ますます想いは強くなって





気を紛らわしてくれるのは
虚しくも受験勉強だった。







おかげで僕は
志望校に見事合格し





そして今日、
卒業式を迎えた。





「離れても元気でいろよ!」





「メール忘れないから!」





式が終わり、
教室ではクラスメイト達が
口々に別れの言葉を伝え合う。





そんな相手もいない僕は
なんだかいたたまれなくて





思わずあの癒やしの場所へと
久しぶりに足を運んだ。





(結局あれから一度も行けずに、
今日が最後になっちゃったな)





僕は臆病だった。





今までずっと
自分に自信が持てなくて





こんなんじゃ
誰にも相手にされない、と





勝手に決めつけていたんだ。





本気で好きなら
彼女の気持ちがどうであれ





想いを伝えるべき
だったのに。





(情けないなあ、本当に)





少し呆れた気持ちで
屋上の重い扉を開けると





その先には
見慣れたあの姿があった。





杏「やっと、
ここで会えた」





そう言って彼女は笑う。





怜「やっと・・・?」





杏「あたし、
毎日ここ来てたんだ。
でも・・・丸田くん
来なくなったでしょ?
だから嫌われちゃったのかと思って」





怜「違うよ・・・
そんなことないよ」





僕が屋上へ来ないこと





しばらく来れば
そんなの分かったはずだ。





それなのに
君はどうしてここに?





杏「それなら良かった。
このまま丸田くんと
話せないまま別れるのは
つらかったから・・・さ
本当嬉しい」





少し涙を浮かべて
僕を優しく見つめる彼女。





もうこんな時間は
2度とないと思ったら
どうにもやりきれなくて







すると
3年間使うことのなかった
ホコリまみれの勇気が





小さな僕の背中を
ゆっくりと押してくれた。





怜「・・・・白井さん、
何も言わずに聞いて欲しい」





答えなんていらない。





君がどう思ってるかなんて
とっくに分かってるから。





思えば僕と君は
奇妙な関係だったんだ。





クラスで浮いている僕と
クラスで人気者の君





仲良くなるはずのなかった
そんな僕達が





こうして向かい合って
話すようになって





それはまるで夢のようで





(・・・そうだ、夢なんだ)





今日は卒業式





そんな夢もすぐに覚める。





だけどどうか覚める前に
この想いを





怜「えっと・・・・
白井さんのことが好きです。
こんな僕が君みたいな人を
好きになるなんて、
本当に本当にどうかしてるんだけど・・・
それでも伝えたかったんだ。
ごめん、いきなり」





なんてシンプルな告白





だって
理由なんかないんだ、





とにかく君が”好き”だから





“好き”だけじゃ、
この想いは伝わらない?





杏「あたし・・・」





怜「答えはいらないよ。
もう、いいんだ。
気まずくなる前にさよならしよう」





彼女は何か言いたげだけど





ごめん、もう聞けない。





お別れするのも
とても悲しいことなのに





ふられるだなんて





悲しみが倍増するだけだよ。





杏「じゃあ・・・
答えは言わないから、
あたしの話を聞いて」





怜「え?」





杏「あたしは丸田くんのことが好き。
だからこのままさよならだなんて、
絶対に考えたくないの。
・・・卒業しても、
あたしの傍にいてくれませんか?」





彼女の小さな肩は
震えていた。





そして涙が零れ落ちる。





怜「白井さんは小原くんが
好きなんじゃ・・・」





杏「違う! ・・・違うの!
丸田くんが・・・
丸田くんがいてくれたから
悲しい気持ちもなくなったの。
毎日が楽しいと思えたの。
・・・あたしが好きなのは
唯和じゃないよ、
丸田くんなんだよ・・・」





彼女はまるで
小さい子どものように





僕の目の前で
泣きじゃくった。





それはそれは





どうか信じて欲しい、と
言わんばかりに





怜「分かった・・・
分かったよ。
ありがとう、
僕を好きになってくれて」





(夢じゃないんだ、
こんな僕を好きになって
くれるなんて)





そんな大粒の涙を見れば
疑うなんて出来ないよ。





怜「これ、使って」





僕はハンカチを渡した。





杏「・・・・ありがとう」





彼女は涙を拭うと
僕に優しく笑いかける。





杏「ずっと
叶えたかったことがあるの。
3つあるんだけど、
聞いてくれる・・・?」





怜「もちろん」





大好きな君の為なら
なんだって叶えてやる。





こんなにも





人の為に役にたちたい、と
そう思ったのは
初めてなんだ。





杏「1つ目は・・・
丸田くんの第2ボタンが欲しい。
この、心臓に1番近いボタン。
大好きな人に貰うのが
ずっと夢だったから」





彼女が指さすのは





学ランの上から2つ目の
校章の描かれたボタン。





まさか僕のボタンを
貰ってくれる人がいるなんて





去年の今頃は
絶対に考えなかったことだ。





怜「はい、
第2ボタン」





ボタンをちぎり
小さな手の平に乗せる。





杏「わあっ!
ありがとう・・・!
嬉しい・・・
本当嬉しい!」





満面の笑みを浮かべながら
ボタンをギュッと
握りしめる。





(たったボタン1つで
笑顔にするなんて・・・
なんて威力なんだろう)





そう微笑ましく思うと





彼女は僕に一歩
近づいてきた。





怜「白井さん?」





杏「ほら、また言った」





怜「え?」





杏「白井さんじゃない・・・
特別な人には杏奈って、
名前で呼んで欲しいの。
これが2つ目のお願い」





(そっか・・・思えば)





あんなに親しくなったのに
“白井さん”
“丸田くん”だなんて





呼び名だけは
他人のようだった。





怜「あ・・・んな」





今更なもんだから





なんだかすごく照れくさい。





名前を呼ぶ声も
たどたどしくなってしまう。





(カッコ悪いよなあ)





杏「ふふっ、照れるなあ
あたしも名前で呼んでいい?
丸田くんだなんて
遠い存在みたい」





僕が頷くと
彼女もまた照れながら





杏「・・・・れおん」





そう小さく名前を呼んだ。





“怜音”だなんて





家族にしか
呼ばれないのに





女の子に・・・





しかも大好きな子に・・・





(なんだかまた距離が
縮まったような気がする)







僕らは両想いのはず





・・・なんだけど





あんなにも
離れた時間があったから





どんな風に毎日を一緒に
過ごしていたか





そんな時間を取り戻すには
やっぱり少しぎこちなくて





怜「3つ目のお願いは?」





杏「あたしを・・・
あたしを好きでいてくれるって
約束して欲しいの」





怜「え?」





彼女の身体は震えている。





顔も少し強張って





まるで不安があるように





杏「あたし怜音のこと、
大好きだから。
高校離れるだけで寂しいんだ。
・・・ごめんね、
こんなこと言って」





なんて小さなワガママ。





謝ることないじゃないか。





だってそれが僕への
気持ちの大きさなんでしょう?





(もうお願いでもなんでもない、
言われなくてもそのつもりだ)





怜「・・・・ずっとずっと
好きに決まってるだろ。
言っておくけどね、
きっと杏奈より僕の気持ちの方が
大きいから。
だから安心してよ」





そうゆっくり伝えると
彼女は僕の胸に飛び込んだ。





ギュッ・・・





杏「ありがとう・・・大好き!」





その背中に
そっと手を添える。





(よし、決めた)





この屋上に広がる
綺麗な青空に誓います。





いつも明るくて賑やかで





でも本当は寂しがり屋な





こんなにも愛しい女の子を







世界中の誰よりも





大切にすることを―――







*END*

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