初デートは水族館
作者:rina
『うわ~?!
見て見て怜音っ!』
隣に座ってる彼女の杏奈に
肩をちょんちょんと
突つかれる。
「んー? どれどれ?」
自分が読んでいた本のページに
しおりを挟んでソファに置き、
杏奈が指差す先に目を向けた。
「・・・水族館?」
『そう!
新しくできたんだって~?!』
杏奈が見つけたのは
最近オープンしたばかりの
大型の水族館。
ショッピングモールも
隣接していて
大人も子供もみんなが楽しめる、
今大人気の観光スポットらしい。
「へえ?
こんなのが出来たんだね、
知らなかった」
『楽しそう。
いいな! いいな!』
“いいな”と言いながら
僕をチラ見してくる。
・・・・うん、
行きたいんだね。
「ここ、行きたい?」
『え! 行きたい行きたい!
怜音連れて行ってくれるの?』
「うん、いいよ。
今度の日曜日
一緒に行こうか。
初デート」
『初デート・・・・』
「僕たちまだ
行ってなかったでしょ?
それに、初デートは
杏奈の行きたいところって
思ってたから」
『怜音・・・
わーん、嬉しい!』
目をキラキラさせて
大喜び。
こういう所が可愛くて
そんな姿を見て
こっちまで笑顔になる。
・゜°・。・:・・゜°・。・:・゜°・・・:・・
そして日曜日。
「遅いな・・・・
大丈夫かな」
腕時計を見ると
待ち合わせの時間を
30分過ぎていた。
寝坊・・・?
道に迷った・・・?
うーん・・・
とりあえず探しに行こう、
と思った瞬間に
後ろの人と
ぶつかってしまった。
『わっ! ごめんなさ・・・』
「あ、すいませ・・・」
互いに謝ろうと
顔を見合わせると。
「杏奈?!」
『あー! 怜音!
やっと見つけた・・・
人が多くて分からなかった・・・・
遅れてごめんなさい・・・』
「大丈夫だけど・・・」
目の前に現れた
杏奈を見て
顔を少し背ける。
『怜音?
怒ってる・・・?』
「怒ってはないよ。
ただその、服と髪・・・」
『・・・・?? あ、変だよね!
デートだって言ったら
お母さんが張り切っちゃって・・・
やっぱり似合わないよね、
こんな大人っぽいの!』
・・・・そうじゃなくて、
今日の杏奈は
尋常じゃないくらい可愛い、
と言いたい。
ピンクと白のワンピースに
髪はゆるく三つ編で、
普段と雰囲気が違うから
ドキッとして
まともに見れない。
「いや、・・・可愛すぎて
言葉が出なかったんだ、」
『え、あ、ありがと・・・
ございます・・・』
褒める側と褒められる側、
照れくさくて2人して
顔を真っ赤にさせる。
「・・・そろそろ行こっか」
・゜°・。・:・・゜°・。・:・゜°・・・:・・
お互い、デートと
意識してしまって
変にぎこちなくなっていたけど
水族館の中に入ったら。
『イルカさんだ~?!』
『うわあ
サメ大きいね!』
『ペンギンかわいい』
と無邪気にはしゃぐ
杏奈の姿を見たら
自然といつも通り
楽しく過ごせた。
本人は子供ぽいって
思われるのが
あんまり好きじゃない
みたいだけれど
僕はどっちかというと
賑やかな子の方が好きだ。
そして杏奈は落ち込んだ時も、
辛い時も悲しい時も、
いつも隣に居てくれた。
だから。
たとえ僕の行動が
間違っているとしても、
それでも僕は、
彼女じゃないとダメなんだ。
・゜°・。・:・・゜°・。・:・゜°・・・:・・
水族館を出て
隣りのショッピングモールを
ひと通り回り終わる頃には
夕方になっていた。
暗くなると危ないから
杏奈を家まで送ることにした。
帰り道を歩いてる途中、
「杏奈、今日は楽しかった?」
『うん!
すっごく楽しかったよ。
怜音とだったから余計にね』
「・・・杏奈には敵わないな」
『どうして?』
「いつも僕の喜ぶことを
言ってくれるから、かな?」
そう、彼女には敵わない。
なかなか言い出せない
僕とは真逆で、
素直に真っ直ぐに
気持ちをぶつけてくる。
『あたしも怜音には
敵わないよ?』
「え、そう?」
『うん。だって初デートは
あたしの行きたいところって
言ってくれたり、
今だってあたしの歩くペースに
合わせてくれたり。
そういう些細な気遣いが
あたしすっごく嬉しいの。
今日だって1日ドキドキ
止まらなかったんだよ?
大好きな怜音と一緒にいれて』
「杏奈・・・」
僕を見て
ニコッと笑う彼女。
やっぱり
気づいていたんだね。
僕は男だから
女の子には優しくしないとだし、
それが当たり前だから。
それにその相手が杏奈だから、
よりいっそう大切にしたいという
感情が高まる。
『怜音、
送ってくれてありがとう』
「ううん、
僕こそ楽しかった。
あ、そうだこれ」
杏奈の家の前に着くと
ポケットから小さい箱を
取り出し差し出す。
『え・・・これは?』
「開けてみて、」
少し驚いた顔をしながらも
ラッピングのリボンを
ほどいて箱を開ける。
『・・・・わあ、綺麗!』
箱の中から出てきたのは
ピンク色の蝶の飾りが
付いたネックレス。
「初デートの
記念のプレゼント。
気に入ってくれた?」
『うん!!
・・・付けてくれる?』
「もちろん、後ろ向いて」
彼女を後ろに向かせ、
前からネックレスを掛けると
首に回し
チェーンをはめる。
「できた、すごく似合うよ」
『ほんと??
怜音、ありがとう・・・
大事にする』
首元のネックレスを手で包み
今までにないぐらい
嬉しそうにする彼女。
それに
引き寄せられるかのように
僕はそのまま彼女の頬に触れて
顔を上げさせ、
自分の顔を近づけると
『・・・、』
その様子に、
悟ったのかのように
静かに目を閉じた。
「杏奈・・・」
彼女の名前を
一言呼ぶと
ゆっくり
唇と唇を合わせる。
それはとても熱くて甘い
僕と杏奈の初めてのキス。
『怜音・・・』
「・・・ん?」
『・・・、
またデート、しようね?』
「うん、これからも
色んなところに行こうね」
唇を離すと
赤くなった顔を隠すように
ぎゅっと抱きしめ、
お互い特になにも言わず、
その日はさよならをした。
僕達はまだまだ
始まったばかりだ、
そう思いながら
僕は家に向かって
夜道を歩いて帰った。
*end*
丸田 怜音
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