高嶺のカノンちゃん

CAST北川 花音北川 花音

作者:リヴ

新二コラ学園恋物語新二コラ学園恋物語2019.05.02

恋にあこがれない女の子は
いないと思う。





けれど、みんながみんな、
恋を経験できるわけではないのだ・・・





男子A「あっ、
高嶺のカノンちゃんだ」





男子B「今日もかわいいなあ」





男子C「才色兼備って
カノンちゃんとことだよな」





男子D「あこがれるけど、
なんかおそれ多いよな」





男子E「わかるわかる。
高嶺の花だからな」





「高嶺のカノンちゃん」





それが私のあだ名。





かわいいとか、頭いいとか、
運動神経抜群だとか、
そんなことを言われ続けるうちに、
そう呼ばれるようになった。





手が届かない
「高嶺のカノンちゃん」。





手が届かないなんて、
そんなことないのに。





男の子を相手にしないと
思われているけど、
人と話すのが苦手なだけ。





告白しようとしたら
にらまれるというのも、
目つきが悪いだけ。





直そうと
努力はしているのだけど、
なかなか直らない。





女子A「ねー、放課後デートしよー」





男子F「わかった。
どこ行く?」





楽しそうなカップルが、
私の横を通り過ぎる。





私だって、彼氏がほしい。
ムリだけれど。





男の子はみんな、
私のことを
「つり合いがとれない」と言う。





「見るだけでじゅうぶんだ」って。





私だって、
恋してみたいのに・・・





カノン「はあ」





ため息には
もう慣れっこだ。





一生、私は1人ぼっち
なんだろうな。





男子G「あっ、ちょっと危ない!」





カノン「えっ」





何かが飛んでくる。





サッカーボールだって
認識するよりも、
ボールがぶつかるほうが速かった。





カノン「きゃっ」





私は目をとじて、
頭を守った。





・・・あれ、
ボール飛んでこない。





なんで?





こわごわと目を開ければ、
私をかばってくれている
男の子がいた。





・・・同じクラスの
懸樋オオゾラくんだ。





オオゾラ「お前ら、
あぶねーじゃん。
気をつけろよ!」





男子G「わりーな、オオゾラ!
あぁ、あの、北川さん、
ごめんね?」





カノン「あ、いえ」





オオゾラ「あ、大丈夫だったー?」





にこにことした、
人なつっこい笑顔。





私とは正反対な人だな、と
直感的に思った。





カノン「あ、ありがとうございました」





オオゾラ「別に気にしないで~。
高嶺のカノンちゃんを怪我させたら、
俺、ほかの男子に
殺されちゃうじゃん?」





おどけた笑顔を浮かべて、
オオゾラくんは駆け出した。





走る姿はさわやかで、
あっという間に
見えなくなった。





カノン「・・・オオゾラくん、ありがと」





聞こえるはずもないのに、
私はそうつぶやいた。













*。・ 教室 ・。*





先生「英語のテスト返すぞー」





英語は得意科目だ。





案の定、100点満点。





簡単なテストだったはずなのに、
みんなの点はそれほど
良いものではないみたい。





男子A「うっわー。
マジ点やばいんだけど」





女子A「ちょっと懸樋、
それはやばいでしょー」





女子B「えっ、何点!?」





オオゾラ「じゃじゃーんっ、29点!」





男子B「マジかよー」





クラスに笑い声がひびく。





オオゾラくん、人気者だな。





オオゾラくんの周りには
いつも人が集まって、
みんな笑っている。





オオゾラくんには、
人を笑顔にさせる
力があるんだ。





オオゾラ「あーっ、
き・た・が・わ・さーん」





カノン「えっ」





オオゾラ「テストどうだったー?」





カノン「あっと・・・」





私のテストを、ひょいっと
オオゾラくんは取り上げる。





カノン「えっ、あ、ちょっと」





オオゾラ「げげーっ。マジか。
100点!?
やっぱ頭いいんだねー。
今度教えてよ!」





きらきらした笑顔で
私を見つめる。





こんなまっすぐな瞳を
私は知らない。





カノン「・・・私で、よければ」





やっとの思いで
そう答えた。













* ――― * ――― *





放課後、図書室で
懸樋くんと
勉強会の約束をした。





放課後に居残りをするなんて
はじめてで、
どきどきしていた。





懸樋くんは
提出し忘れたプリントを
職員室に届けないといけないそうで、
少し遅れるらしい。





静かな図書室で、
私が数学の参考書を開いた。





??「あの、北川さん」





カノン「はい?」





知らない顔だ。





たぶん、先輩なのだろう。





??「俺、3年の丸田レオン。
ちょっと、
話したいことがあって」





カノン「何か・・・?」





レオン「あのさ、
俺、北川さんのこと、
ずっと好きだったんだ。
北川さんが入学してきた時からずっと」





これが・・・
告白というものなの?





もっとどきどきして、
キュンキュンするものだと
思っていた。





だけど、これは・・・





おどろいたけれど、
キュンキュンしない。





カノン「あ、あの・・・」





レオン「高嶺のカノンちゃんって
呼ばれるようになって、
遠い存在になっちゃって、
話しかけづらかったんだ。
だけど、それじゃ
ダメだって気がついた」





カノン「せ、先輩、あの」





レオン「最後まで言わせて。
俺はカノンちゃんの気持ちを
聞きたいんだ。
みんなに高嶺のカノンちゃんって
ちやほやされても、
誰も本気で告白してくれない。
だって『高嶺の花』だから。
さびしかったんじゃない?」





先輩のその言葉に、
不覚にもドキッとした。





さびしかった。





そう、私はさびしかった。





誰も、私と仲良くしようだなんて
思ってくれない。





「高嶺の花だ」と言って、
相手にされないからって
決めつけて、
敬遠されてばかりだった。





・・・誰も私を
見てくれなかった。





レオン「もう、そんな思い
しなくてもいいんだよ」





あたたかい先輩の言葉。





顔を上げると、
優しい瞳で
私を見つめていた。





この人なのかもしれない。
私をわかってくれる人は。





レオン「高嶺のカノンちゃんじゃなくて、
北川カノンという1人の女の子として、
カノンちゃんを大切するって約束する。
だから・・・
俺と付き合わない?」





カノン「あっ、あの」





レオン「このままだと、
一生恋を知らないままになるよ。
それでいいわけ?」





私は唇を噛んだ。





自分の気持ちが
よくわからない。





自分を信じていいのか、
誰を信じていいのか、
もうさっぱりわからない・・・!





オオゾラ「何してんの、北川さん」





静かな声が響く。





はっとしてふり返ると、
図書室の扉にもたれかかった
オオゾラくんがいた。





カノン「オオゾラくん!」





レオン「・・・ああ、こいつか」





先ほどまでとは打って変わった、
黒い憎々しげな声だった。





驚いてふり返ると、
先輩がオオゾラくんを
怖い顔でにらんでいた。





レオン「カノンちゃんと
仲がいい男子がいるって
聞いたんだよ。
お前のことか?」





オオゾラ「別に誰と仲よくしても
北川さんの
自由じゃないんですか?」





いつもの明るい
オオゾラくんじゃなくて、
落ち着いた大人っぽい
オオゾラくんに、
胸がキュンと鳴いた。





レオン「懸樋オオゾラだよな?
うわさは聞いたことあるけど。
ちょっとモテてるからって
調子乗るんじゃねーよ」





オオゾラ「俺も先輩のうわさは
聞いてますよ。
口がずいぶん達者だそうですね。
女子をたぶらかして、
泣かせてばかりだって」





皮肉っぽく
オオゾラくんは笑った。





口が達者・・・?
女子をたぶらかす・・・?





じゃあ、あの先輩の言葉は、
全部私の関心を引くための、
思ってもいないことばかりだったの?





目を見開いて、
先輩を見つめると、
先輩はバツの悪そうな顔をした。





レオン「まっ、好きなように言えよ。
カノンちゃんは俺のものだしな」





オオゾラ「うっわー。
おもしろい冗談ですね。
北川さんは
だれのものでもないのに」





火花が散っている・・・!





私はふるえた。





2人の間には
冷たい感情しかない。





カノン「・・・もう、」





声がふるえた。





私は椅子から
立ち上がった。





カノン「もう、やめて!」





生まれてはじめて、
こんな大きい声を出した。





2人がおどろいて
私を見つめる。





カノン「もう、やめて。
私は誰のものでもないし、
先輩のものにもなる気はありません。
私のこと、本気で想ってくれる人が
現れなくても、私はもう
そんなことでくじけたりしない!」





みんながみんな
恋をするわけではない。





でも、恋をしないからといって
死ぬわけではないのだ。





カノン「私は私です」





力強くそう言い切ると、
わかりやすく気が抜けた様子の
レオン先輩が
やけくそ気味に叫んだ。





レオン「こんな気が強い女は
いらねーよ」





荒々しく図書室を
飛び出していった先輩を見て、
オオゾラくんは声を上げて笑った。





オオゾラ「わかりやすい
負け犬の遠吠えだったね」





カノン「私のために、
真剣に怒ってくれてありがとう」





私はほほえんだ。





オオゾラくんは
驚いた顔をして、
それから元気いっぱいに笑った。





オオゾラ「なーんだ。
笑えるんじゃん。
絶対にそっちの顔のほうがいいよ」





カノン「えっ、そうですか?」





オオゾラ「うん。かわいい」





顔が熱くなる。





オオゾラ「じゃあ、勉強教えてよー」





何こともなかったようにそう言う
オオゾラくんを見て、
あの「かわいい」に
深い意味はないと
自分を納得させた。













* ――― * ――― *





オオゾラくんと仲良くなって、
かなり時間がたった。





オオゾラくんは
クラスメイトから、
好きな人に変わりつつあった。





そのことに、
今日気がついた。





昼休み、隣のクラスの
ナナちゃんに呼び出された。





かわいらしい見た目の
ナナちゃんは、
男子にとてもモテている。





泣きはらした目で、
ナナちゃんは私にたずねた。





ナナ「ねえ、
北川さんとオオゾラくんは
付き合っているの?」





カノン「え?
な、なぜ?」





ナナ「わたし、ずっと
オオゾラくんが好きだったの。
それで、昨日告白したんだけど、
断られちゃったの・・・
好きな人がいるって。
オオゾラくんと北川さん、
仲がいいみたいだし・・・」





カノン「付き合ってません」





そんなこと、
ありえるはずがないのだから。





ナナ「じゃあ、北川さんは
オオゾラくんのこと、
どう思っているの?」





カノン「えっ」





ナナ「好きなんじゃないの?」





カノン「それは・・・」





この時、私は悟ったのだ。





私は、オオゾラくんのことが
好きなんだ・・・













* ――― * ――― *





図書室で、いつものように
オオゾラくんを待った。





前のテストでは、
平均点より上の点を取れたと
うれしそうに報告してくれた。





その時の笑顔に、
キュンとなった。





オオゾラ「ごっめーん。
遅くなった」





カノン「いえ、気にしないで」





私は微笑んだ。





こうやって
笑顔を見せれるのも、
オオゾラくんだけだ。





そのことに、
オオゾラくんは
気づいているのだろうか。





オオゾラ「ねえ、ここは
どうすればいいわけ?」





カノン「ここはまず
この文に着目して・・・」





オオゾラ「ああ、なるほどねー」





カノン「あの、オオゾラくん」





オオゾラ「うーん?」





カノン「好きな人、
いるんですよね」





オオゾラ「あちゃー。
知られちゃったか」





ズキッとした
胸の痛み。





涙があふれそうになって、
あわてて我慢する。





カノン「それなら、
もうこうやって会うのは
やめにしましょう」





オオゾラ「なんで?」





不思議そうに
たずねてくる。





カノン「だって・・・」





もうこれ以上、
好きになるわけには
いかない。





これ以上一緒にいれば、
あきらめられなくなる。





オオゾラくんへの想いを、
こらえきれなくなってしまう。





カノン「誤解されたら、
どうするんですか」





オオゾラ「誤解? なんで」





カノン「だって、私といたら、
変な誤解をされるかもしれない」





オオゾラ「むしろされたいんだけど」





それってどういう意味?





そんなことをされたら、
その女の子がかわいそうだ。





カノン「それって
ひどいと思います」





オオゾラ「かもねー。
俺ってずるいから」





カノン「とにかく、
もうやめましょう」





オオゾラ「やだ」





カノン「やめましょう!」





オオゾラ「やだ」





もう、なんで素直に
聞いてくれないの?





私の目から
涙が止まることなく
あふれてくる。





オオゾラ「好きな子といる時間、
なくしたいやついる?」





ぼそっとつぶやいた
オオゾラくんの言葉。





・・・今なんて言ったの?





カノン「え」





オオゾラ「あーあ。
泣かないでよ」





苦笑して、
そっと私の涙を
指先で拭きとってくれる。





オオゾラ「ねえ、やだ?
俺と勉強するの」





私は黙って
首を横にふった。





カノン「好きな人と
勉強できるのが、
いやなはずないでしょう」





私がそう言うと、
オオゾラくんは
目を見開いた。





そして、
うれしそうに笑う。





オオゾラ「高嶺のカノンちゃん、
俺と付き合って?」





カノン「はい」





そう答えて、
私は笑った。





カノン「もう、
『高嶺の花』じゃないね」





オオゾラ「うん。
『オオゾラの彼女のカノンちゃん』
だね」







次の日から、私を
『高嶺のカノンちゃん』と
呼ぶ人はいなくなった。





私はオオゾラくんの
彼女なのだから。







*END*

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