3年目の6月 ―僕らと紫陽花―

CAST小原 唯和小原 唯和

作者:コロン

新二コラ学園恋物語新二コラ学園恋物語2020.07.11






僕も彼女も、
花が好きだった。





・*・―――・*・―――・*・





僕(小原ユイト)と
彼女の出会いは、
高校1年の、
6月はじめだった。





入学から2ヶ月がたって、
和気あいあいとしてきたクラスは、
6月末の文化祭の話題で
持ち越しだったが、





騒ぐことが
得意じゃない僕は、
用事があるから、
といって、帰った。





ちょっと罪悪感も
あったけど、
その日はどうも
気乗りがしなくて。





それで、傘をさしながら
駅まで歩いていたとき。





・・・あ、あの子、
知ってる。





駅までの道から
少しそれた細い道で、
立ち止まる1人の女子。





同じクラスの、
確か名前は・・・





湊コハル。





細いフレームの
メガネをかけて、
いつも花のように
優しく微笑んでいて、
休み時間はものすごく
難しそうな分厚い本を
ただひたすら読んでいる彼女は、





僕を含むクラスメートからも
いちもく置かれる存在だった。





もちろん僕は
彼女とまともに
話したことはなかった。





ただ、その日はなぜか
彼女に妙に惹かれて、
気づいたら彼女に
話しかけていた。





ユイト「・・・あの」





コハル「え?
・・・ああ、
小原くんじゃないですか」





彼女は少し
驚いたような顔をしたが、
すぐにいつものように
微笑んだ。





ユイト「・・・僕の名前
知ってるの?」





静かで、
言ってしまえば
あまりクラスに
関心がなさそうな彼女が、





クラスでもあまり
目立つ存在ではない僕を
覚えていることが
意外だった。





コハル「当たり前じゃないですか。
クラスメートですよ?
それに私、
人よりちょっと
記憶力がいいんです」





そういって微笑む。





コハル「それにしても
バレちゃいましたね」





ユイト「え?」





コハル「文化祭の準備の
サボリですよ。
誰にも見つからないうちに
ササッと帰ろうとしたのに、
ついうっかり寄り道してしまって。
小原くんに見つかってしまうなんて」





ユイト「・・・いや、
僕も実はサボリで」





すると湊さんは
軽く驚いたあと、
いたずらっ子のような
笑みを浮かべた。





コハル「あら、
そうだったんですか。
仲間ですね。
このことはお互い内緒ですよ」





内緒。





その言葉が、
どこかミステリアスな湊さんに
びっくりするくらいはまっていた。





ユイト「・・・うん。
・・・それでその、
湊さんは
こんなところで何を・・・?」





コハル「・・・これです」





湊さんは僕が話しかけるまで
見ていた方向に視線を移した。





僕もその方向を見ると・・・





ユイト「わあ・・・」





とある教会の塀に、
まるで絨毯のように
広がっていたのは、
紫陽花の花だった。





コハル「帰る途中、
ふとこの紫陽花の
純白の色が横目に入りまして。
つい寄らずには
いられなかったんです」





ユイト「確かに、すごく綺麗だ。
今までいろんな紫陽花見てきたけど、
こんなに綺麗なのはそうそうないな。
きっと、ここの人が
丁寧に管理してるんだろうな」





コハル「ええ、その通りです。
すごく生き生きとしてて、
見てるこちらまで
そんな感じになります」





湊さんは、
教室にいるときでは
考えられないくらいの
とびっきりの笑顔だった。





ユイト「紫陽花、
好きなんだね」





コハル「ええ、とっても。
花全般好きで、
愛読書は植物図鑑というくらいの
生粋の花好きの私ですが、
その中でも紫陽花は特別です」





ユイト「へえ。確かに、
このちょっと上品な感じ、
僕も好きです」





コハル「小原くんも、
結構花好きなんですね?」





ユイト「うん。小さい頃から、
スポーツとかよりも、
植物とかの方が
興味があったんだ。
男が花好きって変かな・・・?」





コハル「いいえ、
そんなことないです。
とっても素敵です。
私、花を愛する人は、
みんないい人だって、
信じてますから」





即答で断言されて、
ちょっと驚いたけど、
すごく嬉しかった。





コハル「・・・さてと。
そろそろ帰るとしますか。
実は、今日準備をサボったのには
わけがありまして」





ユイト「え?」





コハル「実は今日、
誕生日なんです」





ユイト「そうなんだ、
おめでとう」





コハル「ありがとうございます。
それでですね、
行きつけの花屋さんで、
お花を分けてもらう約束を
してるんです。
それがもう1週間ほど前から
楽しみで仕方なくて」





ユイト「それはいいね」





コハル「というわけで、
このへんで失礼します。
引き止めてしまってすみません」





ユイト「いやいや、
勝手に引き止まったのは僕だから。
こちらこそ邪魔してごめん」





コハル「いえいえ、
とても楽しかったです。
また話しましょうね。では」





そういうと湊さんは
早足でいってしまった。





それからお互いたまに
文化祭の準備をサボる(笑)僕たちは、
同じように紫陽花の前で会い、
はなして、
いつの間にか仲良くなっていた。





ただのクラスメートから、
友達へ。





そして・・・、
僕は彼女を
意識するようになった。





これが僕らの6月。
1年目。





その後も、
機会があったら話して、
僕らは高校2年生になった。





驚いたことに
またクラスが一緒だった。





コハル「なんか、
運命的ですね」





始業式の日、彼女は
そう言って笑った。





相変わらず
積極性のない僕は、
明らかな彼女への恋心に
気づいていても
口に出せずにいた。













・。・。・。・。・。・。・。・。





6月。





昨年見たあの紫陽花を、
無性に見たくなって、
僕は勇気を出して
彼女を誘った。





コハル「ふわあ、
やっぱりすてきです、
ここの紫陽花。
輝いてます。
誘ってくれて
ありがとうございます」





ユイト「こちらこそ
来てくれてありがとう」





2人でしばらく
美しい紫陽花を眺める。





ユイト「・・・あのさ、
・・・コレ」





僕はおずおずと、
小さな袋を渡す。





コハル「・・・これは?」





ユイト「開けてみて」





湊さんは袋を開けて、
中に入っていたものを
取り出した。





コハル「・・・わあ」





中に入っていたのは
ペンダント。





小さな紫陽花のチャームが
付いている。





ユイト「・・・今日、
誕生日だよね。
おめでとう。
女の子って何が欲しいのか
あんまりよくわからなくて、
ネットで研究してたんだけど、
アクセサリーがいいかなって。
でも、紫陽花がモチーフの
アクせサリーって
なかなか売ってないんだね。
・・・気に入ってもらえると
嬉しいんだけど」





恥ずかしくなって
早口になった
僕の長い説明を聞いたあと、





湊さんは笑った。





初めて会った時と同じ、
あの満開の笑顔で。





コハル「・・・誕生日、
覚えてくれてたなんて。
感激です。
本当に嬉しいです。
このペンダントも素敵です。
なにより、小原くんが
私のためにこんなにいろいろ
考えてくれていたことが
本当に本当に嬉しいです。
ありがとうございます」





ドクっ、ドクっ、ドクっ・・・





彼女の笑顔を見て、
彼女への気持ちが
さらに高まった頃には





ユイト『好きです』





言葉が先に出ていた。





これには彼女も、
そして僕自身も驚いて、
お互いすごい顔をしていた。





慌てて後に続ける。





ユイト「い、1年前、
ここで君に会ってから、
たくさん話して、笑って。
とても楽しかった。
君のことがしれて、嬉しかった。
これからもずっと、こんなふうに
君と話していたくて。
君と笑ってたくて。
だから、その・・・」





コハル『私も好きです』





彼女からかえってきたのは
衝撃の一言。





コハル「小原くんが
私に話しかけてくれて、
本当に嬉しかったです。
私の好きなものを、
ありのままに話せる人って
今までそうそういなくて。
つい自分の世界に没頭して、
気づけば周りと距離が出来ていて。
昨年の文化祭の準備も、なんとなく
クラスとの距離があって、
気まずくて出たくなかったんです。
でも、君に逢えて、
私は私らしくいようと思えた。
・・・まあサボリは良くなかったと
思ってますが。
ともかく、小原くんには
とても感謝してるんです」





湊さんは、
ひと呼吸おいていった。





コハル「これからも、
よろしくお願いします。
恋人として」





これが幸せの、
僕らの6月、2年目。





それからは、
いろいろな場所に
2人で出かけるようになって、
とても楽しかった。





お互いの呼び方も、
呼び捨てに変わった。





まあコハルの敬語は
そのままだったけど、
それも彼女の個性ってことで。





そんなこんなでむかえた、
高校3年生の直前の春休み。





コハル「私、転校するんです」





突然そう言われた。





ユイト「・・・え?」





コハル「ちょっと父が
転勤になってしまって」





ユイト「・・・どこに?」





コハル「海外、外国です」





ユイト「か、海外!?
いつ!?」





コハル「1週間後。
3年生になる前に」





あまりのショックで
気を失いそうになる。





コハル「ごめんなさい
直前になってしまって。
なかなか言い出せなかったんです。
私自身受け入れられなくて。
それで・・・、
高校卒業したあとも、
私、もっと植物の知識を深めるために、
そのまま外国の地で
勉強しようと思ってるんです」





ユイト「・・・」





コハル「・・・本当に
ごめんなさいユイト」





俯くコハル。





ユイト「・・・ううん。
気にしないで。
僕をきずつけないように
してくれたんだよね。
伝えてくれてありがとう。
転校はすごく残念だし、
さみしいけれど、
それがコハルのやりたいことなら、
頑張ってやってきてほしいって
思ってる」





コハル「ユイト・・・」





ユイト「・・・あのさ、
提案があるんだけど」





コハル「え?」





ユイト「あの紫陽花、
見に行こう。今から」













・*・―――・*・―――・*・





ユイト「咲いてない・・・
って当たり前か」





時期はずれの
紫陽花を見てつぶやく。





花こそ咲いていないけれど、
それでもこの紫陽花からは





何か不思議な力を感じた。





コハルも同じように
思ったみたいで、
魅入るように
紫陽花をジッと見つめる。





ポツ、ポツ、ポツ・・・





春の雨が降る。





雫が葉に滴る。





コハル「・・・紫陽花の花言葉って、
知ってますか」





紫陽花を見たまま、
不意につぶやくコハル。





ユイト「・・・ごめん知らない」





コハル「『移り気』『浮気』『無常』」





ユイト「え゛!?」





予想外の不吉な単語に、
思わず変な声が出る。





コハルは、そっと
アジサイの葉に触れた。





コハル「・・・でも、
ここの紫陽花、
・・・私が最も好きな、
白い紫陽花の花言葉は、
『寛容』」





ユイト「寛容・・・」





コハル「・・・ユイト。
わがままで自分勝手な
願いだということは
承知しています。
だけど・・・、
ユイトは、
この白い紫陽花だと・・・、
寛容な心で、・・・、
・・・まっていてくれると、
信じてもいいですか?」





コハルはまっすぐ
僕を見つめた。





ユイト「・・・うん。
もちろん。
すっと待ってる。
必ずまた、コハルといる。
だから安心して行ってきて。
僕も頑張るから。
白い紫陽花で、いるから」





この気持ちに、
嘘はない。





コハルは、また
とびっきりの顔で笑った。













・。・。・。・。・。・。・。・。





1週間後、コハルは
引っ越していった。





コハルと過ごした約2年。
かけがえのないものだった。





いつかまた、
一緒に過ごせる時を信じて。





6月には紫陽花を見て
彼女を思い出しながら、
彼女に負けないように
僕も頑張った。













・。・。・。・。・。・。・。・。





ゴーンゴーンゴーン・・・





鐘の音が鳴り響く。





あの白い紫陽花に囲まれた
この場所に負けないくらい、
美しいドレスを着た彼女が
姿を現す。





今日は、彼女の誕生日。
7年越しに祝うこの日。





ユイト&コハル(・・・ジューンブライド、だね)





微笑み合う、僕らの6月、
3年目。







*end*

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