メロンクリームソーダ
作者:とも
私は、ユア。
恋を夢見る乙女FJK。
いつか白馬の王子様が
迎えに来てくれるのを待っている。
いまも彼氏はいるけど、
彼はきっと私の運命の人じゃない。
「なんか言った?」
私の彼氏であるミサキが
顔をしかめる。
「なんでもない」
私はスッと目をそらした。
私とミサキは放課後
いつも通りファミレスに
寄り道していた。
ミサキはメロンクリームソーダを
いつも注文する。
さすがに
食べ飽きないのだろうか。
ミサキとつきあうように
なったのは、1年前、
中学生のときに
告白されてからだ。
なりゆきでつきあって、
それから放課後を一緒に過ごし、
デートも何度かしたことあるけど、
恋の進展がない。
手をつないだことさえない。
なんか愛されてる実感がない。
「ねえ、本当に私のこと好き?」
私はミサキに
少し強めの口調で聞いた。
「好きだよ、もちろん」
ミサキはのん気に
クリームソーダのアイスを
スプーンでつつきながら答えた。
なんだかなあ。
言葉で「好き」って
言ってくれるのも
もちろんうれしい。
でも私は、できれば態度で
示してほしいと思う。
難しい表現だけど
愛を形にしてほしい。
ミサキはやさしいし、
良い人だけど、
刺激がなくて退屈する。
恋に刺激を求める私が
間違っているのだろうか。
ミサキは家庭環境が
ちょっと複雑で、
施設で育ったから、
なんか同情してしまう。
でも同情でつきあうなんて
失礼かなと
最近思い始めている。
「私のこと好きなら
態度で示してよ」
私は思い切って言ってみた。
「たとえば?」
ミサキは不思議そうに
私の目を見つめた。
「たとえば、手をつなぐとか、
ハグとか、キスとか」
女子にこんなこと言わせるな、
と思いながら私は答えた。
「やだよ」
ミサキはあっさりとした
口調で言った。
「なんでよ?」
私は、少しイライラして聞いた。
「ユアのことが大切だから。
それに汚れてほしくないし」
ミサキは私の目を
まっすぐに見つめて言った。
「よくわからない」
私はため息をついた。
「僕はこの世界に絶望してるけど、
ユアだけが僕にとって希望の光なんだ。
ユアだけは絶対に不幸になってほしくない。
いつかユアに本当に
ふさわしい相手が現れたら
僕は身を引いてもいい。
でもそれまでは僕が守る。
誰にも指一本たりとも触れさせない」
ミサキは彼にしてはめずらしく
ハッキリとした口調で言った。
ようやく私は理解した。
あぁミサキは
それくらいの覚悟をもって
私を愛してくれてるんだなって。
「でもどうして私を?」
私はミサキを見つめた。
「小さい頃に助けてくれたろ」
ミサキはクリームソーダに
視線を戻した。
「覚えてない」
私は正直に言った。
「小学生の頃、
僕が暮らしていた施設で
近所の子どもによる劇の発表会があった。
ユアはステージで歌って躍ってくれたよ。
キラキラしてステキだった。
将来はアイドルになりたいって
ハッキリ言ってて、
そのときからユアは僕の夢と希望の光だ」
ミサキは私を見つめた。
そういや
そんなこともあったかな。
お母さんが地域の
ボランティアサークルに所属していて、
頼まれて施設で
劇とか紙芝居をやったんだっけ。
ミサキはあのときの劇を
見てたんだ、
私は忘れてたけど。
いや、思い出した。
あの日、劇の後に
市販のメロンソーダと
バニラアイスで
クリームソーダを作って
施設の子と一緒に食べたんだ。
「だからメロンクリームソーダ?」
私は目を丸くした。
「そうだよ。
他に何か理由ある?」
ミサキは涼しい顔で言った。
「ありがとう」
私はミサキを見つめた。
「こちらこそ。
小学校は違ったけど
同じ中学校になれたから
告白したってわけだね」
ミサキは満足げに
クリームソーダを飲み干した。
「おかわり、いる?」
私は彼に聞いてみた、
きっと愚問だろう。
「いらない。
ユアが一緒にいてくれるなら
他に何もいらない」
ミサキはテーブルの上にあった
伝票を取って立ち上がった。
「いつまでも一緒にいてね」
私も立ち上がって
ミサキの手を握った。
ミサキの温かい手が
私の手を握り返した。
*end*
※掲載されている物語はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
工藤 唯愛

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