海の底
作者:とも
私は、ユア。
青春まっただ中の高校生。
ということは
もちろん恋をしている。
私はちょっと精神疾患がある。
電車など、大勢の人がいる
閉ざされた空間が苦手だ。
そういう場所にいると
息ができなくなって
意識が遠のく。
でも、今はだいじょうぶ。
苦しくなったら
大好きなミサキ先輩の写真を見る。
スマホの中に大切に保管してある。
偶然SNSで流れてきた、
ミサキ先輩が笑顔で
ピースをしてる写真。
この写真を見た瞬間、
私はピンときた。
彼は私を助けることが
できる人だと。
意識が遠のくと、
私はミサキ先輩の笑顔を思い出す。
すると私はもう迷わない。
灯台の明かりのような
ミサキ先輩の笑顔をたどって
意識を取りもどす。
実際に私は苦しくなると、
いつもそうして深い海のような
意識の底からもどってきた。
この私を助けてくれる役目は
他の人ではダメで、
ミサキ先輩じゃないとうまくいかない。
それがどうしてかなんて
言葉で説明できるわけじゃない。
でも、ミサキ先輩には
本当に感謝してる。
この世界に光があると
教えてくれたから。
この感情はきっと
他の人には理解されないだろう。
もしかしたら、一般的にいう
恋愛感情とも違うのかもしれない。
ただしハッキリと言えることは、
私はミサキ先輩がいないと生きてゆけない。
でもミサキ先輩本人に
こんなこと言えるわけがない。
重いって思われそう。
ミサキ先輩はサッカー部の
エースストライカーで
顔も性格もいいので女子にモテる。
私は少しでもミサキ先輩の
近くにいたくて
サッカー部のマネージャーになり、
今日も泥だらけのサッカーボールを
磨いている。
でも、ミサキ先輩との接点はない。
本当はずーっと一緒にいてほしい。
私が困ったときは、顔を見せてほしい。
それだけで
どんなに救われることだろうか。
それが私のわがままだって
わかってるつもりだ。
ミサキ先輩にとっては
私はただの後輩。
大したとりえのない私に
振り向いてくれるわけもなく。
いつか卒業して会えなくなる。
私はそれを思うと
胸の奥がズーンと沈んだ。
電車に乗れないから
私は自転車通学だけど、
校外学習の日だけ
電車に乗らないといけない。
私は病気のことを
学校の人には言っていない。
知ってるのは親だけだ。
親は休んでもいいよって
言ってくれたけど、
私は病気に負けたくなくて
校外学習に参加した。
本当は怖くて
逃げ出したいけど。
でも、ダメだった。
校外学習はなんとか乗り切って
解散して、家までもうすぐという
電車の中で苦しくなった。
いつもは空いてる時間帯なのに
今日はなぜか混んでいて、
耐えられなかった。
私はできるだけ呼吸を整え、
遠のく意識の中で
スマホを取り出した。
今日は友達に見られるリスクも
あったけど、念のためミサキ先輩を
待ち受け画面にしておいた。
暗闇の中でミサキ先輩が
手を差し伸べてくれる。
私は、そのかすかな光を頼りに
意識の底からもどってくるところだった。
「だいじょうぶ?」
よろめく私を支えてくれたのは
ミサキ先輩だった。
私はびっくりして
スマホを落としてしまった。
「あれ、俺だ・・・」
ミサキ先輩にスマホを
見られてしまった。
もう終わりだ、
勝手に待ち受け画面にして
気もち悪いって思われる。
私は逃げ出したかったけど
足にもう力が入らなかった。
「体調悪いなら、降りよ」
ミサキ先輩に手を引かれ
私は次の駅で降ろされた。
私はベンチにへたりこんだ。
「だいじょうぶ?」
ミサキ先輩はやさしかった。
手を握られてると
ものすごい安心感があった。
私はためこんでいた涙が
止まらなくなってしまった。
私は重いって思われるのが
わかってたけど、
全部を正直に話した。
ミサキ先輩の笑顔を見ると
海の底からもどってこれるんだって
意味不明なことを言った。
もうきっと嫌われるんだ、
気もち悪いって思われるんだ。
でもミサキ先輩は、まっすぐな目で
ずっと話を聞いてくれた。
「なんとなく、分かるよ」
ミサキ先輩が、私の背中を
さすりながら言った。
「え・・・?」
絶対理解されないだろうという思いで
親以外の誰にも話したことなかったのに。
「いや、気もちがわかるなんて
簡単には言えないけど、
俺の弟が同じような病気だから、
大変なのはなんとなくわかる」
ミサキ先輩はそういって
私にほほえみかけた。
「じゃあ、これからも
ミサキ先輩の写真を持ち歩いても
いいですか・・・?」
私は1番
気になっていたことを聞いた。
「いいよ、俺でよければ。
てか、つきあう?」
ミサキ先輩は私の頭を
ポンポンした。
「しゃ、写真でじゅうぶんです。
病気を理由につきあってもらうなんて
ズルいし」
私は驚きすぎて
なぜか断ってしまった。
「別に理由なんて
なんだっていいじゃん。
俺はそう思ってるよ。
俺は今、ユアを助けることができる。
ユアは俺を必要としてる。
一緒にいる理由としては
じゅうぶんだと思うけど」
ミサキ先輩は
空を見上げながら言った。
不思議な考え方をする人だ、
と思った。
でもそのときに、私は確信した。
光が届かない海の底にも
救いが現れることはあると。
「じゃあ、つきあってください。
私が困ったら助けてください。
その代わり、この先ミサキ先輩が
困るときがあったら私が助けますから」
私はミサキ先輩のためなら
どんなことでもできると思った。
「よろしくね、ユア」
ミサキ先輩の笑顔は
太陽よりもまぶしかった。
*end*
※掲載されている物語はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
工藤 唯愛

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