愛はきっとそばにある

CAST工藤唯愛

作者：とも

2025.06.16

私は、ユア。
青春まっただ中の、fjk。

そして、そんな私の悩み・・・

それは！
恋をしたことがない、のです。

人を好きになるっていう気もちが
まだよく分からない。

でも、恋に憧れる気もちはある。

しかしそれと同時に
私に恋なんて
できるのかなっていう
不安もある。

あと上手く言えないけど、
恋をしたら、自分が自分じゃ
なくなってしまいそうで怖い。

こんな気もちをなんと
言うんだろう。

他の人には
こんな悩みないのかな。

それでもいつかきっと
私も誰かを好きになるんだろう。

百人一首だって
恋の歌が多いし、
太古の昔から
人は恋をしてきたのだ。

私だけ例外のはずがない。

私は、通学電車の窓の外の
流れる景色を見ながら
ぼんやりそんなことを考えていた。

「ドアが閉まりまーす」

車内アナウンスが
鳴り響く。

私は、自分が降りる駅だと気づいて
あわてて降りようとした。

「痛っ」

乗ってきた男性と
ぶつかってしまった。

「どこに目えつけてんだよ」

ガラの悪いオジサンに
絡まれてしまった。

「ご、ごめんなさい」

私は怖くて頭を下げた。

「ごめんで済むわけねーだろ。
ちょっとこっち来いよ」

オジサンは
私の腕をつかんだ。

ヤバいヤバいヤバいヤバい。

私はパニックで
頭が真っ白になった。

「あやまってるだろ。
しつこいよ、お前」

背の高い男子が
オジサンを押しのけた。

私と同じ高校の
制服を着ている。

誰だろう？

オジサンは舌打ちをして
去っていった。

「あ、あの
助けてくれてありがとう」

無事に駅のホームに降りた私は
お礼を言った。

「困ったらいつでも
助けてやるから」

そう言うと
男子は少し顔が赤くなった。

「ありがとう。
でも、なんで？」

初対面だと思うし
どうして私に親切に
してくれるんだろう。

「これが俺の愛だから」

男子はそれだけ言って
走り去っていった。

愛？

愛って言ったぞ？

私を愛してるってことか？

私の頭の中は
ハテナでいっぱいになった。

というか、名前を聞くのを忘れた。

でもその日から
私は彼のことが
気になるようになった。

勉強にも部活にも
集中できなくて、
彼のことばかり考える
時間が増えた。

＊　‐‐‐　＊　‐‐‐　＊

ある日、午後から
強い雨が降った。

「傘を忘れた・・・」

学校から帰ろうと思った私は
ためいきをついた。

「これ、使えよ」

傘を差し出してくれたのは
あのときの男子だった。

「あのときは、ありがとう。
名前聞いてもいいかな？」

私は、男子の目をまっすぐに
見つめて言った。

「俺は、ミサキ。
ユアのことが好きな
男子高校生」

ミサキは私の目を
見つめ返した。

なんてきれいな目をした人
なんだろうと私は思った。

まるで澄んだ海のように。

え？　というか今
好きって言った？

告白？

これが告白という
やつですか？

私の頭は、またハテナで
いっぱいになった。

でもミサキが私の頭を
やさしくポンポンした瞬間

ハテナがすべて
吹き飛んだ。

そのとき、私は
直感で理解した。

あぁ、この人は
私を愛してるんだ。

「ありがとう」

私は、ちょっと泣いた。

「告白の返事が『ありがとう』って
どういうこと？」

ミサキが少し笑った。

「人から愛されるのが
こんなにうれしいなんて
知らなかった。
教えてくれてありがとうって」

私は、正直に言った。

「入学式の日、
俺はサッカーの練習で
足をケガしてたから、
電車でフラフラしてたら
ユアがそっと肩を貸してくれてさ、
そのときからずっと好きだ」

ミサキは、真剣な顔で言った。

そういやそんなことも
あったかな。

忘れてたわ。

あのときの男子が
ミサキだったのか。

「私も好きかな」

私は、ポツリと言った。

「かな？」

ミサキは、少し戸惑った。

「まだミサキのこと
本当に好きか分からない。
でも、ミサキのことをもっと
知りたいと思うし、
ミサキが困ってたら
助けてあげたいと思うし、
ミサキのことが気になってる。
これからミサキと愛を見つけたい。
それじゃダメ？」

私はいまの気もちを
全部正直に言った。

「ありがとう」

ミサキは私の手を
やさしく握った。

真実の愛なんて
簡単に見つからないよ。

でもね、

気づいてないだけで、
愛はきっとそばにある。

＊ｅｎｄ＊