恋より愛より深いもの

CAST工藤唯愛

作者：とも

2025.06.14

私は、ユア。
ごく普通の高校生。

いや、普通って言ったけど、
普通より地味かも。

友達を作るのが苦手。

今回転校することになったのも、
前の学校になじめなかったから。

でも、転校初日のあいさつが
嫌なんだよな。

先生「今日は、転校生を紹介する」

ユア「は、はじめまして、
あ、あの・・・」

はぁ、やっぱり
私ってダメだな。

緊張して
言葉が出てこないや。

苦しい、逃げたい。

そのとき、教室の後ろのほうに
座っていた男子が
スッと立ちあがった。

まっすぐな目をした
爽やかな雰囲気の男子だ。

教室がざわついた。

「ミサキ、どうしたん？」

ミサキと呼ばれた男子は
まっすぐ私の方に
スタスタ歩いてきた。

ミサキは、私の手を
やさしくつかんだ。

私はびっくりして
固まってしまった。

あのときの彼の手の温もりを
私は生涯、忘れないだろう。

ミサキ「今日からこの女は
俺の彼女にする」

教室中に、ミサキの
ハッキリとした声が
ひびきわたった。

教室は大混乱した。

女子の悲鳴。

「ミサキ、やだー」

はやしたてる男子。

「ミサキ、いいぞー」

先生「はい、みんな静かに。
つきあうかどうかは置いといて、
ユアが新しい学校に
なじめるように
ミサキがサポートしてやれ」

先生は少し
苦笑いをしていた。

私はミサキの
隣の席になった。

ミサキは
本当にやさしかった。

新しい学校のことを
いろいろ教えてくれたし、

昼のお弁当も一緒に
食べてくれたし、

登下校も一緒にしてくれた。

私はミサキのことが
好きになりはじめていた。

＊　‐‐‐　＊　‐‐‐　＊

転校して１ヶ月ほどした日、
私たちはふたりで並んで
歩いて帰っていた。

ユア「どうして私に
親切にしてくれるの？」

ミサキ「寂しそうだったから」

ユア「え？」

ミサキ「転校初日のあいさつのとき、
寂しそうな目をしてた。
俺が助けてやらなきゃって、思った」

ミサキは
屈託のない笑顔で答えた。

その笑顔を見てると
またさらに好きになってしまいそうで
私は思わず目をそらした。

ミサキ「ユア？」

ユア「私のことが好きだから、
とかではない・・・？」

私は、何を言ってるんだろう。

ミサキはやさしいから
私の相手をしてくれてるだけなんだ。

ミサキ「俺はそんなすぐに
人を好きになったりしない」

私は、目の前が
真っ暗になった。

わかってる、
わかってるけど。

ミサキ「実は俺も転校生で、
最初は友達になってくれるような
人もいなくて辛かった。
だからユアを見つけたとき、
昔の自分みたいで
放っておけなかった」

ユア「ありがとう」

私はもう泣きそうだった。

熱い涙があふれそうなのを
必死でこらえた。

ミサキのやさしさが
うれしかった。

でも、それと同時に
自分のことが
好きではないのだと思って
悲しかった。

ミサキ「最初のきっかけはそうだった。
でもいまは、ユアのことが好きだ」

ユア「え？」

ミサキ「笑顔がかわいいし、
話してて楽しいし、がんばりやさんだし、
俺、いつの間にか好きになってたよ。
まいったなぁ。俺、最初は
冗談のつもりだったんだよ」

ミサキは、はにかみながら
頭をかいた。

私はミサキの手を握った。

ユア「これからミサキが
困るようなことがあれば、
私が助ける。
だから、これからも、一緒にいて。
私はミサキが好き」

ミサキはやさしく
ユアの手を握り返した。

私はミサキとの間に、
恋より愛より
深いきずなを感じた。

＊ｅｎｄ＊