たとえ、紅葉を見られなくたって・・・

CAST足川結珠

作者：じゃが

2022.09.03

私はユズ、
中学３年生。

今から話すのは、
私よりも大事だって
思える彼氏と、私の話。

短かったけど、
濃くて、充実した時間だった―――――

＊．．．・・・＊．．．・・・＊

ハアト「俺、紅葉を
ユズと見たいなあ。
絶対に、絶対に見たい」

ある日のデート。

満開の桜を見て、
私の彼氏・
ハアトがつぶやいた。

ユズ「見ようよ！
約束だよ？」

ハアト「・・・ああ」

一瞬、ハアトの顔が、
どこか切なそうに
見えた気がした。

ハアト「俺は、
ほんとにユズと
見れるのかな」

ユズ「なあに、
言ってんの！
見れるに
決まってるでしょ！」

ハアト「俺は、
秋になっても
ユズの隣にいるのかな」

ユズ「はあ？
その頃には
別れてるって
言いたいの？」

ハアト「いや」

普通なら、
もっと問い詰める。

でも、ハアトの顔を見たら、
そういう意味ではないことは
ハッキリわかった。

ユズ「まあ、
なんでもいいけどさ。
絶対に、秋になっても
私は、ハアトの隣にいるから」

ハアト「俺も、
ユズの隣で、
腹筋が割れるくらい
笑っていたいよ」

ユズ「腹筋割って、
もっとかっこよく
してあげるから！」

その年の夏。

ハアトは入院して、
余命宣告をされた。

ユズ「ねえ、なんで
話してくれなかったの？
なんで！」

ハアト「ユズ・・・」

ハアトは私と出会う
ずっと前から
病気と闘い続けてきたという。

ユズ「・・・それで、
あとどのくらい、
生きられるの？」

ハアト「１か月、
もつかもたないか」

ユズ「・・・っ！」

途端に現実味を帯びてきて、
私は居ても立っても
居られなくなり、
その場から逃げてしまった。

その後、
逃げてしまったことを
ひどく反省し、
私はあることを調べ続けた。

＊．．．・・・＊．．．・・・＊

余命宣告から１週間後。

ユズ「こないだは、
逃げちゃって
ごめんなさい！」

ハアト「全然、いいよ」

久しぶりに見たハアトは、
痩せていた。

ユズ「それでね、先生に
外出許可をもらったから、
明日、出かけよう」

ハアト「え？」

ユズ「いきなりごめん。
でも、絶対に
ハアトに
見せたいものがあるの」

ハアト「まあ、いいけど」

ユズ「じゃあ、
明日また来るね」

＊．．．・・・＊．．．・・・＊

翌日。

ユズ「ハアト、来たよ」

個室に入ると、
ハアトは
着替え途中だった。

ユズ「・・・腹筋、
割るどころか
全然なくなっちゃったね」

ハアト「悲しいこと
言うなって」

ユズ「ごめんごめん。
じゃあ、行こう！
こっちこっち～」

私はハアトの手を
しっかり握った。

ユズ「じゃじゃーん！」

そこには、１本の木が
立っている。

それも、真っ赤な
モミジの木が。

ハアト「・・・！」

ユズ「前、ハアト、
私と絶対紅葉見たいって
言ってたでしょ。
これは、ノムラモミジ。
紅葉してないけどね、
１年中赤いモミジなの。
ホンモノが
見れなくたって、
こうやって２人で
楽しめるんだよ！」

私は、しきりに
紅葉が見たいと
言っていたハアトを
思い出し、
一生懸命調べた。

そのときに、この
ノムラモミジが
出てきたのだ。

ハアト「もう・・・
嬉しすぎて
言葉が出ないよ・・・！
ユズ、ユズ、ユズ！」

ユズ「ハアト！」

たとえホンモノの
紅葉が見れなくたって、

秋まで生きられなくたって。

ハアトの隣で、
ノムラモミジを見られる。

私は今、ハアトの隣で、
ハアトが喜ぶところを
見られて幸せだよ！

探せば必ず、
方法は見つかる。

諦めちゃいけない。

そう、神様に
教えてもらったんだ。

＊ｅｎｄ＊