人魚姫のファーストキス

CAST中山 あやか中山 あやか

作者:マナカ

新二コラ学園恋物語新二コラ学園恋物語2022.06.01

伝えなきゃ、
伝えなきゃ、





そう思っても





心の声は
空一面に広がる
花火の音に
かき消される。





いつからだろう。
自分の気持ちを、言葉を、
他人に伝えることが
できなくなったのは・・・・・・













・*。・ 1年前 ・。*・





「あやか~おはよ」





「あっ、おはよ~」





「あーたん、
今日の髪型めちゃ
かわいいやん」





「ありがとう/////」





私の名前は中山アヤカ、
中学2年の元気っ子。





自分で言うのも
あれだけど
陽キャで話し上手だから
クラスでは浮いてない。





だから、その時の私は
私が喋れなくなる日が
日に日に迫ってきているとは
考えてもいなかった。









そして、
その2ヶ月後の夏。





近所の広場で
花火大会があったので
クラスの陽キャ組と
行く予定だった。





陽キャ組と
行く予定だった・・・・・・





私は張り切って
おめかしをした。





浴衣も流行色を
取り入れながら
和の心を忘れない
デザインにしたし、





髪もゆるふわお団子で
あざとカワイイを狙った、
はずなのに





なんで? なんで?
あの娘が私より
注目されているの?





そう、私が絶対来ないと
思っていた女子「近藤藍月」が
普段かけている眼鏡も外し、
私よりおしゃれをして、
私より笑っている。





私は気づけば
みんなの輪から
外れていた。





慌てて
みんなのもとに戻る。





そうだ!
レンくん。





レンくんなら
私になんか話題を
振ってくれるはず!





優しいイケメン
クラスメイトのレンくんに
私は頼ることにした。





でも、彼に声を
かけようとしたら
またもや信じられないことが
起こった。





「レンく~ん/////
あっちのかき氷
食べに行こぉ」





藍月が私の前に
横入りして
レンくんをさらっていった。





みんなもそんな2人に
盛り上がりながら
ついていく。





私は1人
残された・・・・・・





そのまま
誰にも言わずに帰った。





かえってお母さんが





「どうだった、
アヤカ。
花火キレイだった?」





って聞いてきたけど
花火は私が帰り始めた頃に
始まったし、
花火なんかにかまっている
時間はなかった。





とにかく自分の存在が
忘れられたことが
ショックだった。





誰かが私のいないことに
気づいて
メールくらいくれないかと
期待したけど
何分まっても来ない。





「はぁ」





スマホとともにベッドに
倒れ込む。





人生が終わった気がした。





まつりに
夢中になっている友達に
存在を忘れられるのも、





陰キャ美少女が
ビフォーアフターして
ちょっと気になっていた異性を
かっさらっていくのも、
花火大会あるあるかもしれないけど
私はショックだった。





気づけば
私は眠りにつき、
夢を見ていた。





暗い暗い宇宙の中に
私だけが
置き去りにされている夢だ。





みんなは星の橋を
どんどん渡る。





はじめのうちは
私も輪に入りながら
歩いていた。





でも途中から
体が重いと感じて
どんどんみんなとの間に
距離ができていく。





気づけば
私の周りには
誰もいない。





誰も私の方を
振り返らない。





次第に足元の星も
薄くなっていき
私は永遠にさまよう
宇宙に溶け込んでいった・・・・・・





(はっ! 夢、か)





あまりにもリアルすぎて
体が反応してしまったようだ。





スマホの画面を操作して
時間を見る。





「5時15分」





普段に比べて早起きだが、
2度寝したら
起きられないので
起きることにした。





お母さんは台所で
ご飯を作ってくれていた。





甘い、懐かしい、
卵焼きの匂いを
体で感じた途端
涙が溢れそうになってきた。





昨日のことを
思い出したからだ。





でも、お母さんに
心配をかけたくないから
ぐっと涙をこらえる。





「おはよ」





あれ?
声が出ない・・・・・・





「おはようございます」





顔から血の気が
引いていくのがわかった。





声が出ない、
喋れない・・・・・・
なんで?





そこからは
よく覚えていない。





私が倒れた音に
お母さんが気がついて
駆け寄ってきて・・・・・・





(うぅん、ここは、どこ?)





気づいたら
病院のベットにいた。





点滴のリズムが
何故か心地よく感じる。





瞬きをしてしっかりと
目を開けると
看護師さんらしき女性と
エプロン姿のお母さんがいた。





きっとエプロンを
脱ぐ暇もないほど
慌てていたのだろう。





おっちょこちょいな
お母さんが
私が倒れたとき
どうすればいいのかわからなくて、
エプロンと菜箸を抱えたまま
キッチンを右往左往している姿を
想像して少し元気が出た。





お母さん「気がついた?
あのあとあなた、
救急車で
緊急搬送されたのよ。
大丈夫?
お医者さんが言うには
過労だと言っていたけど
なにか学校であった?」





私は静かに首を振る。





そうだ、言わなきゃ、
喋れないこと。
声が、でなくなったこと。





私は母に
「スマホを貸して?」
とジェスチャーで伝え、
眉をひそめながら
私のスマホをバックから
取り出した。





私はメールアプリを起動し、
打ち込んだ。





「声が出ない。
なんで?」





母は恐る恐る私から
スマホを受け取り、
その文字を読んだ。





母の目が
静かに見開かれた。





看護師さんは
いつの間にか出ていき
2人だけの病室に
しばしの静寂が訪れた。





お母さん「ほんと、なの?」





私は必死に
コクコクとうなずく。





母は未だに状況が
読み込めていないようだが、





「お医者さんを
呼んでくる」





といって小走りで
病室の外に出た。





暇になった私は
点滴の落ちる様子を眺める。





1滴、2滴、3滴・・・・・・





気づくと眠りかけていたが、
病室の扉が開き
白衣の裾が
カーテンの隙間から見えた。





お母さん「先程も言ったとおり、
娘が声が出ないと
言っているのですが?」





お医者さん「そちらの方は
内科ではどうも・・・・・・
外傷はないようでしたので、
精神科の受診をして
いただかないと・・・・・・・」





お医者さんに言われたから
私達は3階にある
精神科のフロアを訪れていた。





精神科の先生から
簡単な質問を受け、
基本的には首を振って答えた。





結果、花火大会の日に
ショックを
受けていたことが
お母さんにバレたが
仕方ない。





診断結果は
「心因性失声」だった。





先生が言うには
これといった
治療方法はなくて、
カウンセリングなどを
受けながらゆっくりと
ショックの刺激を
なくすしかないそうだ。





でも、自信をなくしたら
もっと症状が悪化して
目が見えなくなったりする
可能性もあるので
決して諦めないようにと
言われた。





それから家に帰った。





学校には行かなかった。





その日も、次の日も、
また次の日も、
その次の日も・・・・・・・・











どのくらい
経っただろうか、





私が不登校になってから。





喋れない生活に
お父さんもお母さんも
私もなれた。





でも、声が出ない私に
配慮してか
家族の会話はぎこちないし
少ない。





学校のみんなとだけでなく、
家族の間にも
距離が開き始めていることを
悟った。





私がもうちょっと
健全だったら、





花火大会に
行かなかったら、





幾日もそればかり
考えている。













・*。・ 半月後 ・。*・





また、花火大会があるらしい。





でも、私は
花火と聞くだけで
頭が痛くなる。





でも、同じくらい
キュンとする。





そう、私は長い間
自分自身と向き合うことで
自分のことが随分わかった。





例えば「好きな人」とか。





レンくんを思うだけで
胸がキュンってなるの。





なんか彼となら
喋れるような気がして・・・・・・





会いたいって思うの。





でも、私なんか
無理だろうな。





クラスでは藍月がきっと
モテ女子なんだろう。





レンくんもそんな子が
好みなんだろう。





そう考えると
また苦しくなってくる。





(なんなの、このキモチ。
恋だけど甘くない。
酸っぱくもない。
ただ酔ってる気分)













・*。・ 1週間後 ・。*・





私は花火大会に
行くことにした。





勇気がいる
決断だったけど、
レンくんに
会えるかもしれない。





会うだけでいいの。
話さなくても。





そして迎えた花火大会。





この前の花火は
桜まつりで
今回のは
秋祭りだそう。





久しぶりに
胸を躍らせながら
家を出た。





すると、
少し行った交差点で
小さな子供が
飛び出したのを見た。





そこにトラックが
突っ込んでくる。





(危ない!)





でも声は出ない。





私は出ない声を
どうにかするより先に、
トラックの前に飛び出した。





もう、今度こそ
人生の終わりだ。





そう覚悟して
子供を抱いて転がったけど





思っていたような痛みは
来なかった。





(血が流れすぎて
神経がおかしくなったのかな?)





と思ったが違う。





なんと、私も
誰かに抱かれていたのだ。





しかも、
抱いているのは





(レンくん?!)





少しときめいたが
そんな暇はない。





急いでスマホを出し、
119番にかけた。





救急車は1分経つか
経たないかで来た。





薄く目を閉じ、からだの
アチラコチラから血を流しながら
荒い呼吸をするレンくんを載せた
救急車はいった。





私と子供も念の為
保護者が呼ばれ、
怪我がないかを
確認されたあとに
引き取られて帰った。





その後は、
安堵して涙を流す
お母さんをなだめ、
レンくんが
助けてくれたことを話し、
彼の見舞いに行きたいと話した。





お母さんは
無理しないでね、といって
同意してくれた。





病室には私だけが
入った。





母は廊下でレンくんの
おかあさんといっしょに
お医者さんの
話を聞いていた。





彼は薄く日の入る病室で
痛々しい包帯を
頭に巻いていた。





(美しい・・・・・・)





それしか
思えなかった。





彼の傍に近寄って
顔を覗き込む。





するとレンくんは
いきなり目を開けた。





瞬きをしてキョロキョロ
視線をさまよわせる様子は
半年前の私を思い出させる。





もしかしたら、レンくんにも
なにか症状が・・・・・・





外傷は大したものじゃ
ないらしい。





お医者さんは
「奇跡」だと
いっていたそうだ。





そんなことを思っていると
いきなり「アヤカ」と
声をかけられた。





私は慌てて我に返る。





アヤカ「?」





レン「好き」





アヤカ「!?」





レン「ずっと前から、
あと、半年前の
桜まつりのことも
謝りたかった。
ごめん、
仲間はずれにして。
俺、自分のことしか
考えてなかったわ。
ほんとまじで
辛い思いさせてごめん」





その後も彼は
私がいない間のことを
教えてくれた。





みんな心配していること。
藍月は見舞いに
来ようとしていたけど
家庭の事情で
できなかったこと。





他にも色々・・・・・・





唐突に
今なら言えると思った。





自分のキモチを。
言葉を。





アヤカ「す、好き!」





レン「!? アヤカ、
喋れるようになったの!?
良かったね、
おばさん!
アヤカ喋ったよ!」





お母さん「まぁ!
良かったわねアヤカ。
今夜はお祝いだわ/////
レンくんも
退院できるそうだから
よかったら
家でパーティーしません?」





レン「もちろん行きます!」





お母さん「ちょっと主人にも
電話をかけるわね」





お母さんが廊下に出た。





私も自分の口で
伝えたくて
一緒に出ようとしたら、
レンくんに
腕を掴まれた。





真剣な彼の瞳に
ドキッとする。





レン「ありがと、アヤカ」









私のファーストキスは
初恋のレンくんだった。









*end*

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