お嬢様はナイトがお好き
作者:リヴ
とあるお屋敷の、
1番西の部屋に
1人のお姫様が眠っています。
リ「お嬢様、
起きてください。
遅刻しますよ」
ク「うぅん。
ええー、もう朝なのー?
ねむーい。
学校さぼりたーい」
リ「いけません。
ほら、支度なさってください」
ク「ふああ。
頭がぼんやりする~」
皆さん、
ごきげんよう。
私は池クルミ。
パパがちょっと
名の知れた会社の社長で、
私はいわゆる
社長令嬢ってこと。
執事は10人、
メイドは8人いる
大きなお屋敷で
暮らしているの。
リ「お嬢様、
ねぐせがついていますよ」
こいつはリュウタロウ。
代々我が池家に
仕えている執事で、
昔から兄弟みたいに育ってきた。
ク「リュウタロウ、
ねぐせがなおんないー」
リ「俺が後でなおして差し上げます。
まずはお着替えください。
それでは、俺は失礼します」
ガチャン。
リュウタロウは
出て行ってしまった。
思わずため息がこぼれる。
最近、リュウタロウが少し冷たい。
私、何かしちゃったのかな?
心当たりはないけれど。
リュウタロウに
そっけなくされるの、
私好きじゃないんだけどな。
*。・ 学校到着 ・。*
?「わあ!
ニコ学ナンバーワンの
お嬢様がきたよ。
お金持ちで可愛いなんて
勝ち組すぎでしょ。
リアルお姫様だね」
?「古川リュウタロウもいる!
いつもクルミお嬢様のそばに
いるもんね。
クルミ姫のナイトだから」
?「クルミ姫だ。
いつ見ても可愛いなあ。
高嶺の花だよなー」
?「リュウタロウ様だー!
いつ見てもかっこいい・・・
アイドルみたい!」
ク「ねえ、リュウタロウ」
リ「なんですか、お嬢様」
ク「ずいぶん
モテてるみたいだけど、
彼女とかいないの?」
リ「いないですよ。
俺はクルミお嬢様の
執事ですから」
ク「彼女ほしいとか
思わない?」
リ「お嬢様こそ、
どうなのですか?
ご主人様に婚約者候補の方の
写真をお見せするよう
言われているのですが」
ク「その話かあ。
もうイヤッ」
実は私、お父様に
いろんな会社の御曹司との
婚約をすすめられているの。
もちろん、
断っているけれどね。
ほとんど知らない相手と
婚約するなんて絶対にイヤ!
それに・・・、
それに
私はリュウタロウが
好きなの。
だから、リュウタロウ以外の
男の顔なんて
へのへのもへじに
見えちゃうの。
リュウタロウは私のこと、
お嬢様としてしか
見ていないのかな・・・」
*。・ 昼休み ・。*
ク「マノカ~、
リュウタロウが最近冷たいの。
なんでだと思う?」
この子は親友のマノカ。
リュウタロウ以外に心を許せる
大切な友達なの。
マ「もしかして、やきもち
焼いてるんじゃない?」
ク「や、やきもち!?
ないない、
リュウタロウに限って
それはないよ」
マ「なんでよ~。クルミ、
最近隣のクラスの男子に
告られてたじゃん」
ク「あれはちゃんと
お断りしたもん。
私はリュウタロウが好きなの!」
マ「それに加えて、
クルミのお父様から
婚約しろって
言われているんでしょう?
大事なお嬢様をとられちゃいそうで
不安なんじゃない?」
ク「そう思ってくれてるなら
嬉しいけどなあ。
でも、ありえないよ」
私は自分の席で本を読んでいる
リュウタロウを見つめた。
横顔がとってもかっこよくて、
うっとりしてしまう。
そんな私を見て、
マノカがくすくす笑った。
マ「クルミ、
そんなに大好きなら
告白しちゃえばいいのに。
リュウタロウ、
かなりモテるんだよ?
ほかの女子に
とられちゃうかもなんだよ?」
ク「だって~。
フラれたらどうればいいの?」
マ「その時はあたしが
慰めてあげるって!」
ク「でも~」
*。・ お屋敷で ・。*
ク「リュウタロウ~、
この問題わかんなーい」
リ「数学ですか?
ここはこの公式を使って・・・」
父「クルミ、
ちょっと来なさい」
ク「お父様、
どうしたの?」
お父様の部屋に行くと、
知らない男の子がいた。
けっこうイケメンだけど、
なんだか裏がありそうな
笑顔だった。
父「こちらは大倉タカト君だ。
頭もいいし、年も近い。
クルミの婚約者だ」
タ「はじめまして。
写真で見たとおり、
可愛らしい方ですね」
ク「そんな、お父様!
あんまりだわ」
父「私に逆らうな。
もう決まったことだ」
ク「まって。お父様、
私の話を聞いて」
父「さあ、部屋へ戻りなさい」
ク「お父様!」
部屋に戻っても、
私はパニック状態で
とても冷静になんて
なれなかった。
リ「お嬢様・・・?
いかがなさいましたか」
ク「リュウタロウ・・・!」
リュウタロウの顔を見た途端、
私の目からぼろぼろと
涙があふれ出てきた。
ク「さっき、お父様の部屋で
タカトさんっていう人に会ったの。
この人と婚約しなさいって。
お父様に逆らっちゃいけないって
言われたの」
リ「・・・」
ク「私はそんなのイヤ!
あの人、なんだか
裏がありそうだったし、
それに、それに・・・」
私はリュウタロウが
好きなんだよ。
言いたかったけれど、
その言葉は泣き声で
消されてしまった。
リ「ご主人様が
そうおっしゃるのであれば、
俺にはどうしようもできません」
ク「そんな。リュウタロウは
私がほかの男の子と婚約しても
なんとも思わないのね。
そうよね、あなたと私は
執事とお嬢様。
わがままなお嬢様を
厄介払いできて
うれしいでしょうね。
ねえ、そうなんでしょう?」
リ「俺は・・・」
ク「最低。
リュウタロウなんて大嫌い。
もう顔も見たくない。
とっとと出て行って!」
リュウタロウは何も言わず、
部屋から出て行った。
それでも側にいてくれるかと、
ちょっぴり期待していた自分が
馬鹿らしくなって、
私はクッションに顔をうずめた。
ク「リュウタロウのバカ。
なんで気づいてくれないの・・・」
*。・ リュウタロウ ・。*
リ「お嬢様・・・」
『リュウタロウなんて大嫌い』
クルミの言葉は
ずっと耳に残っていた。
わかっている。
この気持ちは一生
隠し通さなければならないと。
叶うはずもなかった。
相手は社長令嬢で、
自分は執事に過ぎないのだ。
それでも・・・
わかっていても、
抑えきれなかった。
だから、
わざと冷たくして、
距離をとっていたのに。
俺が一生懸命作った壁を、
お嬢様は
ぶち破ってしまうんだ。
タ「君がリュウタロウ君、かな?」
ふり返ると、
女子うけしそうな
イケメンの男がいた。
タ「聞いたよー。
クルミちゃんにべったりの
執事がいるってさー。
君のことだろう」
リ「あなたは」
タ「俺?
俺はクルミちゃんの婚約者。
君の大切なお姫様をくれて
どうもありがとう」
リ「あなたは本気でクルミを
想っているんですか?
クルミではなく、
池家の財産が狙いなのでは?」
タ「あたり前じゃん。
俺は次男だから、
俺の親父の会社は継げない。
だからクルミちゃんは
ちょうどいい条件つきの
商品だったんだ」
リ「クルミを
傷つけることは
ゆるさない!」
タ「へえ。
立派なナイトだね。
でもどうやって
クルミちゃんを守るの?
君はあくまでも執事。
俺たちとは住む世界が違うんだよ?」
リ「・・・それでも、
守ってみせる。
俺がクルミのナイトである
誇りにかけて、
必ず守り抜いてみせる。
そのためなら、
俺はなんだってする」
*。・ 翌日 ・。*
今日私を起こしに来たのは
別のメイドだった。
リュウタロウとは
1度も話してない。
学校で見かけたけれど、
話しかけようと近づけば、
すぐどこかへ行ってしまった。
きっと傷ついている。
大嫌いなんて、
嘘なのに。
本当は大好きなのに。
気分転換にお庭を
散歩することにした。
バラ園を歩いていると、
向こうから誰かやってきた。
タ「あれ、
クルミちゃん?」
ク「タカトさん・・・」
タ「散歩してたの?」
ク「あの、婚約の件、
断っていただけませんか?」
タ「どうして?」
ク「私には・・・、
好きな人がいるんです」
タ「あはは。
好きな人のために
俺との婚約を破棄するの?
ピュアだなあ、
クルミちゃんは」
いきなりタカトさんが
私の手を握ってきた。
ク「は、はなして!」
タ「あのリュウタロウとかいう
執事が好きなんだろ?
好きなだけ想うがいいよ。
でも、君たちは結ばれない。
結ばれれば必ず不幸になる。
どちみち俺と君は政略結婚なんだ。
俺は優しいから、
恋人の1人や2人、
許してあげるよ」
ク「何を言っているんですか。
はなして!」
タ「クルミちゃんって
強情だなあ。
そこが可愛いんだけどね」
怖くて、悲しくて、
おかしくなりそうだった。
リュウタロウ、助けて!
・・・ふいに、痛いぐらい
握られていた手が
自由になった。
目を開けると、タカトさんが
つき飛ばされていた。
その前には、怖い顔で
タカトさんをにらんでいる
リュウタロウの姿。
ク「リュウタロウ!」
リ「お許しください、
お嬢様。
お嬢様を危険な目に
あわせてしまいました」
ク「ううん。
来てくれて、ありがとう」
ほっとして、
私は泣いてしまった。
リ「失せろ。
ご主人様に全てお話してきた。
婚約はもちろん破棄だ。
さっさとこの屋敷から出て行け!」
タカトさんが出て行く。
私は思わず
リュウタロウに抱きついた。
ク「怖かったんだから・・・
さびしかったんだから・・・」
リ「お許しください。
もう2度と、お嬢様に
さびしい思いはさせません」
ク「リュウタロウ、
私ね、大嫌いって言ったけど、
あれは嘘なんだよ」
リ「よかった。
本当だったらどうしようかと
思いました」
ク「本当のわけないじゃない!」
リ「お嬢様、いや、クルミ。
俺はクルミが世界で1番大切です。
つり合いがとれないことは
わかっています。
それでも、俺はクルミが好きだ」
ク「私もだよ。
リュウタロウが1番大好き」
リ「何年かかってもいい。
ご主人様を説得できるまで、
誰とも婚約なんかしないって約束して」
ク「あたり前だよ。
リュウタロウもね」
リ「承知しました」
私たちは笑い合った。
たくさんのバラたちが
私たちを祝福していた。
*end*
池 未来実
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