3歳差の幼馴染み卒業
作者:スター
幼馴染みの悠くんは、
優しくてかっこよかった。
。・::・’°☆ 。・::・’°☆ 。・::・’°☆
ガチャッ
私の朝は悠くんに 会うことから始まる。
7時20分。 悠くんがちょうど 家を出る時間。
私、深尾あむは今、 幼馴染みの佳山悠我くんの 家の前にいます。
ガチャッ
「あむ、おはよ」
「おはよう、悠くん」
いつ見ても 悠くんはかっこいい。
私は小学3年生の時に秋田に来て、 お隣の悠くんが同じ学校だからって いつも世話してくれた。
悠くんはその時 小学6年生。
3歳も年上なのに 優しくしてくれて、 すぐに悠くんと仲良くなったよね。
私が小学4年生になって、 悠くんは中学1年生になって。
学校が違くなったのに、 お世話してくれて。
勉強見てくれたり、 一緒にご飯食べたり、 遊んでくれたり。
たっくさんのものを 悠くんから貰ったよ。
そして今、 私は中学2年生。
悠くんが行った 中高一貫校の学校に 受験して受かって 今ではもう先輩。
悠くんは高校2年生で、 こうやって毎日学校に 登校してる。
歩いて20分のところにある 私たちの学校は 東京ほどじゃないけど キラキラしていて、 毎日がすごく楽しい。
勉強は難しいけど、 悠くんがいつも教えてくれてるから 何とか大丈夫。
悠くんは来年受験なのに 勉強見てくれてありがたいな。
「でさ、翔大郎がさ」
いつもの朝の 何気ない世間話が1番好き。
「面白い先輩だね!」
「だろー! まじで、 めちゃくちゃ 面白いんだよ!」
20分の時間は あっという間で すぐに学校に着く。
「じゃあな」
「バイバイ」
手を振り、それぞれの 教室へと向かう。
中学生と高校生。
会えるは会えるけど、 悠くんとはそんなに・・・
だから朝が1番 大切な悠くんとの時間なの。
。・::・’°☆ 。・::・’°☆ 。・::・’°☆
朝、悠くんと
何気ない世間話をして
学校に登校して。
帰りは1人で
とぼとぼ帰る。
帰りも一緒ならいいのに、
と我が儘思ってしまう。
中学生は6時まで
残っていいけど、
高校生は7時まで残っていい。
悠くん真面目だから、
勉強してから帰るんだよね。
だからいつも
帰るのは7時。
私が待ってたら
勉強の邪魔になるし、
先生に怒られる。
だから帰りはいつも
1人なんだ。
だから、イヤホンに大好きな
back numberの曲を
流しながら帰るの。
『高嶺の花子さん』は
私みたいで
すごく共感できるの。
だからいつも帰りは
『高嶺の花子さん』を
聞いて帰るんだ。
。・::・’°☆ 。・::・’°☆ 。・::・’°☆
「あむ!」
ある日の休み時間。
悠くんが 私のところに来る。
「悠くん、どうしたの?」
悠くんはいつも 職員室前のスペースで 勉強してるから 最近はよく見かけるようになった。
「あのさ、この前 あむの家に行ったときに 忘れ物しちゃったんだけど・・・」
「忘れ物?」
「うん。 赤い箱なんだけど・・・」
「中に何が入ってる?」
「クリップ」
「分かった、家に帰ったら 探してみるよ。 あったら届けに行くね」
「悪いな」
「ううん」
「じゃ」
「うん、バイバイ」
そう手を振り返し、 私は友達の元へ。
悠くんは勉強に戻る。
そこには悠くんの友達も 何人かいて、見てるだけで 笑顔になれる。
悠くん、モテモテだから。
あちらこちらで 悠くんのことばっか 見てる子がいる。
でも幼馴染みは 私だけだから、 すごく特別な感じ。
。・::・’°☆ 。・::・’°☆ 。・::・’°☆
*・悠我side・*
「佳山、あの子誰?」
あむにクリップのことを
話し終わった後、
翔大郎が俺に聞く。
「あむのこと?
俺の幼馴染みだけど」
「あむちゃんって言うんだ」
「あむがどうかした?」
「いや、可愛いなって」
「ふーん」
「なぁ、
佳山も思うだろ?」
「そうかな?」
「えー、可愛いよ。
そっか、佳山はずっと
あむちゃんのこと見てきたから
可愛さが分かんないんだ」
「かな?」
「そうだよー」
やっぱ、あむって
他人から見たら
可愛いって思われるか。
「佳山は
あむちゃんのこと好き?」
「うん、まぁ
幼馴染みとしては
好きだけど」
「じゃあ恋愛としては?」
「それ翔大郎に
言う必要ある?」
「いや、ないけど」
2人して黙る。
「でも俺さ、
あむちゃんは佳山のこと
好きだと思うんだよね」
「は?」
「気づいてなかったの?
バレバレだよ!
佳山とすれ違う度に
佳山のこと目で追ってるし。
さっきも話しかけられて
めちゃくちゃ嬉しそうにしてた」
「そう?」
「そうだよー」
あむが俺のこと好き、か。
「んな訳ねぇよ。
あむは俺のこと
幼馴染みとしか思ってねぇよ」
「そう?」
「そうだよ。
もう勉強すんぞ」
「はーい」
あむが俺のこと
好きだなんて
そんなこと、あるはずない。
片想いは期待しちゃ
ダメなんだろ?
俺は期待なんかしない。
。・::・’°☆ 。・::・’°☆ 。・::・’°☆
*・あむside・*
悠くんのクリップ・・・
「あった!」
こんなところにあったんだ、 そりゃ気づかないわ。
悠くんのクリップを 手に持ち、外に出る。
今日はお父さんが出張で、 お母さんが遅くまで仕事。
だから今日は1人。
慣れてるから 別に寂しくないけど、 こんな日に悠くんの家に 行ったら寂しくなるな。
ピンポーンッ
『あむ? 今開ける』
インターホン越しに 悠くんの声が聞こえる。
ガチャッ
ドアが開き 中から悠くんが出てくる。
「悠くん、これ」
クリップを悠くんに渡す。
「おう、ありがとな」
「うん」
そう2人で笑って黙る。
「あ、それじゃ」
「あむ!」
別れを告げたとき 悠くんが叫ぶ。
「今日、あむん家 誰もいないだろ。 俺んちでご飯食ってけよ」
「え、大丈夫だよ。 急だし」
「いいから。母さん!」
そう言いながら、 悠くん家に 引き込まれる。
「なぁに? あら、あむちゃん いらっしゃい」
「こんばんは」
「母さん、 あむご飯食ってって いいだろ?」
「ええ、勿論よ! あむちゃん食べましょ!」
「いいんですか?」
「ええ!」
「じゃあお言葉に甘えて」
そう言い、靴を脱ぐ。
「今作ってるから 悠我の部屋で ちょっと待っててね」
「はい」
そう言って 悠くんのお母さんは リビングへと戻る。
悠くんが階段を上り、 私もその後についていく。
ガチャッ
久々の悠くんの部屋。
いつも私の部屋だから 何か新鮮。
「久々だな、 あむが俺の部屋来るの」
「そうだね」
「適当に座って」
「うん」
床に座り、 コートを脱ぐ。
「外寒いよな」
「もう1月だもん、 寒いよ」
そこで会話が終了する。
コンコンッ
「何?」
「悠我? お母さん 醤油切らしちゃったから ちょっとコンビニに買ってくるね」
「分かった」
「あむちゃんも お腹空いてるのにごめんね」
「全然大丈夫ですよ!」
「それじゃあ、 行ってくるから」
「うん」
そう言って 悠くんのお母さんの足跡が 遠ざかっていく。
遠くからガチャッと 扉が開く音が聞こえた。
「何かする?」
悠くんが問いかける。
「私、悠くんのピアノが 聞きたいな」
「えー?」
「聞きたい!」
「分かったよ。何がいい?」
「アラベスクがいいな」
「どっちの?」
「え、どっちのって?」
「2種類あるんだよ」
「うーんと・・・」
アラベスクの種類なんて 分からないよ・・・
「私が聞きたそうな方!」
「何だよそれ」
「違かったら言うから!」
「じゃあ・・・」
そう言って悠くんが 鍵盤を触る。
チャララララン~
「あってる?」
「あってる!」
悠くんが慣れた手つきで アラベスクを弾く。
悠くんはかっこいい。
おまけに優しくて、 頭がよくて、 真面目で、面白くて、 ピアノの才能がある。
こんな人好きになるなんて 私ってバカだな。
絶対に報われない はずなのに・・・
演奏が終わり、拍手する。
「悠くんのピアノは いつ聞いてもすごいね」
「ありがとう。 あむはピアノ弾けるの?」
「独学だけど アラベスクは弾けるよ!」
「じゃあ弾いてみろよ」
「え・・・」
「ほーら」
そう言って悠くんが 椅子から立ち上がる。
しぶしぶ椅子に座り、 鍵盤を触る。
「悠くんみたいに 上手くないからね」
「いいから」
チャララララン~
演奏が終わり 悠くんが拍手する。
「すごいじゃん」
「そう?」
「でも、ここはもっと こうした方が綺麗だよ」
悠くんが私の後ろに座り、 手を持って鍵盤を触る。
ドキドキドキドキッ
「ここは・・・」
ドキドキドキッ
「あむ?」
「え?」
「あ、わりぃ」
そう言ってパッと 悠くんが手を離す。
「本当にごめん」
「あ、ううん大丈夫」
ガチャッ
しばらくして ドアの開く音が聞こえた。
お母さんが帰ってきた。
「あ、あのさ」
悠くんが言う。
「あむは、好きな奴 いたりするの?」
「へ?」
思わぬ質問に 変な声が出る。
「い、いるよ」
悠くんだよ、って 言いたいけど言えない。
「ゆ、悠くんは?」
「俺もいる」
その瞬間、 胸がチクリと痛む。
「そ、そうなんだ」
「うん」
そして沈黙。
「ご飯出来たよー」
下でお母さんの声がする。
「はーい」
と返事し、立ち上がる。
「行こっか」
そう言って ドアの前まで歩く。
「あのさ、あむ」
「何?」
「好きだ」
。・::・’°☆ 。・::・’°☆ 。・::・’°☆
*・悠我side・*
「好きだ」
言っちまった・・・
言うつもりなかったのに、
何やってんだ俺は・・・
ほら、あむも
困った顔してる。
言ってたじゃん、
あむ好きな奴がいるって。
なのに俺は、
何やってんだよ。
「あ、わ、わりぃ。
あむ好きな奴いるもんな。
ごめん。行こっか」
立ち上がって
あむの横を通り
ドアを開ける。
後ろを振り向かず、
俺は階段を下りた。
。・::・’°☆ 。・::・’°☆ 。・::・’°☆
*・あむside・*
朝、私の頭は 昨日のことで いっぱいだった。
7時20分。 いつものように 悠くんの家の前に行く。
悠くんに昨日告白されて、 両思いだってことになって。
嬉しいけど、 私でいいのかなって思う。
ガチャッ
ドアが開き、悠くんが 中から出てくる。
少し驚いたような顔をし、 でもすぐにいつもの顔になって 「おはよう、あむ」って言う。
「おはよう、悠くん」
いつものように 何気ない世間話をして、 あっという間に20分が過ぎて 学校に着く。
「じゃあね」
と私が言い、悠くんとは 逆方向へと向かう。
「あ、あむ!」
悠くんの声に反応し、 振り向く。
周りに人はいなくて 悠くんの声が響く。
「昨日のこと、 俺本気だから!」
顔を真っ赤にして言う 悠くんを見て 涙が出そうになる。
「返事いつでもいいから 聞かせてほしい」
小さく「じゃ」と言い、 逆方向へと歩く。
その言葉が嬉しくて、 嬉しくて。
跳び跳ねそうなぐらい 嬉しくて。
でもその瞬間、 私なんかでいいのかと 不安がやって来る。
「あ、あむちゃん」
横から声がし、 そこには悠くんの友達の 翔大郎先輩がいた。
「話いい?」
それから職員室前のスペースに 連れられて、 先輩が座ると同時に座る。
。・::・’°☆ 。・::・’°☆ 。・::・’°☆
*・翔大郎side・*
「さっきの聞いてた」
「そうですか」
あむちゃんが
敬語で答える。
「あむちゃんは
佳山のこと
どう思ってるの?」
あむちゃんが
少し考え込む。
「悠くんのことは好きですよ、
大好きです。
幼馴染みとしても
恋愛としても」
やっぱりと
心の中で思う。
「じゃあ佳山には
OKって返事するの?」
あむちゃんは
首を横に振った。
思わぬ行為に驚く。
「好きじゃないの?」
「好きです。
だって悠くんは
私の初恋ですもん。
5年間ずっと片想いです」
「じゃあ」
「両思いだって聞いたとき
すごく嬉しかったですよ、勿論。
でもその瞬間、私でいいのかなって
不安になるんです」
前から佳山が来るのが
分かった。
佳山は俺とあむちゃんが
いると知って、壁に隠れる。
あむちゃんは
気づいてない様子だ。
「不安?」
「悠くんは私と違って、
頭いいし、運動できるし、
かっこいいし、優しいし、面白いし。
おまけにピアノの才能だってある。
そんな悠くんの彼女が
私でいいのかなって思うんです」
泣きそうな声をしながら言う。
「私、本当は悠くんの彼女になりたい。
だってせっかく両思いになったんだもん、
彼女になりたい。でも・・・」
「でも?」
「悠くんは来年受験だし、3歳も年上。
大学に行けば私よりいい子なんて
いっぱいいる。
だから悠くんには私じゃなくて
違う人を選んでほしい」
想定外のことに
言葉を失う。
「私の願いは
悠くんの幸せです。
だからこそ、悠くんは
私を選んではいけない」
「そっか」
「悠くんには幼馴染み以上の
感情はないって言います」
「分かった。
話してくれてありがとね」
「いえ」
涙を拭い、立ち上がる。
一度お辞儀をし、
佳山がいる逆方向へと
歩いていった。
「聞いてどう思った、佳山」
俺が言う。
「すげぇ嬉しい。
けど、めちゃくちゃ悲しい」
壁から出てきた佳山は
複雑は顔をしていた。
。・::・’°☆ 。・::・’°☆ 。・::・’°☆
*・あむside・*
私、翔大郎先輩に なんてこと 言ってるんだろう・・・
初めて喋った人に ベラベラと・・・
取り合えず、 私は悠くんに きちんと言わなきゃ。
。・::・’°☆ 。・::・’°☆ 。・::・’°☆
次の日。
何だかぐっすり
眠れた気がした。
今日なら
言える気がする。
ガチャッ
7時20分、
何度この時間に
家を出たか。
悠くんが好きで
毎日一緒にいたくて、
早起きしてお母さんに無理言って
お弁当早くに作ってもらって。
今日で私の恋心も
捨てなきゃな。
新しい恋探さないと。
ガチャッ
いつも通り
悠くんが出てきて、
おはようと挨拶を交わす。
何気ない世間話から
始まろうとしたが、
私がそれを遮った。
「悠くん、
返事してもいい?」
その瞬間、
悠くんが止まり頷く。
「あのね、私・・・」
息を大きく吸い込み吐く。
「私、やっぱり悠くんを
幼馴染み以上に見れない」
言えた。
ごめんね、悠くん。
でも悠くんは
私じゃなくて違う子を
好きになった方がいい。
「そっか、分かった」
「これからも
この関係でいてくれる?」
「勿論だよ」
それで世間話をして、
学校に着いた。
。・::・’°☆ 。・::・’°☆ 。・:*:・’°☆
年月が流れ、
私、深尾あむは
今日が中学最後の日。
悠くんとは
今も仲良しだよ。
今日で悠くんとは
最後の登校日だから、
すごくゆっくり歩いてる。
20分で学校に着かないように、
ゆっくりと。
「悠くんは大学、
どこ行くんだっけ?」
「東京の新潮大学」
「そっか、東京か、
秋田からだと遠いね」
「遠いな」
「うん」
「今日でこの道も最後だな」
「そうだね」
「あむ、俺がいなくて
寂しくなるなよ~(笑)」
「ならないよ~(笑)」
2人で笑い、
それから悠くんが話す。
「あむ」
「何?」
「これ、やるよ」
そう言い、悠くんは
ポケットから何かを取り出し
私に渡す。
「何これ?」
そこにはボタンがあった。
「俺の第2ボタン」
「え?」
「俺、あの頃と気持ち
変わってないよ」
悠くんが
私の目を見て言う。
「俺、あむと翔大郎が
話してるの聞いちゃったんだ」
「え・・・」
「あれはあむの本心じゃ
ないんだろ?」
悠くん、聞いてたんだ・・・
「俺はあむの本心を聞きたい。
あむの本当の気持ちを知りたい」
「私は・・・」
「うん」
「私は悠くんのこと好きだよ。
大好きだよ。
幼馴染みとしても恋愛としても」
「うん」
「だから両思いだって
知ったときすごく嬉しかった。
でも私が彼女でいいのか
不安になった」
「うん」
「悠くんはかっこいいし、
頭良いし、優しいし、運動できるし。
漫画から出てきたみたいな子で
私はその幼馴染みで。
でも私は悠くんみたいに
ピアノの才能もなければ、頭も良くないし、
運動もそこそこ出来るくらいで
悠くん程じゃない。
私には何にもない。
悠くんの彼女として相応しいものが
何にもない」
「相応しいとか相応しくないとか
そんなのどうだっていい。
あむはあむなんだよ。
俺は俺、あむはあむ。
そんなんで好きの気持ち我慢したら
損するよ」
「うん」
「あむは俺にないところを
沢山持ってる」
「え?」
「あむには人を和ませる才能がある。
それは俺には出来ない。
人がどんな気持ちであろうと、
あむは人を和ますことができる」
「うん」
「あむ、俺はあむが好きだよ。
あむは?」
「私も・・・」
「うん」
「私も悠くんが好き」
「俺が東京に行っても
待っててくれる?」
「うん」
「他に好きな奴作んない?」
「悠くんこそ」
「俺は作らない、絶対に」
「私も作んない」
しばらく沈黙があって、
それから2人で笑って。
「あむ、おれの彼女になってくれて
ありがとう」
「こちらこそ、ありがとう」
「最高の卒業式だよ」
3歳差の幼馴染み、
やっと卒業できた。
*・end・*
深尾 あむ
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