私だけの、サンタさん。
作者:ちむ
「クリスマス」
それは、私、加藤サキが
1番好きな行事。
クリスマスになると、
街がキラキラにあふれるし、
子供たちがプレゼントを
買ってもらって、
うれしそうな表情が見れるし・・・
とにかく、
私はクリスマスが好き。
そして、「サンタさん」。
私の憧れの王子様。
え? なんで男だって
決めつけるって?
だって、かっこいい人は、
みんな紳士でしょう?
*。・ 12月中旬 学校 ・。*
「みーなみ!」
ふわふわした声で
私の名前が呼ばれた。
この声は――。
振り返らなくても
分かった。
「りみちゃん!」
この子はりみちゃん。
めっちゃ美人!
お人形さんみたいで
うらやましい。
そしてね、私の自慢の
「親友」なんだっ。
「そういえば、もうすぐ、
クリスマスだね」
「うん! そうなの!」
別に私のことじゃないんだけど、
そういう口調になっちゃう。
「みなみ、クリスマス
好きだよね?」
「大好きだよ、
クリスマス!」
大きくうなずくと、
りみちゃんが「あはは」と
控えめに笑った。
「そんなに好きなんだね。
でも、どうして?」
りみちゃんが
首をかしげながら
聞いてくる。
「だって、クリスマスは
特別な日なんだもん!
それに、サ・・・」
サンタさんがいるしね!
と言おうとしたけれど、
慌てて口を閉ざした。
あぶない、あぶない。
「ん?
それにどうしたの?」
「ううん、
なんでもない」
りみちゃんは優しいから
それ以上は追及してきたりは
しなかった。
よかった、
りみちゃんが優しい子で。
キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴って、
りみちゃんは隣のクラスに
帰ってしまった。
りみちゃんを見送っていると、
クスクスと
笑い声が聞こえてくる。
その声の主は、
宮本さんだった。
「田中さん、
サンタさんがどうしたの?」
わざとらしい口調で
聞いてくる。
「え、えっ?
サンタさんなんて
言ってないよ?」
あきらかに、
ウソだってバレるウソ。
それは宮本さんにも
お見通しだったようで、
「へえ?」
と笑っている。
(ふん、バカにしないでよっ)
心の中で私は
悪態をついてから
自分の席に座った。
わかっている。
サンタさんは
いないってことぐらい。
わかっているけれど、
私はどこかで
いるんじゃないか、
とわずかな希望を
抱いてしまっている。
そりゃあ、
宮本さんだって、
バカにしたくなるよね。
そうやって、私は
自分に言い聞かせるしか
ないんだ。
*。・ 放課後 ・。*
私は、りみちゃんのクラス・・・
ではなく、
違うクラスの前にいた。
このクラスに
待ち合わせている人がいる。
(まだかな・・・)
そう思った瞬間、
扉が開いて、
一目散に男子が
駆け寄ってきた。
「ごめん、待った?」
「ううん、大丈夫だよ」
この男子は、
私の彼氏の、
紀田なおや。
なおやも、
りみちゃんに負けず、
めっちゃカッコいい。
だから時々、不安に
なっちゃったりもするんだ。
「なあ、知ってる?」
当然だけど、私は
「知らないよ」と笑う。
「今年は
イルミネーションが
駅前にできるらしいぜ」
「え?
イルミネーション!?」
思わず、
息があがった。
私の田舎にも、
イルミネーションが
ついにできるんだ!
そう思うと、
テンションが上がっていた。
「行きたいだろ?」
「うん、
行きたい、行きたい!」
「じゃあ、
イルミデートってことで」
いきなり決まったけれど、
なおやとなら全然大丈夫。
だから私は「うん」と
うなずいた。
それから、私は
イルミデートに向けて
服を買ったり、
メイクの練習をした。
*。・ そして、当日の12月24日 ・。*
私は待ち合わせ場所にいた。
(なおや、遅いな・・・)
いつもなら私より
先についているなおやが
今日はいない。
しかも、待ち合わせ時間は
とっくに過ぎている。
不思議に思っていたら、
メールが届いた。
(なおやだ!)
・・・・・・・・・・・・・・・・
件名:ごめん。
熱が出ていけなくなった。
本当にごめん。
連絡も遅れてごめん。
・・・・・・・・・・・・・・・・
しばらくの間、
私は呆然としていた。
あとから、じわりと
頭が動き出して、
内容が読み取れてくる。
なおやは熱が出た。
だから
今日のデートは中止。
(なに、それ・・・)
よくわかんない。
悲しいのか、
怒っているのか。
目から涙が出てきて、
周りの人の視線が
集中しはじめる。
私は、走って、走って、
家に帰った。
*。・ 12月25日 ・。*
大好きな日。
だけど、今年は
憂鬱でたまらない。
ソファーで
横になっていると、
インターホンが鳴った。
(誰かな?)
慌てて出ると、
そこにいたのは――――
「なおや!?」
なおやが
そこにいたのだ。
「え、ね、熱は?」
「もう大丈夫」
戸惑っていると、
なおやが「みなみ」と
私の名前を呼んだ。
「昨日は本当にごめん」
そう言うと、なおやが
大きな袋をすっと
私の前に差し出してきた。
「なに?」
ピンクの大きな袋。
フリルのリボンが
かわいい。
「開けてみて」
いわれるがままに、
私は開ける。
入っていたのは、
くまのぬいぐるみだった。
「わあ、かわいい!」
大きな声でそう叫ぶと、
なおやは嬉しそうに
「だろ?」と笑った。
そして、こう言った。
「なおやサンタからの、
特別プレゼントだよ。
昨日はマジでごめん。
これで許してくれますか?」
その言葉に
私は思わず
泣いてしまった。
そして、「うんっ!」
とうなずき返した。
(私だけの、サンタさん、
大好き!)
*end*
加藤 咲希
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