消えない花火
作者:あい
どうしよう・・・
私、野崎奈菜。
私立ニコラ学園
中等部2年生。
普段の私からは
想像できないくらい、
今テンパっちゃってて・・・
固まる私に
「どうかした?」って
優しく声をかけてくれたのは・・・
リュウタロウ。
小学校も同じだった、
幼なじみ。
偏差値の高いニコ学に
頑張って入れたのは、
リュウタロウと同じ学校に
どうしても行きたくて
がむしゃらに
勉強したからなんだ。
容姿端麗、成績優秀。
だけどちょっと運動オンチで
鈍感なのがまた、
モテる要素なのかもね。
小学校の途中まで、
私たちはとっても
仲良しだった。
周りから冷やかされても、
友達だからって
気にしてなかった。
そんな平和な関係が
続けばよかったのに。
ずっと・・・
小6の夏、
もうお互い受験だし
遊べないから、
最後に思い出作ろうって
2人で夏祭りの花火を
見に行ったんだ。
浴衣を着て、
普段なら絶対しない
お団子のアップヘアにして・・・
今思えば、
きっとこのときから
もう意識してた。
でもときどき
頭に浮かぶ
「恋」って文字と
「リュウタロウ」って人を
結びつけないように、
必死になってた。
この関係が、
壊れるのが怖くて。
リュウタロウは
顔を赤くして、
「今日の奈菜、
かわいい」
って言ってくれた。
私はそれが嬉しくて、
でもそれを
悟られたくなくて
うつむいた。
「ありがと」以外
言えなかった。
花火はすごく
綺麗だったけど、
儚く消えてしまって
なんだか切なかった。
何発も何発も
打ち上げられていたのに、
あっという間に
終わってしまって
物足りなかった。
リュウタロウも
同じ気持ちだったのか、
「ね、線香花火しない?
公園でさ」
と誘ってきた。
「いいね、どっちが
長くつけてられるか、
競争しよ」
と誘いに乗って、
私たちは2人で
広場をあとにした。
家の近くの公園に、
どれくらいいただろう。
私はどうしても
花火の火を
すぐ落としてしまって、
花火がいつまでも
ついている
リュウタロウに
勝てなかった。
負けず嫌いな
私の性格を
知っている彼は、
微笑みながら
「どう?
まだやる?」
と挑発してくる。
・・・私はリュウタロウには
勝てない。
でも、勝てるまでやめない。
それを知っている
笑みだった。
「絶対勝てないじゃん。
こうなったら
勝てるまで
やるしかないね」
というと、
リュウタロウは
「ほら、こうやって、
手首を傾けて・・・」
といいながら
私の手に手を重ねた。
どきっとした、
その瞬間。
熱い、と痛い、の
どちらが先だったのか
わからない。
私の方に意識を向けすぎた
リュウタロウの
持っていた花火が、
私の腕に当たった。
・・・全治、2か月。
消えない傷が
できてしまった私に、
リュウタロウは何度も
ごめんって言った。
もう近づかないとも。
私の親にも頭を下げて、
ずっと私の心配を
していてくれた。
・・・そんなリュウタロウを、
好きになっちゃったんだ。
そのあと、2人きりで
過ごすことはなくなった。
彼はあのことを
ずっと引きずっている。
そんなのわかってた。
なのに私はまた
リュウタロウと
同じ学校に通ってる。
思い出させちゃうって
わかってるのに。
・・・あの傷は、
腕の外にできたから
今もときどき
曲げ伸ばしをすると痛む。
荷物を運んでたとき、
ふとした拍子に引きつって
痛かったから
箱ごと落としちゃったんだ。
よりによって、
リュウタロウの前でね。
どうしよう。
迷っているうちに、
リュウタロウは
しゃがみ込んだ私の手を
とって立ち上がらせ、
私が運んでいた荷物を持って
「これ、
どこまで運ぶの?」
と聞いてきた。
いつものニコニコ顔が、
少し引きつっている。
やっぱり私のそばじゃ
楽しくいられないんだろうな。
わかりきっていたけど・・・
なんとか「美術室まで、
その中に入ってる材料を
運ぶように言われた」
と伝えると、
「わかった。
俺が運ぶから、
奈菜も来て」
って。
どうして、私も・・・?
階段を上りながら話した。
・・・あの夏祭りの日のこと。
「あの傷、まだ
やっぱり痛むのか」
「もうほとんど平気だよ。
たまにつっぱるだけ」
「俺といたせいで、
こんなことになって・・・
何度謝っても、
謝りきれない。ごめん」
「謝らないで、あの日私
すごく楽しかった。
忘れられない、
いい思い出だし・・・
そのあともずっと
リュウタロウと
仲良くしてたかった」
言うあいだに、
気づいたら
涙がこぼれてた。
「泣くなよ。
・・・あのな」
「ん?」
「俺、あの日
言いそびれたことが
あるんだ」
まさか・・・
私はそんなはずないって
思いながら、
期待で胸が
ドキドキするのを
抑えられなかった。
「俺な、ずっと
奈菜のこと
好きだったんだ」
「え・・・」
「でも、俺のせいで
奈菜は怪我した。
一緒にいたら
ダメなんだと思ったし、
俺のこと許してくれるはず
ないのに図々しいって。
だけど・・・それだけ、
言いたかったんだ」
いつのまにか
美術室まで来ていた。
リュウタロウは
荷物を置いて
「じゃあ」
というと足早に
下りていってしまった。
あまりに突然で、
私はちゃんと答えることも
出来なかった。
嬉しいよ、
私も大好きだったんだよって・・・
無意識に走り出してた。
7月は蒸し暑くて、
汗が額を伝う。
2Cに着くと、昼休みの
誰もいない教室で、
リュウタロウは1人座ってた。
「・・・リュウタロウ」
こっちを向いた
リュウタロウに向かって、
私は必死に言葉を絞り出した。
「あのね・・・私も、
リュウタロウのこと好きだよ。
大好きだよ。
だから・・・また2人で、
線香花火、しよう?」
言えた。
思ってたこと全部。
そう思ったら嬉しくて、
私は久しぶりに
にっこり笑えた。
リュウタロウが微笑んで
近づいてくるのを見て
湧き上がってきた気持ちに、
「これが恋・・・なのかな」
と思った。
それはいつまでも
消えない花火が
心に灯ったみたいな、
あったかい気持ち。
*end*
野崎 奈菜
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