私、ヲタク、そして君
作者:なーなな
ヲタクである限り
恋をしてはいけない。
バカにされるだけ。
そうやっていつも、
恋に恋する私は
諦めてきた。
ううん。
諦めてきた訳じゃない。
逃げてきていたんだ。
・*・―――・*・―――・*・
こんにちは。
田中ミナミです。
空が青い。
まるで、
ヨシトくんが出ていた
『青春』っていうドラマの
空みたい。
とても綺麗で、
この景色を見ながら
いつも、いつも
図書委員の仕事をする。
カナミ「やっほー!
やっぱりまた空見てる!」
後ろからヲタ友の
カナミがきた。
カナミはとても可愛くて、
眼鏡でお下げの私とは
違いすぎる。
そんなカナミとも、
私がヨシトくんの
ヲタクをしていなかったら
友達になれてないはずだ。
ミナミ「相変わらず元気だね」
カナミ「もっちろーん!!
だって昨日、
レオン様のNEWソロシングル
届いたんだよ?
テンション高いに
決まってんじゃん!!
ミナミはまた空見て
ヨシト君のこと
考えてたんでしょー!」
レオン君とヨシト君は
今話題の歌い手グループ、
【ニコメン】のメンバー。
ミナミ「うっ、、、うん」
カナミはこんなに
推しのことを様呼びしたり、
大声で推しを公言するようなこと
言わなければ、
とっくに彼氏だって
いるんだろうな。
だって、ヲタクは
いつでも嫌われてる。
男の子から恋愛感情を
持たれている女の子なんて
たかがしれている。
ヨシト君が主役をした
アニメだって
ずっとそうだった。
ヲタクはいつも端っこにいて、
キモイと罵られて、
恋をするだけで笑われてきた。
でも、そんなヲタクが
報われるものを
見たことがない。
いつだって
報われるのは
主人公の真っ直ぐな
ごく普通の女の子。
相手になんか
されないんだ。
それが怖くて、
私は恋なんかしない。
恋したい、
そう思うけど、
今のままで
充分幸せなんだ。
自分に言い聞かせる。
気持ちが
落ち着くように。
恋愛なんて出来ないって
自分に言い聞かせるために。
カナミ「ミナミ?
聞いてるー?」
急に聞こえた
カナミの声に
ビックリする。
ミナミ「ごっ! ごめん!!
ぼーっとしてた!」
カナミ「大丈夫?
私もう部活の時間だから
行くって話!
ミナミも委員会
頑張ってね!」
ミナミ「うん。
頑張って!」
そういい、
手を振っていると
カナミの姿は
見えなくなった。
カナミはレオン君の曲が
弾けるようになるために、
吹奏楽部に入ったらしい。
私も頑張らなきゃ。
そう思い、本を
棚に返す作業を始める。
手に取った本には、
「ヲタクに恋は難しい?!」
とあった。
その題名を読んだ瞬間、
私はカッとなった。
分かってるよ。
それくらい。
出来ないんだよ。
静かにその本を
棚に返そうとした
その瞬間だった。
??「その本!
借りたいです!!」
ミナミ「??!」
そこにはイケメンが
立っていた。
本を持った方の
私の腕を掴んで。
ミナミ「えっ?!」
思わず
手を引っ込めた。
??「あっ! ごめんなさい。
あの、図書委員の方ですよね?
その本借りたいです!」
ミナミ「あっ、どうぞ!」
??「あー良かった!!
いつ来てもなかったんですよ!
毎日毎日放課後
この時間に来てもないから、
諦めかけてたんです!」
ミナミ「その本。
そんなに好きなんですね」
??「そうなんですよ。
映画でも話題だし、
1回読んでみたいんですよね」
ミナミ「そうなんですね」
会話がぎこちない。
と言うか、
私が男子と話したのなんて
いつぶりだろう。
1年、、、
いやもっと前かもしれない。
ミナミ「そんなに見たい本と
出会えるって幸せですよね」
??「分かりますか?!
その瞬間
嬉しいですよね!!」
ミナミ「分かります。
本を読むことが
好きなんで、、、」
??「もっと話したい
ところなんですが、
部活があるので失礼します!
また話したいです!」
ミナミ「えっ、
ああはっはい、、、」
嘘じゃん。
もう行くの?
もっと話したい。
あなたのことを知りたい。
でも、そんなことも
言えなくて、
彼の笑う
嬉しそうな横顔と、
振り続けるすらっと伸びた
彼の指を交互にみて、
私も手を振り返す。
心臓がおかしい。
変に弾むような、
鼓動が早いような、
ドキドキの音が
聞こえてくるような、、、
そうだ、
そうなんだ、、、
これが恋なんだ。
しまって置かなければ
いけない気持ちなんだ。
いや、こんな図書室で
あっただけなのに、
長く続くはずがない。
これは一時の
感情なんだ。
明日には、
もう忘れているんだろう。
そう信じていた。
好きだけど、
無理だから。
分かっているから。
・*・―――・*・―――・*・
次の日。
カナミと話していた。
話題はもちろん推し。
カナミ「レオン様の
NEWシングルの
ここのフレーズ
聴いてほしすぎる!
やばいんだよ!」
カナミは
今日も楽しそう。
だけど、
私は彼のことが
気になった。
ずっとずっと
気になって
仕方なかった。
でも、
そんなことを思う度に、
名前も知らないんだ。
どうせすぐ終わる。
私はヨシト君のことが
好きなんだから。
と次々に言い聞かせた。
ココハ「田中さん!
戸部が呼んでるよ!!」
急に学年でカナミと
twoトップの
阿部さんに呼ばれて
びっくりした。
カナミ「戸部? 誰それ?
ニコメンに
そんな人いないよね?」
ミナミ「私もわからないけど、
ニコメンの人ではないでしょ。
この学校にいたら
カナミ発狂してるでしょ」
カナミ「まあね笑笑
それより、
早く行かなきゃ!」
ミナミ「うっ! うん!!」
私は少しだけど、
期待していた。
あの時の
彼なんじゃないかって。
戸部くん。
君が昨日の彼?
それならば
早く会いたいよ。
そんな気持ちが
どんどん宿ってくるとともに、
歩くスピードも早くなってきた。
廊下に出た瞬間、
私の視線の先にいたのは、、、
昨日の彼だった。
ミナミ「昨日はどうも、、、」
会えて嬉しいはずなのに、
思うように言葉が出ない。
戸部「こちらこそ!!」
ミナミ「どうしたんですか?」
戸部「えっと、、、
そのですね、、、、
ごめん、
女子と話したこと
ほとんどないから、
こうやってなると
やっぱり緊張する!」
ミナミ「とっ戸部くんの
ペースでいいよ!
私も男子と話すの苦手だから。
って言うか、昨日はあんなに
普通に話していたのに、、、」
そういって、
彼の顔を見ると、、、
とても驚いていた。
ミナミ「ドッ
どうしたんですか?」
戸部「いや、好きな子から
いきなり名前で呼ばれて、
焦っているというか、、、」
ミナミ「そうなんで、、、
ってえ?!」
戸部「えっ! まって
言っちゃった? 俺!
やばい!!
やっぱり今のなしで!!」
ミナミ「なし、、、?」
一瞬だけ浮かれた自分が
恥ずかしくなった。
そうだよね。
両思いなんて、
私にあるわけないんだから。
戸部「いや、ウソ!
ありだよ!!
好きだよ、大好きだよ!?」
戸部くんはそういった後、
急に顔を下に向けた。
耳まで真っ赤に
なっている。
そうやって
彼を見ていると、
急に真面目な顔をして、
こっちを見た。
戸部「だから、、、
付き合って欲しいです」
戸部くんは
そう言って
頭を下げた。
私の返しは、
決まって、、、
ミナミ「私も好きです!
付き合ってください!」
ヲタクに恋は
無理じゃなかったんだ。
こんなに大好きな人と
結ばれるんだ。
静かに、
そしてじっくりと、
それを感じた。
戸部「良かった。
じゃあこれからも
宜しくお願いします!」
ミナミ「うん!」
いや、まだ
隠していたことが
あるんだ。
私がヲタクってこと。
知られたくない。
全身の血の気が
引いていくことを感じた。
そうだよね。
彼は私をヲタクだって
まだ知らない。
彼ならば、
知った瞬間
戸惑うだろう。
それが怖くなった。
言いたくない。
彼にだけは
知られたくない。
その瞬間、彼は何かに
気づいたような表情をして、
こう言った。
戸部「俺、ミナミちゃんのこと
前から知っていたんだ。
図書室で優しい笑顔を浮かべる
ミナミちゃん、
友達と話している時の
あの楽しそうな顔、
いつしか本じゃなくて、
君に会いに来ていたんだ。
だから、ミナミちゃんが
大好きな歌い手さんがいるってことも
知っているんだ。
でも、それを悪いとは思わないよ。
何なら、好きなことがあって
とっても良いことだと思うよ!」
戸部くんは、
優しい笑みを浮かべて
言ってくれた。
とても嬉しかった。
私は彼のことが
大好きだ。
本当に、
大好きだ。
ヲタクに
恋は難しいなんて嘘。
そんなヲタクも
すべて受け入れて、
それでも愛してくれる、
それが本当の運命の人
なんだろう。
*end*
田中 南
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